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takibi INT. 平向早香さん(みと森のようちえん にじいろ 園長)全文

2021年に一部公開した、平向早香さんのインタビュー。「みと森のようちえん にじいろ」を始めて、いろいろなことに迷いながら一生懸命な姿が印象的でした。そんな早香さんは2022年の今、その迷いから抜けて次のステージにまっすぐと目を向けています。次のステージに移るその前に、2021年のインタビューを全文公開させていただきます。

みと森のようちえん にじいろ とは(facebookinstagram
野外保育の認可外保育施設。2018年7月から親子活動としてスタート。2019年9月に週3回の預かり保育を開始し、2020年4月からは週5回に。2020年8月には認可外保育施設として無償化の対象となる。2022年には「大人の森のようちえん わくわく」も開始。北海道で馬との時間を過ごしたことをきっかけに、森の小学校「rainbow school」の立ち上げを目指す。

森のようちえんとは、屋外で幼児教育を行う運動や団体のこと。北欧の発祥とされ、2022年8月現在、日本全国で200団体以上が森のようちえん全国ネットワーク連盟に入会している。

平向早香さん
茨城県坂東市出身、水戸市在住。4児の母。幼少期は坂東市の里山でのびのびと過ごす。小さい頃から幼稚園の園長を目指し、自身が育児をしているタイミングで「森のようちえん」を知る。その後、水戸に定住が決まると同時に水戸で森のようちえんを始めることを決意し、実行する。
(STAND FM「子育てと自分育て」 ※毎週日曜あさ6時半から)



【0】プロローグ

この日は小雨が降る真冬。焚き火の温かさのなか、元々友人関係にある早香さんと私のゆったりとした時間が始まります。フォトグラファーatacamakiさん(以下 a: )も、自然の中に暮らす人。森にはカラスの声が響きました。

a:・・・シートン動物記の中に、カラスの言葉はこうだっていう譜面みたいなのがあって、同じリズムで「カー カー カー カー カゥ」って鳴くのは「危険だ、逃げろ」って
早香:え~、楽しい。なにそれ
a: ただ、シートンが調べたのは日本のカラスじゃないので
早香:そう考えると4回鳴くかも。
「にじいろ」のフィールドの上にトンビがよくいて。その農場のおじちゃんがこの間、トンビを見つめながら笛みたいなのを吹いて。そしたらトンビが下に降りて来て、「え、すごい」って。「おじちゃんすごい」って改めて尊敬が増しました。
a: ルールを覚えると会話できますよ
早香: そうなんだ。じゃあ、あれはやっぱり会話だったんだな

Q: さて、芋もセッティングできたし、しゃべっか
a: しゃべっか。
早香: しゃべっか。

冬には毎日「にじいろ」で焚き火をする早香さんは、焼き芋名人。この日の焚き火にも、お芋は欠かせません。

【1】 森のようちえんにじいろの「種」

たっぷりとした自然に育まれ

Q: 今まで友達として色んなことを話してきたけど、「にじいろ」に対する気持ちはあまり聞いたことがなかったなと思って。そもそも、さやちゃんが自然を好きな理由っていうか、小さい頃ってどうしてたの?
(普段「さやちゃん」と呼んでいます)

早香:
 育ったところが田舎だったから、小学校の頃はおじいちゃんに「裏山掃け」って言われて掃いてたりとか。とにかく敷地が広いのよ、家の。母屋があって、一軒家みたいな物置があって、3棟くらいある。裏に行くと柿の木が10本、梅の木も5~6本生えていて、さらに裏には竹やぶがあって。それはうちだけじゃなくて、隣もその隣も、もうそれが当たり前だったの。
Q:そうなんだ
早香: そう、それが日常で。春になれば花が咲くし、夏になれば木陰ができるし、秋になれば落ち葉がすごい落ちるし、冬になれば裸の木がたくさんになるし、っていう。常に四季を感じられる環境にいたっていうのは根っこにあるかな。改めてそれを考えたことはなかったけど。

Q: 出身はどこだっけ?
早香: 坂東市の猿島。おじいちゃんは農家で、田んぼもやってたし畑もやってたし。おじいちゃんおばあちゃんとか、隣近所のおじいちゃんおばあちゃんが作った野菜を食べて育って。だから結婚してから野菜を買うことにめちゃくちゃ抵抗が・・・って、煙大丈夫?(笑)
Q:まじめに聞いてるよ!
早香: 涙出てる(笑) だから野菜を買うことに初めはめちゃくちゃ抵抗があった。だって野菜買ったことないもん。そんなところに育ったから。

「子ども×自然」というすごさに気付く

Q:「あの環境素敵だったな~」って振り返ることはある?
早香:もちろん。新社会人として保育園で働き始めて、子ども達を自然の中で遊ばせ始めた時に、「え、自然ってすごくない?」って思ったの。さしま保育園っていう、自由保育でお寺が運営してる園なんだけど。毎週水曜日に年長さんがお寺で礼拝(らいはい)をする時間があって。その時に理事長先生(住職)が「ちょっと境内で遊んでいけば」って言ってくれて。「いいんですか」って、毎週遊ぶようになったのがきっかけ。

すごい広い敷地で、高低差もあればデコボコ道もあって。とにかく人が作ったものではない自然の中で子ども達が遊ぶようになったのね。そこから遊具とか平らな地面で遊ぶのとは全く違う動きだったりとか、成果っていうのかな、大人の言い方で言うと。そういうのがすごく見えてきて、「自然ってすごいんだな」って改めて思ったの。ケガが減って絆創膏もあまり減らなくなって、「え!」って思って。それで「あ、自然ってすごいんだ。こうやって子ども達と関わる上で」って。

Q:そこなんだ
早香: そこ。だからあの時、理事長先生とか園長先生が「早香先生がやりたいことをやっていいよ」って言ってくれなかったら、今の私はいないと思う。

あとやっぱり大人になってからも、実家の自分の部屋の窓から裏山を見るのがすごく好きで。そうすると心が安らぐっていうか。だから今も実家に帰って、ふと窓を開けて外を眺めたりするんだけど。それだけで心が元気になるっていうのを実体験として持っていて。だから幼少期の記憶って大事だなっていうのを思っていて、今に繋がってたりするんだけど。そうそう。

Q:保育士さんになった時点では、自然を意識してなかったってことか。そんなこと、しみじみ聞いたことなかったなぁ
早香:そうだね、なかなか話さないよね、そこまでは。
Q:焚き火パワーだね
早香:焚き火パワー

Q: 自然が好きになった一番の理由はそこってことか。
早香:そう。なんて言うの、元々体の中にあった部分が体験として蘇ってきたっていうか。体の中にはきっとあったんだよ、ずっと。それを当たり前のことではないんだって思えたのが、保育士になってからっていうか。言葉とか体験として改めて感じちゃったんだよね。自分が育ってきた環境、そこに繋がっていった。
Q: 「豊かだったんだな、あれ」みたいな
早香: そうそうそうそう

【2】「森のようちえん」を初めて知る

一人のママ友が、八郷へと繋いでくれた

Q: その気付きがあった上で「森のようちえん」を知った衝撃はすごかったんだろうな、と想像してて。「森のようちえん」って概念とは、どこで出会ったの?

早香: 結婚して2人目を出産して、石岡の社宅に住んでたのね。その時に子育て支援センターで出会った一人のママがいて。あまりしゃべらなくても、インスピレーションで何かをすごく感じる、みたいなのをお互い感じて。で、連絡先を交換して改めて遊んだ時に、私が「実は自然のなかで幼稚園とか保育園とかをやりたいと思ってて」って話したら、「そういうのを立ち上げる人達がいるんだけど、紹介する?」って言ってくれて。

それが、「やさと森のようちえん あおぞら」(※2021年から全年齢型で遊んで学ぶ「やさと あおぞら♪」に方針変更)を立ち上げた、菊池真由美さんと藤田陽子さんだったの。真由美さんは今は山口県にいるんだけどね。真由美さんは元々は小学校教師なんだけど、学校の教育に疑問を持ってて、子どもをいかに伸ばしていくか、子どもの個性をいかに大切にするかを大事にしている人で。その真由美さんが「もういいや、自分の娘と2人で野山を歩いて、森のようちえんをやっちゃおう」っていうところに、陽子さんが「なにその素敵なやつ」って賛同して、2人で始まったっていう。
Q: そうなんだ
早香:だから「あおぞら」の元々の代表はその真由美さんっていう人で。陽子さんも同志みたいに思ってる人で。その2人との出会いが、今の私を作ってると言っても過言ではないくらい。そうそう。

実はずっと、「園長」になりたかった

Q: その時はもう、さやちゃんは「森のようちえん」のことは知ってたの?
早香:「森のようちえん」自体はあまり知らなくて、「自然と子どもが直接関わる幼稚園をやりたい」っていう気持ちだったの。そこでたまたま繋がったのが、八郷での「森のようちえん」だったっていう。

Q: すごいよね、その時点で「そういう就職先を探すぞ」ではない。
早香: そうだね。なんかそもそも、私が新人で保育園で働き始めた時、園長先生に「私は将来、園長になるのが夢なので」って言ってたらしくて(笑)
Q: 最初に?
早香: そう。「私は将来園長になります。なりたいんです」って話をしてたって言ってた。「私そんなこと言ったっけ」みたいな。全然記憶に無いの。

Q: その頃を思い返してみると、確かにそうだったかもと思う?
早香: いずれ自分の園を作りたいっていうのは、あった。
Q: なんでだろう?自然と子どもの良い関係を認識する前だよね、それ。
早香:やっぱり自分のやりたい保育をやりたかったのかな。小学1年生くらいからずっと保育士になりたいと思ってたの。隣の家の子の面倒を見てて、周りの大人にめちゃくちゃ褒められたんだよね。「早香は面倒見良いな」とかすごい言われて。私もこういう性格だから「あ、そう?」なんて言っちゃって。

あと、その子が私に対して心を開いてくれたり、そういう面白さを感じたんだろうね。だから新人保育士の時、めっちゃ性格が悪くて嫌いな先輩がいたんだけど「絶対この人のためになんか保育士は辞めない」と思って辞めなかった(笑)。「なんでこんな人のために辞めなきゃいけないんだ、やってやるぜ」的なのが。

Q: そのさやちゃんという人物の面白さもあるなぁと思っててさ。…あ、お芋食べながらでいいよ

早香さんが焼きやすい小さなお芋を持ってきてくれたので、もう焼けてきました。

もぐもぐタイム

Q: 割ってみて
早香: 絶対おいしい。
Q: 焼き芋マスターの威厳にかかわるよ(笑) 失敗することもあるの?
早香: それこそ最初は失敗ばかりでしたよ。ええ。もう全部炭とか。でも今は大丈夫。
Q: 感覚が研ぎ澄まされたんだ
早香: そう。めっちゃ研ぎ澄まされてる。

ぱかっ

Q: いもー!
早香: (笑) 最高でしょ。はい。

早香: makiさんも食べてください。これとかいいと思う。
a: 食べ物に対しての敬意はその場でいただくことですから。今いただきます。
早香: もちろんです。あったかいの大事だもん。

早香:おいひー!
Q: うまい。
早香:うま。私のポイントとしては「ちょっと焦げてんじゃない」くらいの焼き加減が好き。焼き足りないくらいはちょっと違うんだよ。
a: すごく焦げてはいないので、とっても良い。
早香:大丈夫ですか。ありがとうございます。うれしー!
a:
久々にこんな声でかい人に会います。なかなか自分以外で声のでかい人にそんなに会わない。
早香:うける。

Q: うま。
早香:うまいね
a:すごくうまい。かなり上手な焼き芋です。
早香:うれしい。

焼き加減100点のお芋を食べて、話は続きます。

子育て観がアップデートされる

Q:「森のようちえん」と出会ってみてどうだった?
早香:八郷で「森のようちえん」と出会って、私も親子で参加しはじまって。親も子も何のしがらみも無くっていうか、自然の中で遊び込む。特に何かで遊ぶとかじゃないんだよね。遊具で遊ぶわけでもなくて、ほんとそのへんにある木だったりとか石だったり動物だったり、草だったり。ってやっているなかで、「え、私が今生きてる子育て環境って、めちゃくちゃ苦しいかも」みたいに思って。そこからちょっとずつ私の子育て観が変わってきた。

Q: その時は2人目を育てていたんだ
早香:うん。社宅だったから、「家族はこうだ」とか「子どもはこういうものだ」とかって、周りの人の価値観のなかでの息苦しさが少なからずあったんだよね。そこに違和感を感じてたのもあって、「あおぞら」にうまく逃げ道っていうか自分の癒しを求めてた部分もある。だから「森に住みたい」ってすごい思ってた。
Q: 森に住みたい(笑)
早香:そう。ほんとに息苦しさがあった。同調圧力っていうか。例えば、周りと違う幼稚園をを選んだのはうちだけだったのね。でも私はそんなの全然へっちゃら、みたいな(笑)。「別に自分の好きな幼稚園に行けばよくない?」みたいな気持ちがすごくあって。

だから「森のようちえん」と出会って、やっぱり元々自分が持ってた感覚に従って生きてくことに、「あ、やっぱりこれでいいんだ」みたいな感じがした。「自然のなかでの保育ってやっぱりあるんだ」みたいな。「あ、これでいいんだな」って進んで行った感じ。なんか求めていたものがどんどん手に入っていって、「やっぱりそういう流れだったんだな」って今になって思う。

「自分は自分でいい」と思える根っこ

Q: 同調圧力を気にしないで、へっちゃらでいられたのは何でなんだろう。親御さんが色んな固定概念から外しておいてくれたとか?
早香: それ、何なんだろうな… 

早香:なんか、両親もそうだけど、一緒に暮らしていたおじいちゃんとか近所のおじちゃんとか、ほんとみんなが私のことを認めてくれたなかで生きてこられたっていうのは、すごく大きいと思う。
Q: 認める、か
早香: そう。うち、兄と弟がめちゃくちゃ頭が良くて、オール5をとってくるような人達なの。だけど私は普通っていうか、むしろ「勉強なんて」みたいな感じだったんだけど、お父さんもお母さんもおじいちゃんも、その事に対して何も言わなかったんだよね。「早香は早香でいて良いんじゃない」みたいな感じだったの。まあ、「頭良くなりなさい」とか言われたところで、私もそんなに気にしなかったんだろうけど。でも、ほんとそういうのが全く無くて、「早香は早香の良いところを伸ばして行けばいいよ」みたいに言われていたのが、多分そういうところに繋がってると思う。
Q: 自分の感覚をそのまま信じていいって
早香: そうそうそう。だから、何かを選ぶ時も人のこととか気にならなかったし。そう。「自分は自分だよな」っていうのは常にあったのかもしれない。

【3】「らしく」生きるための場所、「にじいろ」

自然と十分に関われる幼稚園が、水戸に無かった

Q:だから水戸っていう場所で、のびのびと「にじいろ」を始められたんだなって納得した。東京だったらもう少し価値観が多様だけど、こういう地方都市では「普通の保育園か幼稚園に入れるでしょ」っていう感覚が圧倒的に多いだろうなと思っていて。

早香:ね。そもそも水戸で「にじいろ」を始めたのは、水戸に永住することが決まって自分の子どもを幼稚園に入れようとした時、自然と関わる幼稚園が無い事にすごく衝撃を受けて。「水戸みたいな大きな市なら色んな考えの人がいるから、きっと自然と子どもの関係を大事にする園もあるんだろうな」みたいな感じで来たら、「あれ!?」みたいな。
Q:無いよね
早香:「なーい!」って思って。で、そのなかでも良さそうな園に行ったわけだけど、やっぱり疑問が浮上してきて。で、私は森のようちえんをやっていくっていう流れのなかで子ども達を幼稚園に通わせていたから
Q:そうか。それで、元々自分で幼稚園を作りたいって気持ちと、自分の子育てを大事にしたいっていうところから、決意したと。
早香:そうだね。もうやっちゃおうと。ちゃんと考えてないわけじゃないんだけど、シンプルに「やりたいからやろう」って、そんな感じ。

息子も自分も、「自分らしく」ありたい

早香:でもやっぱり、3人目の子が生まれたことが結構大きくて。
Q:そうなんだ
早香:そう。男の子で、「男は男らしく」とかいうのは好きじゃないけど、息子が息子らしく生きていくために、その可能性をどう広げていくかって考えるとやっぱり、その幼稚園じゃなかったんだよね。私のなかでは。「この子が持って生まれた能力を伸ばしてあげたいな」って思ったのが、一歩踏み出せたところでもある。上の子2人にはそこまで感じてなかったけど、彼の体力だったり体の動きを見て、「園舎のある園で先生に言われたことをやるっていうだけではもったいない」って思ったんだよね。そうそう。自然な流れでもあったんだけどね。自分が「森のようちえん」を進めていくことと、息子の成長のタイミングが合ったっていうのはあるかな。

あと、私自身がやっぱり生きていく上で「にじいろが無かったら、多分私、死んじゃうだろうな」みたいなところ。自分ありきのところは少なからずあったかな。自分が自分でいられる場が必要だったっていうか。

大変さに気付くのはその後だよね。やっぱり私一人の考えだけじゃやっていけないし。周りにいる人達の気持ちとか、状況をいかにうまく回していくか。そういうのはやっぱり、やってからじゃないとわかんない。理想だけではやっぱりうまくいかないよね。

お母さん達に起こる、良い変化

Q:うまくいかないのか
早香:
実際に「にじいろ」を始めてみて、どういう風に「にじいろ」の良さを伝えていけばいいのかな、みたいなところが「まだまだだな」って思う。
Q:良さが伝わりづらいことがもどかしい?
早香:そう、すごくもどかしい。でも体感してもらわないと分かってもらえない部分もあるって思ってるから、親子活動を充実させたりすることで、お母さん達に体験してもらうことが大切かな、とは思ってる。「にじいろ」で変わっていくお母さんを何人も見てるから。ちょっと心が解放されたとか、子育ての仕方が変わったとか、そこも「にじいろ」の醍醐味だなって思う。

Q:やっぱりそういう親の変化はあるんだ
早香:めちゃくちゃある。例えば裸足のこととか。自分は子どもを裸足にさせていいと思っているけど、この公園では裸足にさせていいのかな、とか、世間体を気にしてしまう。周りに合わせて自分が苦しくなっている人が、「にじいろ」っていう「別にそんなこと気にしなくていいよ」っていう場所で変わっていく。子育てが楽になっていくっていう人は、すごくいる。
Q:子育てが楽になるんだ
早香:楽になる。例えば子どもの頃にお母さんから「これしちゃダメ」「あれしちゃダメ」って言われてた人は、やっぱり自分の子どもにもそうやって言っちゃう傾向がある。でもそこで私が「いいじゃん、やらせてあげなよ」って言うと「え、やらせていいの!」みたいな感じになって。で、子どもはやりたいことがやれて、嬉しそうな子どもを見るとお母さんも嬉しくなって、お家では子どもが「今日すごい楽しかったね」って言ってくれる。「心に余裕を持って子育てできるようになりました」って、生き生きし始めるお母さんが結構いる。

Q:その「やらせてあげていい」っていうのは、裸足の他にどんなことがあるの?
早香:お昼ごはんを好きなタイミングで食べることもそう。みんなで一緒に食べ始めるっていう前提がお母さん達の中にあるけど、私が「お腹空いて泣いてるじゃん!もう食べな、時間なんて気にしなくていいよ」みたいに言うと、もちろん子どもはご機嫌になるし、親も「ああ、それでいいんだ」ってなる。
Q:逆に「今は食べたくない」ってなれば、それでもいいっていう?
早香:そう。「後でお腹空けば食べるよ、いいんじゃない」っていうこととか。そんな感じ。

【4】正直、まだわからないことがたくさん

感動してくれるポイントにピンときたい

Q:お母さん達のなかには、小さい頃は自然のなかで過ごす体験をしてきた人はどのぐらいいるのかなぁ
早香:ああ、どうなんだろうね。どういう経緯で「にじいろ」に来てくれたかわからないけど、でもやっぱり教育現場に疑問があって、じゃあ自分の子はどうやって育てようかっていう流れで来てくれたみたいで。でも、ごはんを決まった時間に食べないとか、自分がやりたいことをやるなんていうのは、私の中ですごく当たり前のことだから、お母さん達に「もう、ほんと衝撃で!」みたいに言われても、「え、なんで」みたいに思っちゃうところが、正直ある。そこらへんがな~・・・

Q:ん?反省ポイント?
早香:うん。ちゃんと分かっていればいいんだろうなっていうのは思う。私にとっては当たり前にやってるから、来てくれたお母さんに「こんな感じで過ごす1日は衝撃でした」とか言われた時に、「そうか、そんなに感動してくれたんだ・・・」みたいにピンとこないところがある。「どこが衝撃だった?」って聞いたりはするけど。

Q:でも、さやちゃんが八郷で「森のようちえん」を知った時の気持ちの変化と、そのお母さん達の変化って、どこか似ている気もするな
早香:うんうん。私が解放されたように、きっとこのお母さん達も開放されたんだろうな、みたいなところはある。ただやっぱり、自分が当事者になると分からなくなることがあって。なんか当たり前になり過ぎちゃって。そこらへんもね、もうちょっと気持ちを酌めればいいんだろうなって思ったりはするんだけど。
Q:酌みたい?
早香:うん。なんか、そうだね・・・。
今、私そういうところにいるかも。お母さん達のことをわかってあげられてないのかなとか、そういうことを感じる。感じてる自分もいる。いるんだよね。きっと。

成長したいところを言葉にしてみると

Q:モヤモヤしている部分を、もう少し聞いてみていい?
早香:うん。
保育っていう日常では、毎日子ども達それぞれの課題っていうか、乗り越えなきゃいけない部分と向き合ってるんだけど、それがうまくお母さん達に伝わっていないもどかしさというか。なんか、ただ毎日遊んでるだけのようにに見られてしまうもどかしさみたいなのは、あるかもしれない。

もちろん理解してくれるお母さんはいるんだけど、やっぱり色んな人がいるから、その人によって言い方を変えていかないと伝わらなかったり、誤解を招いたりするわけ。でも私は誰にでも同じように接してしまう部分があって、「え、さやちゃんって冷たい人なの」「ちゃんと考えてる?」みたいに思われちゃうことがあるんだよね。それが、すごいもどかしい。

Q:「伝え方」か。
早香:「伝え方」だと思うんだよね。私そんな器用じゃないんだよ、多分。
Q:人間だからデコボコがあっていいはずだけど、園長として求められるところとのバランスが難しいところだね
早香:そう。入園してくれるお母さん達のなかには「森のようちえん」への理想を持っているお母さんもいるから、それと「にじいろ」とのズレだったり、色々出てくるよね。

Q:預かり保育が始まって1年ちょっとだよね。何かが始まって1年くらいって、形にはなってきたけど、形になってきたからこそ課題がいっぱい出てくる時期なのかな
早香:そうだね、それはすごく思う。だから、たくさんのことを求められるけど、「そんなに一気に大きくなれないよ」「ちょっとずつステップアップしてくしかない」っていうのは思う。もう、そこはもう仕方が無いし、あと何年後かに私自身も変わっていって、「にじいろ」も変わっていって、うまい具合に形作れていればいいなっていうのは、すごい思う。うん。

Q:すごい言葉に力入ってる
早香:ほんと?それ、ほんっっっと思ってるから。
Q:人間で言ったら1歳って、人間としての機能はできてようやく歩けるようにもなってきた時期で
早香:ね。課題だらけですよね、まだ1歳なんていうのは。そうそうそう。でもそこで本当に助かってるのは、理解してくれている保護者であったり、スタッフであったり、家族であったり。あとは「森のようちえん」を各地でやっている先輩達の言葉にはすごい励まされてて。やっぱり10年とか20年やっている先輩達と話すと、「1年目なんて、そんなことばっかりだから」って。「お母さん達とのギャップとか、自分達が考えてるような風にはいかないとか、そのもどかしさみたいなのを抱えて、みんなここまで来てるから」って。そういう言葉に、心強さを感じてます。

だから、「今できることを一生懸命やるってことかな」っていうのが、私がたどり着いたところというか。やっぱり色んな人の理想とか自分の理想があって、それは目標にしていかなければいけないところだけど、でもそこにばっかり目が行ってしまっていては、「じゃあ今預かってる子ども達のことどうするの」ってなる。やっぱり今いる子ども達の個性だったり伸びしろを、いかにして見ていくか。それが後に繋がっていくっていうのは、すごい感じる。

感情を味わい尽くす

Q:今後の課題が見えてるっていうのは大切だね
早香:たださ、なんか葛藤があるよね。「今までの自分でもいいじゃん」って思う自分と、「いやいや」みたいなせめぎ合い。なんか変なプライドみたいなものがあるんだろうね、自分の中でも。
Q:プライドがある
早香:うん、きっとね。譲れないっていうか、言い方を変えたり自分を変えたりするのは難しいと思っちゃってる部分もあって、まだ踏み切れてないんだけど。でもこの葛藤は、いま味わい尽そうって思う。

Q:逃げるわけじゃないんだね
早香:そう。もう少しモヤモヤしてよう、みたいな(笑)。そのうち見えてくるかな、って思う。感情を味わい尽くすのは、「にじいろ」のコンセプトでもあって。
Q:喜怒哀楽ぜんぶの感情?
早香:そうそう。やりたいことをやり尽すとか。それによって見えてくるものって絶対変わってくるから。そう、そこは大事にしたいところかな。
Q:味わい尽くしつつ、園長さんとして伝え方をちょっとずつ
早香:そうだね。変えていければな(笑) 

【5】絶対に大事にしていること

幼少期の五感の記憶を、宝物に

開始から1時間が経ち、一息つきながら…

早香:煙、大丈夫?今日、めっちゃ煙で浄化されてるよね
Q:私ね、キャンプでは必ず煙が来るの。小さい頃から両親と日本海でキャンプをやってて、そのキャンプの記憶も大体が煙。
早香:煙なんだ
Q:そう
早香:いいね、そういうのめっちゃ大事にしたいと思ってるの、私。匂いとか風とか葉っぱの色とか。いつまでも覚えてるじゃん、そういうのって。ずっと持ち続けて欲しい感覚で。

Q:「にじいろ」の中で?
早香:うん、そう。最初の頃に言ったけど、自然の中では、風とかをいつでも感じることができるわけじゃん。ずっと部屋にいたら、外の風とかも何も感じないけどさ。今日のことも、何かの時に「さやちゃんと焼き芋した時の匂いがする」とか「あの風と同じ」とか、それだけで記憶がふわ~っと蘇ってくる。それなんだよね。私はそのためだけに「にじいろ」をやってるようなところがあるからね。感覚は、絶対に大事だと思ってる。

Q:なんで?
早香:抽象的だけど、嫌なことがあったり、心がモヤモヤしたりした時に、「あの時すごい楽しかったな」っていう思い出があるだけで、楽しく生きられたりしない?私は「夏の匂いがするな」って匂いを嗅ぐだけですっごい幸せな気持ちになるし、鳥の声を聞くだけですっごい幸せな気持ちになる。それだけなんだよね、残したいことは。

Q:辛い時に、そんなことをふっと思い出せるような
早香:そうそうそうそうそう。だから、幼児期ってすごい大事だと思って今やってて。だから今なんだけど今じゃないっていうか、幼児期が終わって「にじいろ」を卒園した後とか、大人になる過程とか大人になってから、いかに活かされるかみたいな。その時に「にじいろ」の成果みたいなのが見えればいいなっていうのは、すごい思ってる。

Q:どう言葉をかけたら、子ども達にとってその感覚がより開いてくの?さやちゃんなりに、その子がその五感に気付ける関わりをしてる気がする。

早香:ほうほう、確かに。
親子活動ではすごい大事にしてるかな。そういう感覚を、お母さん達からも、子ども達からも引き出すっていう。もうほんとに些細な事だよ。「葉っぱの音がするね」とか。今までそういう経験が無い子でも、子どもはすぐ引き出せるっていうか、出てくる。感じやすいっていうか。で、それに気付いたお母さんが「え、この子こんな風に感じてるの?ほんとだ、音がするね~」とか。「ミミズがいるね~」とか。

Q:じゃあ親子活動では、お母さん達へのヒントも渡してるんだ
早香:ああ、そうだね、それはあるかも。やっぱり、自分の大事な子どもが色んなことに感動してたりとか、色んなことを感じてキラキラしてるのって、ものすごく親の目に写るんだよね。それを見て、私は「そこによく気付いたね、お母さん!」みたいな。そこからどんどん引き出して、自分の幼少期を振り返ったりとか、子育てを振り返ったりしていくと、お母さん達が「ああ、そんなに気を張らなくていいんですね」とか「ただ生きてるだけで幸せなんですね」とか、そんなことにどんどん気付いていく。だからほんとに普通でしょ、普通なことなんだよ。

個々を見極めて、最善の声掛けを心がける

Q:保育の子ども達とは、毎日どんな関わりをしてるの?
早香:同じ声掛けはしないようにしてるかな。その子にとって最善の声掛けをするようにしてる。例えば延々と一人遊びをしてる子が、ふと友達と遊びたい瞬間に、どういう風に友達に声掛けしたらいいかわからない時。そういう時にちょっと手助けしたり、自分を出したいんだけどうまく表現できない時に、ちょっと背中を押してあげる言葉を代弁してあげたりとか。そんなことの繰り返し。ほんとに見極めるのがすごく大事だと思ってる。その子自身が求めてるものとか、成長段階を見極めること。

Q:性格もそれぞれだし
早香:うん、性格もそうだし。
他の園から転園してきた子で、自信が無い子がいて。「にじいろ」では朝の会で自分のやりたいことを言葉で表現する時間があるんだけど、その子はその時に「今日は寝ます」ってずっと言ってて、最初はずっとゴロゴロしていたのね。スタッフはそれを見て、「え、ずっと一人でいいの」「ずっとゴロゴロしていいの」ってミーティングとかで話してたんだけど、私としては、そのままで全然良い。「その子にとって必要だからそうしているので、今は見守っていいと思う」って。その子は今では、自ら人に話しかけていったり、自ら何かに挑戦したりすることがすごくできるようになってきて。それってやっぱり、見守ってる期間があったからちょっと動き出した期間があって、そこでちょっとスタッフが背中を押す期間があって、そして自分自身でやるようになって、っていう流れなんだよね。だから、焦らないでとにかく待つ。「にじいろ」ではその子のペースをすごい大事にしてる。

スタッフも、その一連の様子を見て「ああ、これで良かったんだ」って。あの時、あの子が一人でいる姿や寝てる姿を見てすごいモヤモヤしたけど、さやちゃんが「大丈夫。待っててあげて」って言ったから待ってて、そしたらこうなった、っていうところに感動してくれて。スタッフも子ども達に学ばせてもらってる。

スタッフも一緒にトライ&エラー

Q:スタッフはそれぞれ自分のやり方で見守っているの?
早香:声掛けをし過ぎている時は、「ちょっと話しかけ過ぎだから、ああいう時は一人にさせてあげて」って伝えるようにしてる。だからもう、みんなで成長し合っているっていう感じかな。うん。
Q:スタッフの人達はどうやって子ども達を見極めることを習得すればいいんだろう?
早香:やっぱり日々やって行くなかで、かな。野外で保育をした経験が無い人ももちろんいるけど、「にじいろ」や「森のようちえん」のやり方が良いなって思って手伝ってくれてたりしているわけで。もう、最初からプロの人なんていないから、みんな体感していくなかでわかっていくわけだから。わからないなかでそうやって一生懸命に経験していくことで自分に刻まれていくと、「あの時ああだったな」って引き出しになるから良いんじゃないかなって思う。トライ&エラーっていうか。

Q:スタッフにとっては手探りだから、マニュアルみたいなものが欲しい場合もありそう
早香:そう、それは私も悩んだ。やっぱり「これってどうなんですか」「こういう時はこうした方がいいんじゃないですか」って言われることは多くて、でもそれで決めちゃったらつまんない。そうすると、やっぱりスタッフにはわからないままだったりして、その辺はすごく難しい。でも、「これでいいのかな」っていう疑問が常にあるのは、それでいいと思う。疑問がなかったら、「この子はどんな気持ちなんだろう」って考えないし、理解することが難しい。

Q:スタッフには「これでいいのかな」、って気持ちにどんどんぶつかって欲しい?
早香:うん、ぶつかってほしい。だから「にじいろ」で働くのは面倒くさいと思うよ(笑)。いちいち考えなきゃいけない。だけど、そこなんだよね。子ども達一人ひとりと向き合うことはすごく面倒くさいんだけど、大事なんだよね。

【6】経営者として先を見ていく努力

長く続けるために、向き合わなくてはいけないこと

Q:人を動かしたり、それこそ経済的なところもそうだし、一人の経営者として悩んでる時期なんだね
早香:めっちゃ悩んでる。「経営とか向いてね~」って思う(笑)。人とか自然と関わることは好きだけど、お金とかは、まあほんと向いてないなって思う。スタッフのことも。そこに関しては向き合って、どういう風にやっていくかを考えるのは楽しいからいいんだけど、でも色んな葛藤はあるよね。やっぱり森のようちえんも、運営ありきだから。そういう面で色んな森のようちえんが無くなくなっていく現状も実際にあるわけだから、いかにして続けていくかっていうところはあるよね。だから今、会社を経営している方に、「経営とは」とか「どういうことを目標とするか」とか、どうやればいいかを今教わりながら今やっているところ。
Q:教えてくれる方がいるんだね
早香:うん。そこはやっぱり大事だなって思う。毎日子育てをしながら「にじいろ」を運営してると、もうその一日一日が一生懸命で。全体とか、先のことまではなかなか見えないんだけど、アドバイスをいただけることで「中長期目標はどうしていくか」とか「どういうことをコンセプトとするか」っていうのがより明確になっていく。それこそいくら必要だから、どういう風にまわしていったらいいかとか。っていうことも含めて教えてもらえるので、ありがたいです。

Q:具体的には、どんなことを学んだの?
早香:「にじいろ」の目的と、その下に目標を作るんだけど、「にじいろ」の大きな目的としては、「身近な自然に触れあいながら、親も子も輝ける居場所づくり」っていうところ。その大きいコンセプトをもとに、運営面や保育、子育て支援っていう親子活動だったりに枝分かれして。それを具体的にどうしていくかを、今やってるところ。

出産を機に、周りの人に頼れるようになりたい

Q:きっと、「幼稚園の園長になりたい」って思い始めた時のさやちゃんは思いもしなかった大変なところだよね。
早香:そう。一番不得意なところ。でも私には心強い助っ人がたくさんいて。事務を担ってくれてお金の部分をフォローしてくれるまさみちゃんっていう存在だったりとか、今日私が保育にいなくてもやってくれてるスタッフのみんなだったりとか。

やっぱり人に頼るってことも大事だなってすごく思って。今回これから4人目を出産するにあたって、私は大好きな「にじいろ」を1回去らなきゃいけない。これは私の課題で。今までどうしても自分一人で握りしめていたいと思っていた思いとかを、色んな人に共有してわかってもらえるように伝えながら産休期間を迎えるわけで。自分の大事なものを手放すっていう葛藤だったりとか。

Q:何かを立ち上げたリーダー達が、きっと必ず経るところだね。自分で立ち上げたから、最初はいっぱい抱えていて。
早香:そうだね。そう。それを分散させていくっていうか。だから、いずれ来ることへの良いステップアップの時だったなってほんとに思う。多分このまま自分一人で走り抜けてたら、いずれ潰れてたなって。こうやって色んな思いを私がみんなに共有して、色んな仕事をわかってもらって、自分が担ってた部分を手放すことができたけど。出産という機会が無かったら、これどうなってたんだろうなって思う。

Q:じゃあいい時に赤ちゃんが来てくれたんだね。
早香:ね。そう思う。いい時に。
Q:もう少し薪足すか…

【7】「生きる力」をはぐくみたい

自分で気付くこと

Q:でも、「生きる力」っていうのはほんとに大事にしてるんだね。
早香:すごい大事にしてる。っていうか生きる力なかったら死ぬじゃん(笑)。みんな持ってて、それをうまく使うか使わないかなんだよね。

Q:
「生きる力を育むために日々の関わってるけど、お母さん達にうまく理解してもらえない」ってもどかしさを話してたから、具体的にはどんな関わりをしてるか知りたいなと思って。
早香:例えば、毎週金曜日に火焚きをしてみんなでごはんを作ってるんだけど。火を焚くのもすごくコツが必要で、最初から大きい木には火がつかない。「じゃあどうしたらいいかね」っていうところから始まる。最初はスタッフが声をかけたりもするけど、そのうち自分達で気付いてくるわけですよ。「なんか濡れた木って燃えないよね」とか、「このパチパチする木は結構燃えるね」とか。そういう気付きは、生きる力に繋がっていくってすごく思う。人に言われて気付くよりも、自分で「あ、この木は燃えるんだ、この木は燃えないんだ」っていうことがわかる。その気付きっていうのは、色んなことに通ずるんじゃないかなと思う。
Q:大人になってからも
早香:そうそう。「これが駄目だったらじゃあこっちをやったら大丈夫かも」とか。そういう風に自分で選択肢を選んでいくこと。

思い切り感情を外に出すこと

Q:他にはどんな風に関わってるの?
早香:あとは、感情だよね。「喜怒哀楽」。別に怒ってもいいじゃん、泣いてもいいじゃん、笑ってもいいじゃん、って。よく、「ケンカはダメ」とか「怒っちゃダメ」って聞くけど、「いいじゃん!」って。

ある時、4歳と3歳の子がけんかをしたんだよね。で、その時、私、その2人の感情の動きがスローモーションですごい見えたの。ある日、3歳の子に4歳の子の棒か何かが当たっちゃって、怒って4歳の子をバシバシ叩きはじめたの。で、4歳の子も最初は「へ?」みたいに思ってたんだけど、悔しくなってきて叩き返した。で、その4歳の子は私に抱きついて泣いたの。

その感情の動きがスローモーションみたいに見えた時に、「あ、私はここでこれがしたかった」って思ったの。思い切り感情を出せる場を作りたい、これは大事だなってすごい思って。ケンカも人生にとって大事で。人を叩くこともすごく人生にとって大事で。それを無駄にしないというか、それをいかにして今後の人生で活かしていくのか、っていうところをすごい感じたエピソードだったの。

Q:感情を思い切り出すことが、生きる力に繋がるんだ
早香:繋がると思う。やっぱり人の痛みを知らなかったら、人殺しだってするだろうし。気持ちがわからなかったら、それこそコミュニケーションだって取れないし。感情を出して、後から落ち着いた時に「相手はどう思ったのかな」とか、「自分はどう思った」っていう風に自分の気持ちを振り返ることで、そのエピソードがより濃くなるというか。うん。繋がっていくんだよね。

Q:自分の気持ちを隠さなくていいっていう
早香:そうそう、もちろん。幼少期こそ、自分の振れ幅っていうか、「自分ってすごい怒るんだ」とか「すごい悲しむんだ」「すごい楽しいんだ」って知ることで、「自分はここまでやったら怒りすぎちゃうから、ここまでにしておこう」っていうのができるようになるわけで。その振れ幅がわからないと、自分ってどこまで怒るかわからないから、それこそなんか怖いんだよね。いかにして自分を知るかが「生きる力」に繋がるっていうのは、保育のなかですごい思う。感情を露わにして過ごすっていう大切さ。

あと、やっぱり異年齢保育だから、年齢で区切ってない分、下の子を見たり上の子を見たりして、子ども達が成長していく。それで新しい子が入ってきて「にじいろ」での流れとかがわからなかったりすると、手伝ってあげたり手を引いてあげたり、教えてあげたりっていう、やっぱりその上下関係っていうのをすごい感じながら生きてるの。ひとりっ子だったりすると、なおさらその時間が貴重で。最初はぎこちなくても「自分も小さい頃はこうだったな」とか感じながら手伝ってあげるようになったり、それこそ私の小さい頃みたいに、「この子が喜んでくれた。小さい子を見ることってすごい楽しいことなんだな」とか、「ああいうお兄ちゃんのように、かっこよくなるためにはああいうことをすると出来るようになるんだな」とかっていう学びの場でもあるっていうか。そうそう、そういうのをね、「生きる力だな」って思うよ。

自然と関わる上での「生きる力」

Q:自然のなかで保育するからこその「生きる力」も付くっていうこと?
早香:うん、すごいあるよ。今日とかも、雪が降る予定があるくらい寒いでしょ。やっぱり寒い時にどうしたらいいかっていったら、火を焚いてみんなで温まる。温かいものを食べることもそうだし、夏に暑かったら水に入る。もう夏の「にじいろ」は、ずっと水に入ってる。そんな感じだよね。生きるために必要な生活感覚というか。暑ければ体を水で冷やせばいいし、寒ければ火に当たればいいし。あとは畑とか田んぼとかもやってるから、食べることの大事さとか、やっぱおうちでは食べないものも「にじいろ」で作ったものは食べるよとかっていうのもあるし。全てだよね、なんか。

Q:「にじいろ」でいちばん大切にしていることは、「生きる力」をつけること?
早香:そうだね。「生きる力」のなかにすごい色んなことが入ってるじゃん。今色々話したように。あと一つ、コンセプトのなかに「自分自身を知る」っていうのも入ってる。それも結局「生きる力」だから。さっきの感情の振れ幅を知るっていう、それを身に付けることで「生きる力」に繋がっていくわけで。そこはすごく大事です。

平向早香、いち個人としての「生きる力」も

Q:さやちゃんの「生きる力」も、「にじいろ」を通して付いたりしてるの
早香:うん。私「にじいろ」が無かったら多分死んでると思う。
Q:どういうこと?
早香:なんだろう、うーん。
やっぱり私は子どもが生き生きしたり、自分の良いところを自分で認めたり、お母さんに認められたり、スタッフと一緒に嬉しさを分かち合ったりすることを見たりすることで、自分にとってストレス発散っていうかもう、「私、生きてる!」みたいにすごい思えてて。仕事とは言え、毎日「楽しい場所に行く」っていう感覚でしかないし。もちろん嫌な時もあるけど。「にじいろ」が、自分が生きる意味っていうのかなあ。

Q:そうか。自分の好きな場所にいるって、確かに「生きる力」かもね。
早香:うん、なってるね。やっぱり家にいると母親であったりしなきゃいけない自分ってあるじゃん。少なからず自分がやりたいことを我慢したりとか、食べたいものが食べられないとか。「にじいろ」は、そういうのから解放される時間でもあるのかな。自分自身でいられるっていうか。母親としての早香ではなく、早香としての早香でいられる場っていうか。

【8】焚き火の時間が、終わりつつ・・・

「にじいろ」の拠点が欲しい

Q:今はいくつかの場所を利用して活動しているなかで、これからは「にじいろ」のフィールドが欲しいというお話を前にしていたけど、それはどういうこと?
早香:やっぱり1年やってきて、お母さん達とかスタッフがちょっと集える場があったらいいなって。子どもを迎えにきて、帰りにちょっとみんなでお茶を飲める場所。時間があるスタッフとか、時間があるお母さんとかが、他愛もない会話ができる場所があったら、より良い保育ができるんじゃないかっていうのを改めて感じていまして。
Q:そうなんだ
早香:うん。今はやっぱり迎えに来たらすぐ帰るようになってしまって。やっぱり拠点を持ってる森のようちえんだと、お迎えの後に何かをすることが自然な流れとしてあって。そういう風になっていれば、もうちょっとみんなと相互理解ってできいてたんじゃないかなっていうのはすごく感じているところで。今は週に3回くらい違う場所を転々としながら活動してて、それのメリットもたくさんあるんだけど、拠点を構えることでお母さん達の送迎が楽になったりだとか、そういうことも含めていいんじゃないかなって。

Q:なんか今の話を聞いて、より「コミュニティ」になりたいんだなって感じがちょっとした
早香:ああ、うん、そうかもしれない。なんかコロナとかがあって、私は全然影響が無いと思ってたんだけど、やっぱり最初に緊急事態宣言が出た時に休園した流れから、人とのコミュニケーションが希薄になってるなっていうのは感じて。そこの部分をカバーするためにも、そういう場所があったらいいんじゃないかなっていうのは、すごく感じております。
Q:場所があれば、ちょっとした時におしゃべりして、小さい不満とか、楽しいこととか、話せるもんね。
早香:そうだね。それはやっぱり大事にしていきたいって思うところかな。

「にじいろ」をやっていて、嬉しかったのは

Q:そしたら、クライマックス的に。今まで活動してきたなかで、「すごい幸せ!」と思ったエピソードがあったら教えて。
早香:え~、「幸せ」?
Q:今までの話でもう出たような気もするけど、子どもと向き合ってて、子どもの変化だったり、子どもの動きだったり、何かを心を動かされたこととか、なにかあれば。
早香:なんだろう・・・。
この間、「にじいろ」での昼下がりに、子どもがふと「さやちゃん、にじいろ作ってくれてありがとう」って。
Q:突然?
早香:うん。子どもが金槌をトントントントンってやってる時に、他のスタッフに「さやちゃんがにじいろ作ってくれて良かった!」みたいなことを言ってたみたいで。スタッフが「え、それさやちゃん聞いたら泣いちゃうよ、ちょっともう1回言ってあげなよ」みたいに言ってくれて。なんか、すごい大変な時期でもあったから。「そうやって思ってくれてるんだ」って思ってね。「こうやって遊べるのとか、自分がやりたいことやれるのはさやちゃんのお陰だから」って言ってくれて。「え・・・」と思って。そんな言葉を伝えることができるんですよ、子どもは。すごくないですか
Q:そうだね。そういう言葉をちゃんと素直に言えるってことは、安心できる場があるからだしね
早香:ね。改まって言うとかじゃなくてさ、トンカチやりながらさ、「さやちゃん、作ってくれてありがとね~」みたいな。「え!」みたいな感じ。嬉しかったなあ。
あとはベタだけど、やっぱり子どもの成長。その子一人ひとりの成長過程を近くで見られるっていうのは、何よりの幸せだなって思う。自信が無かった子が、「ちょっとあれやってみるね」って、自分から言って挑戦したこととか。ちょっと口調が強い子が、優しくみんなに話しかけてあげられるようになったりとか。そういう些細なことを見逃さないこと、そういうことがなんか幸せだなって思うかな。
Q:幸せそう
早香:だって目の前でさ、人が成長する姿見れてるんだよ。「え!」みたいな。「昨日はできなかったよね!」みたいなこととか。それを見れてるのは、すごい幸せだな。

自分を信じること

Q:なんか、一番最初にさやちゃんが保育を目指した時にやりたかったことに、今到達してる感じがする
早香:そうなのかね。でもまあ、幸せなことには変わりないかな。だからやっぱり、自分を信じることって大事だなって思うよね。うん。
Q:ここに至れたのは
早香:そうそうそうそう。色々とうまい具合にやってこれたのは、やっぱり私を認めてもらった幼少時代があってこそだなっていうのは、すごく感じる。だからこそ、お母さん達は子ども達を認めてあげてほしいって思う。やっぱり日本人だからか何か知らないけど、自分の子どものことはさ、ちょっと謙遜っていうか、「こういうところが駄目だから」ってどうしても言っちゃうじゃん。だけどそうじゃなくて、私は他のお母さんの前でも、「うちの子はこういうところが素晴らしいから」って言うようにしてる。

Q:そうか、さやちゃんが小さい頃そうやってしっかり認めてもらった場があったから、その場を今も作ってるっていうのが、シンプルな今なのかな
早香:ああ、そういうのもあるかも。「良いところも悪いところも、あなたはあなたのままで良いんじゃない」って言われることが、いかにその子に力を与えるかっていうのは、私が体験してるからこそ言えることかもしれません。

Q:さやちゃんが100%のびのびと生きてるみたいに、目の前の子達も。
早香:100%のびのび(笑)
Q:100%のびのびに見えてますね
早香:ほんと?ありがとう(笑)
a:なかなかいないです。100%のびのびは。のびのびしてても、大体は85%ぐらいですから。
Q:こんなに人と会ってるmakiさんが言う(笑)。
「にじいろ」での関わりで、さやちゃんみたいに気持ち良く生きてほしいってことなんだ、ってシンプルにわかった。

早香:ああ!そうだね!それかも!そうかもね。

(おわり)

takibi INTでのことを、早香さんがこちらでご紹介くださっています。

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