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イジン伝~桃太朗の場合~XXXXXI

前回記事

【 屋上からは世界のすべてが見える。朗たちが住んでいる世界は真っ二つにした団子みたいな半球で、円周部で天と地が交わりその先はない。閉じられたドームの中にいるようなものだ。この学校が世界で最も高い建築物だから見晴らしは格別なのだが、屋上にはめったに生徒がやってこない。
 というのも、天球上に配置された九つの太陽が日没までじりじりと照り輝くからで、日陰を探そうにも一つの太陽から隠れれば残り八つの太陽に晒される有様なのだ。朗は脱いだ学生服を羽織るようにして日差しを遮ってはいるものの、やはり暑い。人目に晒されるか、日差しに晒されるかを天秤にかけて彼はこちらを選んだ。
 考え込んでいる彼が屋上への扉を開けたとき、光はいつもの数倍にいや増しているように思えて、朗は思わず顔を上げた。“下”からも日光が差している。彼はあまりの眩さに腕で影を作ってフェンスの施された縁まで進み、細目を開けて下を見下ろした。恐ろしい光景がそこには広がっている。あの“鬼”がその鋼の体躯に太陽を映して世界の端からここへ寄り集まろうとしているのだった。】

第五十一回

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 朗はもと来た道を駆けに駆けた。鬼怒井がこの国の最高権力者に就いたとき以来、“鬼”は世界の周縁部にひっそりと立ち尽くすのみだった。その“鬼”が今突然に動き出して他でもないここに集まろうとしている。猿野たちの話とどこまで関係があるのかはわからないけれど、鬼怒井が何か大きな変化をこの世界に起こそうとしているのはたしかだと朗は思った。そして冷ややかで美しい彼女の鋭利な眼差しを思い出し寒気を感じていた。
 彼とすれ違う生徒たちは何事かと振り返った。目立つことを恐れて一人になるあまり余計に目立つ存在になっている朗が人目もはばからず息せき切って走ることは珍しい。彼は注目を集め、調子のいい連中の一人が駆け去る朗に呼びかけた。
――どうしたんだ桃太。おふくろの大きな桃でも迎えに来たのかい――
 彼らの嘲り笑いを気にしている場合ではなかった。朗はいっそう集まった視線を全身に受けながら教室へ向かった。
 教室は朗が出てきたときとほとんど変わらず雑然としていた。西向きの窓は薄い白地のカーテンで覆われていて外の様子はわからない。異変に誰も気づいていないのだ。駆け込み肩で息をする朗にみんなの訝しげな、あるいは驚いた眼差しが向けられる。
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いろんなことが起きているのに、今日も普通に雨が降っていて、明日も雨かもしれないし晴れかもしれません。それは当たり前なのでしょうが、どうにも不思議な気がします。人間中心に物事を考えるからかもしれませんね。

※こちらのマガジンにシリーズの過去記事をまとめています。七記事ずつをまとめて一つにしたものもありますので一記事ずつ読むのが面倒という場合はそちらをご利用下さい。

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