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イジン伝~桃太朗の場合~XXXXIX

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【 話し終えた猿野はぶるっと体を震わせ次いで朗と犬村を交互に見た。
「ハカセはきっと今はまだその報告書とやらを書いている途中だろう。だがそれが済み次第一体ここで何が起きたのか知ることになる。そうしたら、言いたいことはわかるよな」
 朗はいろんなことが一気に氷解して、ありとあらゆる具材を入れごちゃまぜになった寸胴鍋に投げ込まれたような気がした。人並み以上に物事を知っていると思っていたのは勘違いで、実は何一つ実情には触れていなかったのだ。そしてこの寸胴鍋は一体本当に鍋なのかはたまた大きな湖か何かなのかもわかっていない。
「まったく信じられないわ。あの鬼怒井先生がそんなことしているだなんて。あなた古典映画の見過ぎじゃないの。何でもかんでも陰謀とか言って騒ぎ立てたり、そういえば桃太くんの話だって」
 犬村はそう言って猿野を睨んだ。一瞬怯んだ猿野もふんと鼻で笑って言い返す。
「なんとでも言うがいいさ。だけどクラスの中で生き残っていくにはああいうスキルがどうしても必要だってお前らにはわからないんだろうな。どんな話題だっていいからとにかく自分の存在をああやってアピールしていかなきゃオレはあの場からいなくなったも同然になるんだよ。お前らはさ、きっとわかんないよ。初めから『私は一人でも大丈夫なんです。私には関わらないでください』って澄まし顔してるお前らにはさ」】

第四十九回

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「もうやめなよ。まずはここから離れよう、ね。ハカセが来たらそれでもうみんなおしまいなんだから」
 木地川が二人の間に入って諌めると犬村は
「こっちの気持ちだってわからないくせに」
と言い捨て、猿野は憎々しげに地面を睨んで
「あれがオレの妄想だっていうのかよ。冗談じゃないぜ。今にオレの言ったことが真実だって思い知ることになるさ」
とぶつぶつ言った。だらだらと廊下を教室に戻り、昼食後昇降口へ集合することを決め、四人は別れた。
 同じ教室に戻ったとしてもそれは“別れた”と言っていい様子だった。猿野はめちゃくちゃになった姿をからかわれ、彼もまたおどけて「ちょっと狼人間に変身しちゃったもんでさあ」なんて言っているし、木地川はひっそりと自分の席に戻って隣の女子に「どうしたの」と聞かれ顔を赤らめている。犬村は何事もなかったようにつんと澄まして鞄から完全栄養食スティックを取り出しかじり始める。そして朗は机に戻ると中身を鞄に詰めて教室から出た。賑やかな教室棟を出て屋上に向かうのである。混乱した頭を整理するためだった。
――もし、もう学校に来なくていいのなら――
 階段を登っている彼の頭の中では一つのプランが出来上がりつつあった。
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 満開の桜よりも、五分咲きくらいが好きです。

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