シュウマツ都市

イジン伝~桃太朗の場合~XXVII

前回記事

【 校長室は職員室の隣りにはなく、この学校では教室棟の隣に設けられた独立棟に存在する。校長たるものまずは生徒と向き合わなければならないからというハカセの教育論が反映され教室棟の近くにその執務室を設けたらしい。
 しかし実際のところ彼女の姿を教室棟で見かけたことのある者は皆無で、あの建物では他人には決して見せられない実験、例えば禁じられた錬金術だとか人体実験が行われているのではないかという冗談が生徒の間ではじめましての挨拶代わりに交わされる。雪原にたった一輪だけ咲く百合の花のような、凛とした彼女の美しさを入学手引の写真で知った生徒は上級生たちからその冗談を聞いて、なぜこの学校の校長は白衣を着ているのかという疑問に一応の決着をつけるのである。
「本当に行くのかい」「このチャンスは逃せないだろ」
 猿野と木地川の二人は独立棟に向けて伸びる渡り廊下の入り口まで来て二の足を踏んでいた。渡り廊下には壁がなく板敷き床の二倍ほどの幅を持った屋根がついている。半外という環境にも関わらず床は磨いたように光っている。突き当りには観音開きの大きな木製の扉があり表面には何やら文字が記されているようだが二人の位置からは小さくよく見えない。】

第二十七回

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 授業終了まであと十分。袖の下に隠していたリストウォッチを確認して猿野を意を決した。内履きを近くにあった掃除用具入れに放り込むと駆け足で渡り廊下へ踏み込んだ。慌てて木地川も続く。
 傾斜の強い屋根は庇が彼らの胸の高さまであって、風力学が考慮されているようで内側にはほとんど風がなかった。むんと充満した濃厚な木の香り。木造の屋根は梁がむき出しになっている。普段感じることのない植物の香りを吸い込んで猿野は酔ったような高揚感に包まれる。
 長く見えた廊下をあっという間に渡り切り、緊張が緩んだ拍子に二人は顔を見合わせてくすくすと笑い出した。
「案外簡単なもんだな」「そうだね。なんか罠でもあるのかと思ったけど」
 目の前にした大門は装飾といった装飾は施されていない。にもかかわらず、漆塗りで鈍く輝く濃赤色が威厳と重厚さを演出している。門の上には特徴的な姿をした三匹の猿。
「お母さんの研究資料で見たことあるよ。たしか“見ざる言わざる聞かざる”っていうんだ」
 そして門の合わせ目をまたいで黒の筆字で綴られた一文。“真実は時に人を遠ざける”。
 猿野が押し込むと、重い手応えを感じたものの門は止まることなく開いていく。笑顔は消えていて、二人は呼吸を忘れ開く門を見つめていた。二人を急かすように風は後ろから門に吹く。
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風といえばフーコという風の精が出るドラえもん映画、泣いたなあ。心が荒んでるなあと思ったらドラえもん映画、おすすめです。

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