イジン伝~桃太朗の場合~XXXXIII
前回記事
【「それで、何なんだ。その、オレへの用事っていうのは」
そう答えてしまって朗はへどもどした。犬村はふっと顔を明るくしたがすぐにしかつめらしい表情を取り戻そうと口をもごもごと動かした。それでも足りず手で顔を覆ったまま
「聞き入れてくれるのね。ありがとう。感謝します。用事っていうのはね、お願いなんだけど」
朗は犬村のまどろっこしい話し方にも文句をつけず少し困ったように彼女を見つめていた。手をどけた後もなんとなく正視できず犬村は唇を一度舌で湿らせて切り出した。
「私を朗くんの部下にしてほしい。朗くんはきっと特別なことをする人だって思うから。私、その手伝いをしたいの」
「部下だって」
首を横に振る朗に犬村は畳み掛ける。朗はなにか考えるように目を閉じて額に手を当てる。
「他にも二人あてがいるわ。今から会いに行きましょう」
犬村は階段を駆け登って朗の腕を取る。彼はこめかみに手を当て眉間にしわを寄せていた。手を引かれるまま犬村についていく。
「大丈夫。頭が痛いの」様子に気づいた犬村が尋ねる。
朗は混乱していた。何かが始まろうとしている予感があった。そしてそれは自分の意志の外で動こうとしている。枠の中へ徐々に自分がはめ込まれていく。その感覚は甘美で自分がとろけていくようで気持ちが良かった。朗は慌てて自分の頬を強くつねった。】
第四十三回
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「このあたりのはずなんだけど」
教室に戻るのではなく、犬村は教室棟の端へと朗を導いた。まもなく授業が始まる頃合い、雑談しながら教室へ向かう生徒たちの中へ戻っていかずに済むことは朗にとって好都合だった。犬村と一緒にいれば彼らになんと冷やかされるかわかったものではない。あとで授業を二時間休んだことを報告に行かなければならない。
「それでその二人って誰なんだ」
「会ってからのお楽しみ。きっと気にいると思うわ」
犬村の含みのある言い草が気になったものの、自分の選んだ道なのだと頷いた。「でもこの先って校長室じゃないのか。生徒は立入禁止のはずだろう」
渡り廊下の入り口には大きくその旨が書かれていて、気づかなかった奴がもしいたとするならどうかしていると朗は思った。犬村は肩をすくめて呆れたように言った。
「大丈夫。私たちが入っていくわけではないから。それにしても、馬鹿な人たち」
ガラス戸の向こうに何かが動いているのが見えた。磨りガラスでぼやけてよく見えない。そっと朗が近づくと突然戸が開け放たれた。
「ああ死ぬかと思った」
大声でそう言って出てきたのは二人の少年だった。
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昨日は机の下で寝落ちしてました。椅子から滑り落ちる奇跡。
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