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イジン伝~桃太朗の場合~XXXXVII

前回記事

【――ハカセが校長室に向かって来てるのがわかってオレたちは急いで引き返そうとした。渡り廊下に躍り出たオレと木地川は急いで出口へ走ったんだが、驚いたことに屋根が閉じて左右から迫ってきたんだ。妙に庇の長い屋根だと思っていたけれどあれは侵入者対策のプレス機だったんだな。のんびりしてたら潰されて人間の平面標本の完成だ。焦ったオレたちは更にスピードを上げて走った。ところがどっこい、あともう少しってところで木地川がこけやがった。絶体絶命。閉じてくる屋根を押し戻そうとしたけどもちろんそれで止まるわけもない。オレは死を覚悟した。
 でも人間追い込まれれば知恵が浮かぶらしい。屋根は木造りで内側にはわずかだけど木組みの間にスペースがあった。大人なら無理だったんだろうけど、幸運なことにオレと木地川はその隙間に体を滑り込ませることが出来た。まるで自分が金型に流し込まれる鉄にでもなった気分だったよ。身動き一つ取れないし、全身が常に何かに触れているんだ。思い出すだけで吐き気がする。
 しばらくすると外から声が聞こえた。苛立った声だ。
「また誤作動でもしたのかしら」
 舌打ちをしてぶつぶつと文句を言いながら何かしている気配があった。この装置を解除するには複雑な手順みたいなものがあるんだろう。その間にオレは必死で考えた。人間標本にはならなかったが、もし見つかってしまえばどんな酷い目に遭うかしれたもんじゃない。開いていく屋根にしがみつきながら懐を探った。目当ての物は見つからない。乱れる呼吸を意志の力で抑え込んでオレは木地川に目をやった。木地川はオレの取り付いている屋根の向かい側に貼り付いていた。顔を真赤にして、話す余裕はなさそうだった。】

第四十七回

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 何しろオレたちはもうすぐこの廊下を渡りきるところだったから、ハカセはほとんど真下にいる。声を漏らしたり大きな動きをとれば確実に見つかってしまうだろう。オレは片手を離しその手を木地川の方へ伸ばした。ぎりぎり触れる。が、それでは木地川の懐を探ることは出来ない。必死に手を伸ばし外れずに残っていたボタンを引きちぎる。ふと気づき下を見たが失くしたボタンは廊下には残っていない。ほっと息をつく。もうだめかと思ったぜ。
 そうしている間に屋根は元の傾き、直角くらいに開いていた。もしハカセがこの装置が誤作動したのかどうか疑っているのなら、このタイミングで上を見て獲物がかかっているかどうか確認するだろう。つまりここが天王山だった。
 オレは梁の一本に足を掛けて宙ぶらりんになった状態からその勢いのまま木地川に両腕を伸ばしてその制服のポケットに手を入れ目当ての物を掴み取ったんだ。そして逆さまのまま校長室の方に丸めたそいつをぶん投げた。オレはその結果を見極める暇もなく元の体勢に戻って息を潜めた。梁に掛けていた膝の裏がひりひりしたよ。
 この作戦は上手くいった。これは想像でしかないけど、オレが投げた“ハンカチ”は渡り廊下の奥の方でふわっと広がって、まるで屋根が開いた拍子に落ちてきたように見えたに違いない。ハカセが歩いていく足音がして
「誰のハンカチかしら。まったくこんなものが装置を作動させるなんて。もしかしたら入り口から誰かが投げ込んだのかもしれないわね。後でカメラを確認しなければならないわ。いたずら坊主には制裁を加えなくてはね。でもまずはあの報告書を仕上げないと」
と言っていた。そしてハカセが部屋に入った瞬間にオレたちは廊下に降りてここへ戻ってきたってわけさ――
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現在している10分休憩勉強法、長距離走の練習の一つであるインターバルトレーニングみたいな感じ。

※こちらのマガジンにシリーズの過去記事をまとめています。七記事ずつをまとめて一つにしたものもありますので一記事ずつ読むのが面倒という場合はそちらをご利用下さい。

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