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イジン伝~桃太朗の場合~XXXXX

前回記事

【「もうやめなよ。まずはここから離れよう、ね。ハカセが来たらそれでもうみんなおしまいなんだから」
 木地川が二人の間に入って諌めると犬村は
「こっちの気持ちだってわからないくせに」
と言い捨て、猿野は憎々しげに地面を睨んで
「あれがオレの妄想だっていうのかよ。冗談じゃないぜ。今にオレの言ったことが真実だって思い知ることになるさ」
とぶつぶつ言った。だらだらと廊下を教室に戻り、昼食後昇降口へ集合することを決め、四人は別れた。
 同じ教室に戻ったとしてもそれは“別れた”と言っていい様子だった。猿野はめちゃくちゃになった姿をからかわれ、彼もまたおどけて「ちょっと狼人間に変身しちゃったもんでさあ」なんて言っているし、木地川はひっそりと自分の席に戻って隣の女子に「どうしたの」と聞かれ顔を赤らめている。犬村は何事もなかったようにつんと澄まして鞄から完全栄養食スティックを取り出しかじり始める。そして朗は机に戻ると中身を鞄に詰めて教室から出た。賑やかな教室棟を出て屋上に向かうのである。混乱した頭を整理するためだった。
――もし、もう学校に来なくていいのなら――
 階段を登っている彼の頭の中では一つのプランが出来上がりつつあった。】

第五十回

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 屋上からは世界のすべてが見える。朗たちが住んでいる世界は真っ二つにした団子みたいな半球で、円周部で天と地が交わりその先はない。閉じられたドームの中にいるようなものだ。この学校が世界で最も高い建築物だから見晴らしは格別なのだが、屋上にはめったに生徒がやってこない。
 というのも、天球上に配置された九つの太陽が日没までじりじりと照り輝くからで、日陰を探そうにも一つの太陽から隠れれば残り八つの太陽に晒される有様なのだ。朗は脱いだ学生服を羽織るようにして日差しを遮ってはいるものの、やはり暑い。人目に晒されるか、日差しに晒されるかを天秤にかけて彼はこちらを選んだ。
 考え込んでいる彼が屋上への扉を開けたとき、光はいつもの数倍にいや増しているように思えて、朗は思わず顔を上げた。“下”からも日光が差している。彼はあまりの眩さに腕で影を作ってフェンスの施された縁まで進み、細目を開けて下を見下ろした。恐ろしい光景がそこには広がっている。あの“鬼”がその鋼の体躯に太陽を映して世界の端からここへ寄り集まろうとしているのだった。
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何度目かのお久しぶりです。毎日の更新が出来ないことが多いので他のシリーズと合わせて不定期にやっていこうと思います。まずは50回出来てホッとしています。

※こちらのマガジンにシリーズの過去記事をまとめています。七記事ずつをまとめて一つにしたものもありますので一記事ずつ読むのが面倒という場合はそちらをご利用下さい。

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