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イジン伝~桃太朗の場合~XXXXV

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【 一人は背の低いやせっぽちの赤鼻少年で、もう一人はひょろひょろした眼鏡の少年。そして二人とも着ている制服はあちこち擦り切れて、そのボタンのいくつかが取れてしまっていた。ほつれた糸が淋しそうに生地から生えている。
 二人はまさかそこに誰かがいるとは思っていなかったので口を開けたままびくりと体を震わせた。反射的に胸の前で腕を交差させたときに辛うじて糸と繋がっていたボタンが外れて飛んで朗の前に転がる。
「お前かよ」
 心底うんざりだ、というのが丸裸な声色に赤鼻の少年はむっとしてそっちを睨んだ。眼鏡の方は朗を見て目を輝かせる。
「お前かよ、は失礼だろ。オレだよ、猿野だよ。悪いか桃太さんよ」
「わあ、桃太くんだ。僕たちずっと探してたんだよ。会えてよかったあ」
 ポケットに手を突っ込み詰め寄ろうとする猿野を押しのけ眼鏡くんは朗に駆け寄った。朗はその分数歩退いて人懐っこく笑う彼を手で示し、隣に立つ犬村に問うた。「この子は誰なんだ」
「知らないの。同じクラスの木地川くんじゃない。歌うのが得意で音楽の授業では目立ってたと思うけど」
 彼から自分に伸ばされた手をしげしげと見て朗も腕を伸ばした。細くて白い骨ばった手。握手を交わすと意外に温かで強い力に引き寄せられた。
「木地川だよ。よろしくね。こっちは猿野くん。とっても物語が上手いんだ。あ、聞いてたから分かるかな」
 よろしくとほとんど独り言のように呟いて朗は唾液を飲み込んだ。口が乾いて舌が引っかかる気がしたのだ。そっと視線を下げてゆっくりやってくる猿野を見た。口を尖らせそっぽを向いた彼は手の届かない位置で止まった。よく見ると顔色が悪いようだ。うっと口に手を持っていった猿野はその場に崩れて嘔吐した。】

第四十五回

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「大丈夫」
 木地川が振り返って四つん這いになった猿野に寄り添った。嘔吐の内容物はそれほど多くないようだ。各家庭で食される完全栄養食は消化吸収も早いので正午までにはほとんど胃の中に残っていないのだ。犬村はトイレットペーパーを取ってくると引き返し、朗はポケットに入れたちり紙を猿野に手渡しその背中をさすった。触れると猿野がぶるぶる震えているのがわかった。日が差し暖かいくらいなのにどうして。
「たく。情けねえなあオレは。これくらいでいっぱいいっぱいになってるんだからよ」
 猿野がちり紙で口元を拭きながら涙目でそうこぼした。歯を食いしばり嘔吐物をかき集める。
「仕方ないよ。本当に死ぬかもしれない目に遭ったんだから」と木地川。
「向こうで一体何をしていたんだ」
と朗が尋ねても猿野は嘔吐物から目を離さず黙ったままだった。それは少し赤みがかって血が混じっているようだった。
「見られた以上、黙っていても仕方ないよね。僕から話すよ」
 木地川がぽつりぽつり話し始めた頃に犬村が戻ってきた。彼女の持ってきたトイレットペーパーで吐いたものを集め近くのゴミ箱に捨てながら、彼は自分たちが朗を探し始めてから今に至るまでの経緯を語った。話すのを渋っていた猿野も時折口を挟んでは補足して、徐々にその顔へ生気が戻ってきた。そして部屋を出て無事にこの場所まで戻ってきた場面に入るとほとんど猿野が話をしているのだった。
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GEOで毎週一本DVDを借りて映画を見ているのですが、本日行ったらレンタル期間が伸びて二週間になってました。コロナ対応の一つだと思いますが、ちょっとほっこりしました。

※こちらのマガジンにシリーズの過去記事をまとめています。七記事ずつをまとめて一つにしたものもありますので一記事ずつ読むのが面倒という場合はそちらをご利用下さい。

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