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【政策】児童生徒への性犯罪対策はどうなる!?

2020年9月15日、文部科学省は性犯罪により懲戒免職等された教員であるか否かを確かめることができるシステム「官報情報検索サービス」の検索可能な期間を大幅に延長することを発表しました。
また、2020年12月11日、萩生田光一文部科学大臣が「自校の児童生徒であるかどうかを問わず、免職とすべきだ」として保育・教育現場に性犯罪者を復帰させないようにする仕組みを整えていくことを明言しました。
議論が進んでいる児童生徒への性犯罪対策は今どうなっていて、何を目指しているのでしょうか。

1.保育・教育現場での性犯罪のイマ

文部科学省によると、2018年度に児童生徒への性犯罪などで処分を受けた全国の公立小中高校などの教職員は282人となっています。これは過去最多の人数で、2013年度以降200人から減ることなく推移しています。

また、2014年12月に那覇市内の女子生徒が40代男性教諭から性犯罪を受け自殺した事件も起こっています。琉球新報によると、生徒の通っていた県立高校が「自殺と思われるが原因は不明」との報告を県教育委員会や文部科学省に提出していたことも判明しています。

こうした保育・教育現場における性犯罪が絶えない理由の1つとして、高い再犯率が挙げられます。法務省「犯罪白書」によれば、小児わいせつの再犯率が84.6%と非常に高くなっていることが分かります。こうした問題に省庁の壁を超えて対策する必要があります。

2.性犯罪対策としての政策

こうした児童・生徒に対する性犯罪の対策として様々な政策が進められています。

⑴教員免許状の管理の厳格化
まず挙げられることが、そもそもの教員免許状の管理を厳格化することです。現行の教員免許法では教員が懲戒免職になっても、処分からたった3年経過すれば再び教員免許を取得することが可能となっています。同様に児童福祉法によって保育士資格は2年経過すれば再取得できるようになっています。現在、この年数を伸ばすことが検討されています。

⑵教員情報を検索できるシステム
次に挙げられることが、これまでの教員情報を検索できるシステムの構築です。現在、教員採用担当者が対象者の性犯罪などによる懲戒免職処分歴の有無などを情報検索できるシステム「官報情報検索サービス」が存在しています。ただこれまでは、個人情報保護および更生機会の損失を理由に3年で情報にアクセスできなくなっています。文科省はここから大幅に延長し、直近40年間とすることを発表し、2021年2月中には運用開始できるよう現在作業を進めています。

同時に進められていることが日本版DBS(Disclosure and Barring Service)制度の創設です。これは保育・教育を扱う仕事への就職を希望する人に性犯罪歴がないことを証明するものです。
イギリスでは、個人の犯罪履歴がデータベース化されており、一定年齢以下の子どもと関わる仕事をするすべての人は、ボランティアも含めてDBSに照会して、犯罪履歴がないという証明書(=無犯罪証明書)を発行してもらう必要があります。無犯罪証明書なしに働くこと、そして、証明書のない個人を働かせることは違法であり、働き手だけでなく雇用者も罪に問われます。

日本では教員資格・保育資格に免許制度が適用されていますが、ベビーシッターには法規制が存在していません。萩生田光一文科相は12月11日の閣議後会見で「職種横断的な仕組みは非常に有効だ」と指摘し、加藤厚生労働大臣(当時)が2020年7月2日の参議院厚生労働委員会で「犯罪歴を確認できるようにする法整備についてベビーシッターを届出制から免許や認可制にする必要性も含めて検討する」と言及しています。

3.政策を阻むジレンマ

認定NPO法人フローレンスによると、こうした保育・教育現場における性犯罪対策が進まない理由は大きく2つ挙げられます。

第1に前述した加害者の個人情報保護および更生の機会損失です。

「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」は第12条で「個人が行政機関の保有する自分自身の情報にアクセスできる」と規定していますが、第45条において例外として「自身の個人情報であっても、刑罰などに関するものについてはアクセスできない」としています。就職等の場面で、事業者が本人に刑罰に関する開示請求をさせる可能性が考えられるため、個人情報保護の観点でこのような条文が存在します。

第2に縦割り行政の弊害です。

子どもの保育・教育に関わる分野は複数の省庁にまたがっています。ベビーシッターの規制を例に取ると、内閣府の助成が入っていたら内閣府、企業に関しては経済産業省、保育は厚生労働省のように担当省庁が異なります。なお、幼稚園・小学校は文部科学省の管轄です。このため、率先して制度設計を担ってくれるはずの官僚各位も取り組むことが困難になっています。

こうしたジレンマを乗り越えて問題解決に早急に至ることが求められています。

参考文献

・文部科学省「わいせつ行為等に係る懲戒処分等の状況(教育職員)(平成30年度)」
・横山潔[2017].『イギリス性犯罪法論』成文堂
・PR TIMES. 「【 #保育教育現場の性犯罪をゼロに 】フローレンスが、保育教育現場に性犯罪者を立ち入らせない仕組み「日本版DBS」の創設を求める記者会見を実施」. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000162.000028029.html, (参照 2020-12-14)
・琉球新報. 「教員わいせつ被害で女子生徒死亡 高校は自殺の原因「不明」と県に報告」. https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1240300.html, (参照 2020-12-14)
・ReseEd. 「教員のわいせつ行為を厳格化、懲戒免職の検索期間を40年へ」. https://reseed.resemom.jp/article/2020/09/16/672.html, (参照 2020-12-14)
・朝日新聞.「教員のわいせつ免職が過去最多…でも3年後には再取得可」. https://www.asahi.com/articles/ASN9X7FVRN9XUTIL01X.html, (参照 2020-12-14)

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