見出し画像

言葉をあきらめない

日々こうして暮らしていると、感情を揺さぶるような色んなことが起こったり、人から大事な(愉快もあれば不愉快もある)示唆を受けたり、何事も起こらず一日が終わったりするけれど、その度に心の中にぷつんと炭酸飲料の泡のように思いが湧き、ゆらゆらと立ち上っては水面に消えていく。その泡の、形も色もその匂いも、ぱっとはじけた瞬間は覚えていても、いつの間にかそんな思いを抱いたことさえ忘れてしまう。うたかた。あとからその雰囲気や手触りを何となく思い出した時、その細部の像をうまく結ぶことが出来ずに実にもどかしく、結局はその感情を、自らの心に定着することが出来ないまま、ふわっとした泡の残り香だけを記憶に留めて、まあいいやとあきらめて、ついには香りが弱くなり、いつかなんの事だか分からなくなってしまう。そんな時がある。

残しておきたい。急ぎ通り過ぎて、彼方へ流れてしまう景色や、自分の心の有り様を。いつかこの部屋から出ていかなければならないのなら、天井のしみも、窓からの眺めも、床のささくれも、ぼくなりのやり方で留めておきたい。

だから、文字にして書いてみることを、きちんとしていこうと思っている。心の中身をよく整理して、抱いた思いを言葉にして机の上(でも画面の上でも)に並べ直し、その言葉は正しく自分の思いをすくい上げ、反映することが出来ているのか、心に浮かんだ感情はこの言葉で言い表すことが出来ているのか、吟味し、取捨し、配置し、文として組み立てる。そうすることでこれまで形を持たなかった(持たせることができなかった)泡の残像やたちのぼる香りが、初めて形を成し、可視化され、ようやく己の思い至った過程やその成果が、心の中に定着する。書かれるまで分からなかった、論理だけではない、自分の感情がそこに行き着く理由が分かる時がある。

だから書く必要がある。そう思っている。
だから書き続ける。言葉をあきらめない。

この記事が参加している募集

#習慣にしていること

130,873件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?