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さよならの物語



中学二年か三年の頃から少しずつ洋楽を聴き始め、大学生になるころにはいつしかイギリスのロックに惹かれるようになっていた。各種の洋楽誌を読んでは次々とCDを買い漁って、中にはきょとんとしてしまうようなものもあったけれど、好きな物がどんどん増えていった。

楽器を弾くようになってからは(ちっとも上達はしなかったけれど)ギタリストやベーシストなど楽器奏者として鑑賞する楽しみも覚えて、もっと大人になってからはロックだけでなく、ジャズやクラシックにも美しさや楽しさを感じるようになり、普段から楽しんで聴く対象になってきた。どんな音楽にもそれぞれの魅力があって、どんなジャンルが好きかと言われると、音楽そのものが好きでどれも好きとしか答えようがない。

そんな僕が最初に音楽を自ら選び取って聴いたのは日本の歌謡曲、それも女性アイドルの曲たちだった。小四の終わり頃、近所のダイエーの1階にある新星堂で、おそるおそる堀ちえみの「さよならの物語」のシングルレコードを購入したことは今でもよく覚えている。今もあの店舗があるのかないのかは知らないけれど、陳列棚から目当てのレコードを選び出しレジまで持って行くときに誰かから見られているような気がして(見られていても構わないのに)緊張しながら、客が少なくなった瞬間を狙って小学生にとっては決して安くはない買い物を果たしたことを思い出す。

松田聖子や中森明菜といったぴかぴかのトップアイドルとは違って、なんともいえない純朴そうな佇まいが好ましいと思えたのだけど、それよりも曲が良かった。きらきらとした曲のイントロ。小4の僕には到底想像もつかないけれどなんだか胸を締め付けるような幼い失恋をテーマにした歌詞。アップテンポだけど切なさを感じるようなメロディ。当時全盛の高音ぴかぴかというよりは、ややハスキーな歌声。どんな要素も僕を魅了した。

その後も小学校の間は超一流とは言えないアイドルタレントのレコードをお小遣いを握りしめては買いに行った。誰かのファンというよりはラジオやテレビでいいなと感じた曲を聴いていたから当時持っていたレコードはどれも自分にとって、とてもいい曲で、今聴いても心地よい。

でもなぜこうも二番手、三番手のランナーに肩入れしてしまうのかな。僕のアンチヒーローというか判官贔屓な性分は、こどもの頃からなんだなと改めて思うわけです。堀ちえみさんにはやや申し訳ないですけど。

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