(詩) 「緑風橋 梅雨期」




季節の大気は影をもこもらせ
何もかも壜越しに見渡すようにした
そして裏路地を白くくすませている

だが一帯を淡く息づかせたものは
不変だった
たえず移ろい 変わってゆくのは私なのだ

緑は風の内に留まって
応えるように陽が翳る

季節は町を 違う顔に装わせる
道々を辿りながら
これらの町の床しさを
遠く離れた故郷のように
調和させた何かを想った

私は流れの内に入り込み
そこに浸って歩いた

じわじわ照る梅雨期の空が
両目に沁みて滲む
あとは心の目を頼りにした
何処へ行くかは風が いざなった

僅かにそれれば路地の音響が
水のように薄く澄んだ
風が途端に向きを変える
町が呼吸し
ここにある生命のすべてを
一刻  いこわせていた

緑風橋もまた 自然そのものの景観で静止している

神崎川は初夏の扉に向かって
緩やかに流れ続けていた

大陸の黄河のように深く濃く
鮮やかな緑に濁った水が
何故か私に
未知の東洋の記憶のようなものを
甦らせていた