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トランプ支持者はなぜ2020年大統領選の結果を受け入れないのか:陰謀論というスモークの向こうに

大統領選—この言葉にわたしの胸は重くなり苦々しい感情がこみ上げる。「史上最大の不正選挙」とトランプが怒りをあらわにする、今となってはお決まりの演説に悔しさを噛み締めた選挙後。それから数ヶ月は膨大な資料を読み漁り、問題動画を何度も見返し、有識者の意見を比較し、現地調査やデータ収集に奔走する有志団体に募金をし、Twitterで議論を重ねた。しかし年が明け、1月20日の政権交代と同時に意識はバイデン政策への批判や権力監視に移る。時々「我々は諦めていない」と再監査要求や選挙法の見直しを訴える声をタイムラインで確認しながら、それでも「負けた」という変わらない現実に落胆しため息をつく。多くのトランプ支持者同様、わたしはこの燃え尽き症候群に悩まされている。

匿名シロウトのわたしが2020年5月にTwitterを始めて一年と少しの間に2万フォロワー獲得に至ったのは、大統領選によるところが大きい。アカウントを開設した当初、特にトランプに思い入れはなかった。TVを見る習慣がなく、政治に深い関心がなかったわたしにとってTwitter上に渦巻くトランプ・ヘイトは奇異に映り、そこからトランプに興味を持った。コロナやジョージ・フロイド事件に端を発した暴動に全米が大きく揺れ、かつてない人々の分断を肌で感じながらわたしは米国政治にのめり込んだ。トランプとMAGAムーヴメントをこの目で確かめたいと一人でラリーに遠征し、現地で支持者とふれあいトランプの生の声を聴き、帰りの長いドライブで共和党トランプ支持を決めた。選挙日の僅か10日前のことだった。

事前当落予想から開票速報、再選確実と言われたフロリダとオハイオでの当確、そして悪夢のようなジョージア、ペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンの逆転劇、現地で撮影された投票所での不穏な動きの数々…フォロワーの人達に「いつ寝ているのか」と笑われるほど、わたしはTwitterに張り付き情報の拡散を続けた。「何か重大なことが起きている」という焦燥感が消えることはなかった。

「不正選挙」をどう定義づけするのかは難しい。12月が近づく頃には米国保守派の中でも壮大な陰謀論に傾倒する者(いわゆるQアノン)、小規模な不正はあっただろうが(米国選挙に不正が横行しているのは事実である)選挙結果を覆すほどではないという者などで意見は対立するようになる。そしてエビデンス第一主義の保守論客Ben Shapiroが「Two things can be true at once. 二つの事象が同時に事実であることもある。まず選挙結果を覆すほどの大規模な不正は現時点で立証されておらず、トランプ陣営は裁判でも勝訴していないか訴訟自体を取り下げている。これが一つ。同時にメディアや行政やアカデミアなどの流動的かつ一部組織的な世論操作、そしてビッグテクによる偏った言論統制があったのも疑いようのない二つ目の事実。これを公明正大な選挙を汚す行為すなわち不正というなら、イエス、大規模な不正行為はあった」と説明したとき、わたしは非常に納得した。ただわたしは集計ソフトウェアや法の抜け穴を利用した大規模不正の可能性も捨てておらず、今後の再監査や現地調査の結果が気になるところである。

日本にはほぼ米国大手リベラルメディアの受け売りしか情報がなく、またトランプ人気に便乗したと思われる団体が突飛なトランプ救世主論などを唱えたりしたために「不正選挙を疑う=陰謀論者」の図式が成り立っている。しかし最新の米国調査でも実に32%は頑なにバイデンが不正で勝ったと信じており7%も選挙結果の正当性に確信が持てていない。しかもこの数は大統領選直後とほぼ変わらない。このアンケート回答者は24%が共和党支持、44%が無党派、32%が民主党支持であるから多少リベラルバイアスがある。それにも関わらず全体の40%近くが今でも大統領選挙の結果に疑念を抱いているわけである。

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ネトウヨ、トランプカルト信者、Qアノンなどと嘲笑を浴びながらも、わたしは大統領選に対する懐疑的なツイートを繰り返してきた。しかし自分の中で納得のいく総括は、おそらく疑惑への追及に休止符を打ってしまうような罪悪感も手伝って、なかなかできずにいた。そんな時にポッドキャスターのDarryl Cooper(ダリル・クーパー)による長編スレッドを見つけ、「これだ」と思った。40近い連続ツイートからなるクーパー氏の「トランプ支持者が大統領選2020年を受け入れない理由」は非常に的確で、たちまち大反響を呼んだ。ツイートから数日たった今も拡散され続けており、リベラル左派のGlenn Greenwaldを始め多くの大手アカウントが引用ツイートで称賛し、FOXの看板アンカーTucker Carsonも番組内で大きく取り上げた。

前置きが長くなったが、クーパー氏本人の許可を得たのでここに全文の日本語訳を掲載したい。そしてこの記事を大統領選挙後の喪失感に今も苦しむ多くのトランプ支持者達へ捧げる。


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[*読みやすさ、わかりやすさの為に一部注釈や参考リンクを付け、意訳もしています。元スレッドはこちら。]

『トランプ支持者が2020年の大統領選は不正選挙だったと信じる理由はどこにあるのか、その一般的な理論を導き出すための議論を、僕はブーマー世代の彼らとやりつくしたと思う。彼らの見解はおそらく1月6日に議事堂に集まった人々やトランプ自身と同質のものだろう。

彼らのほとんどはいわゆる深夜の不正票とか疑惑の集計マシンとかのセオリーを全てあるいは部分的に信じているけれど、話してみれば、彼らはハニティ*(熱烈なトランプ支持のFOXアンカーマン)やブレイトバート*(右派メディア)なんかからの情報を根拠に自らの立場を弁護しながらも、決してそこに固執していないことがわかる。

彼らの思考を形成した事実を述べよう—精査された、事実の事実だ—まず第一に、FBIその他の諜報機関はクリントン陣営が捏造した根拠を元に、2016年のトランプ選挙活動を監視していた。今となっては関与した人物全てが初日からでっち上げと知っていたことが明らかになっている(ブレナンの2016年7月のメモなんかを参照してくれ)。

彼らはティーパーティー運動*(保守派の観点から憲法的価値観の復興を唱え、アメリカ人の中核的価値への回帰を訴える保守系独立政治勢力)の支持者だ。子供の誕生日に合衆国憲法のポケットブックを贈り、建国の父ミームをプロフィールに貼るような人達だ。国の諜報機関が捏造された書類や偽の証拠を元に大統領候補をスパイしていたなんて、彼らにとっては大問題だった。

スパイゲートに関わった人物は皆、出来る限り関与を否定し続けた。捏造された証拠にDNC(民主党全国委員会)が金を支払った事実を、我々は裁判資料を通して知った。バラク・オバマ大統領によって7代目アメリカ連邦捜査局長官に任命されたジェームズ・コミー元FBI長官は、DNCによる支払いの事実を知りながらTVでそれを否定していた。その一年前のEmailによって彼の認識は明らかであったのにも関わらず。

これは元CIA長官のジョン・ブレナンからアダム・シフ民主党下院議員に至るまでそうだ—TVカメラの前でロシア疑惑に関する証拠を見たと主張しながら、閉じられたドアの向こうでは宣誓の下そんな事実はなかったと認める—皆そうだった。全てが真っ赤な嘘だったと我々が知らされたのはずっと後のことだ。

まさか国のインテリジェンスやメディアがこぞってそんなでっち上げをするわけはないだろう、ロシア疑惑はあったのではと、当初多くのトランプ支持者が困惑した。捏造が明らかになった時、それでも人々は政府に決着を期待し、それすら叶わないとわかると政府に対する幻想を捨てた。

事実として我々は以下のことを知っている。a):スティール文書はトランプ陣営を監視することを正当化するための唯一の根拠だった。b):FBIはスティール文書が民主党の計画的犯行だと知っていた。c):スティール文書の情報源は内容が真面目な物ではないとFBIに証言していた。d):FBIはそれを裁判所に一切報告することなくトランプ陣営へのスパイ活動を続けた。

トランプ支持者達は一連のロシアゲートについて知り尽くしている。彼らは疑惑が事実ではと懸念し、まさかでっち上げではないかと疑いを持ち、悪徳な工作だったと学び、そしてあらゆる組織、政府機関、上下院、メディアにアカデミアがガスライティング*(わざと誤った情報を提示し、相手が自身の記憶、知覚、正気を疑うよう仕向ける手法)する様を目の当たりにしてきた。

さらにタチの悪いことに、この共謀攻撃はトランプ政権内の職員達を怖気付かせた。彼らは生活の一部始終が捜査対象になることを理解した。彼らの多くは弁護士費用で破産することを見越して職を辞した。司法省やメディアに政府は人々の生活を破壊し、選出された役人達を積極的に潰していったわけだ。

公民の授業で習った無垢な信条をそのまま自分の政治的立ち位置に当てはめている人達ですら、制度上の境界を行ったり来たりしている「レジーム」の輪郭を見始めたのがこの頃だ。その「レジーム」が自身の地位を危うくする者に対抗すべく団結したために、少し暗がりからはみ出してしまったから。

共和党のプロパガンダのせいで多くはまだ二大政党の観点から考えているが、トランプ支持者らはこの「レジーム」が党派性の問題ではないことに気がついているんだ。この組織がタルシ・ギャバード(民主党)とジェブ・ブッシュ(共和党)との間だったら全く反対の党に肩入れしていたと。

息子達を米軍に入隊するよう勧め、国歌を斉唱しない輩に腹を立てるようなトランプ支持者達にとって、これがどんなにショッキングで失望的だったか、普段から政府を陰謀の塊(ウォーターゲートにしろコインテルプロ*(FBIによる身分秘匿調査)にしろ)と考えている左翼の人達に説明するのは難しい。

政府だけによる裏切りならまだマシだったんだ。しかし一般企業である報道機関の言動が彼らを過激化させた。誰よりもジャーナリストに裏切られたことで、彼らは政治家や政府職員を憎む以上にメディア関係者を嫌悪した。

「報道機関は視聴率やセンセーショナリズムに突き動かされているだけ」という考え方は、到底もう受け入れられない。もしそれが真実ならば、彼らはエプスタイン事件に飛びついていたからだ。メディア企業は、片鱗が見えてきた「レジーム」のプロパガンダの片棒を担いでいる。我々はもうこれに気づかないふりはできない段階にある。

これは実に方向感覚を狂わせるものだ。2020年11月に偽造投票用紙の有無を断言できたトランプ支持者はいないが、仮に不正票があった場合FBIやメディアが嘘を突き通したであろうことに彼らは確信を持っていた。彼らをそう思わせる理由は十分にあったし、おそらく事実だろう。

トランプ支持者達はメディアがケダモノのように振る舞う様子を4年間見てきた。CNNによる根拠のないデマ報道のせいで、何千人もの人間がカヴァノー最高裁判事を集団強姦の犯人として見続けるだろう。彼らはまたトランプ帽をかぶった高校生を社会的リンチにかけ*(サンドマン君事件)、全米暴動を称賛した。

トランプ支持者達はいつもメディアにはリベラルバイアスがあるとかなんとか主張していた。またメディアを追いつめれば真実を吐くんじゃないかと考えていた。しかしもうそんな甘えは捨てた。人々の生活を破壊し、集団暴動を扇動するためにストーリーをでっちあげるような報道姿勢は、次元が違う。

TIME誌によれば2020年全米暴動の間、プロテストの指導者、プロテストの阻止を拒否した現地の役人達、そして彼らを政治的マスコットに仕立て上げたメディア関係者らの間で毎週のようにカンファレンス・コールがあった。ウクライナで言うところのオレンジ革命だ。

2020年夏の間、民主党州知事達はコロナを利用して投票方法を改正した。郵政投票だけじゃない、署名確認手続きの緩和など他にもある。ロシアゲート詐欺に続いてまやかしの弾劾裁判、もうこの時トランプ陣営は次に繰り出される卑劣な一手を予想していた。

そう、ちなみにその「弾劾裁判」だが、今となってはトランプはバイデンマネーについて司法省の捜査に協力するようウクライナに要請していたわけで、これは当時のFBIとウクライナ司法長官が積極的に支持していたこともわかり、全くもって正当な要求だったわけだ。

そしてハンター・バイデンのラップトップ問題だ。NYポスト紙の特大スクープに対して、ビッグテクは一大検閲を開始した。贔屓の候補者を守るために。みんなわかってることだ。今頃になって「あれはミスだった」とビッグテクが認めたところで選挙は既に終わった後、後の祭りだ。

仮にあれがドナルド・ジュニアの、薬物と集団セックスと馬鹿げたファミリードラマと関連会社のCEOに裏付けられた腐敗を証明するEmailが詰まったドナルド・ジュニアのラップトップだったら、そしてそれをスクープしたのがNYタイムズ紙だったら、検閲なんてあったはずがない。

思い出して欲しい。トランプがロシアの売春婦とオシッコプレイをしてプーチンに恐喝されたというスキャンダルは事実として報道されたが、情報元の人間はその信憑性を否定し、話自体はトランプの政敵である民主党が金を払ったものだった。しかしNYポスト紙は事実を報道したのに締め出しを喰らった。

これに対するトランプ支持者の反応は既に「不公平だ!」などではなかった。2012年のロムニーによる「バインダー発言」報道の時ならまだしも、今はもうそんな段階じゃない。彼らは今はっきりと直視している。政治的戦略として、どんな手を使ってでも彼らを排除せんとする輩にあらゆる組織が侵食されているのを。

それでも記録的な数のトランプ支持者達が投票にやってきた。トランプは2016年より1300万も多くの、当時ヒラリーが獲得した総票数を1000万も大きく上まる票を得た。選挙の夜が深まるにつれ、トランプ支持者達は期待を持ち始めた。しかし勝利に決定的な4つのスウィング・ステートが集計途中にも関わらず一斉に明かりを落とした時、彼らは悟った。

その後の数週間、彼らは陰謀論を売り捌く詐欺メディアや詐話師に振り回されることとなる。何か現実的なものに名前をつけたいと、ひとつまたひとつ更なるトンデモ論に傾倒していった。

メディアとビッグテクはこの機会を逃さず状況を悪化させた。この選挙は何もかもが異常だったが—投票方式の改正、前例のない郵送投票、集計の遅れなど—しかしメディアとビッグテクはそれらに一切触れることなく、透明性を保つこともなく、ただあらゆる議論を禁止した。DM内でのやりとりさえも。

2016年*(クリントンは選挙に不正があったとして異議を申し立てている)を見たってわかるように、そしてラップトップがハンターのものでなくドナルド・ジュニアの私物だったらと考えてもそうだが、もしも今回の選挙に対する異議申し立てが民主党からのものだったなら、疑惑はもっと深刻に捉えられ結果だって変わっていた。みんな理解していることだ。

政敵が集団での暴力を奨励する事実の前に、裁判所の審理拒否に対してもトランプ支持者は実に最もらしい理由で解釈する。「メディアに公開処刑されて暴徒が街を焼くのを覚悟してまでトランプの訴訟に首を突っ込みたい判事なんているわけがないだろう?」と。

TIME誌によれば、トランプが再選した場合に各地で大規模な暴動が準備されていたことは事実だ。彼らは「プロテスト」を標榜するが、夏の全米暴動を扇動したのと同じ集団によるもので、それが意味することは皆わかっている。結局、判事達にも守るべき家族がいるのだ。

偽造投票用紙はひとまず置いておくとして。各地の州知事らが、コロナを利用して違憲に選挙法の改正を行なったのは紛れもない事実だ(憲法上は立法議会のみに許されているのだから)。早期郵送投票はトランプとバイデンに対する大きな熱狂のギャップを埋めるのに役立った。

州知事らは明確な憲法違反だと知っていたはずだ。単純な英語で書いてあるのだから。しかし彼らはそれがバレたところで法廷で争うのは選挙が終わったずっと後だということも熟知していた。それに州知事が法を破ったからといって、何百万という票を投げ捨てる判事などそういない。暴動の恐怖は仄めかされたものでなく、直接的だったのだから。

a):慢性的な官僚主義と安全保障は就任1日目からトランプを破壊しにかかった。b):メディアも片棒を担いでいる。c):選挙法は改変された。d):ビッグテクは政敵を検閲した。d):政治的暴力は合法化され奨励された。e):トランプはソーシャルメディアから締め出された。

トランプ支持者達はいくつかのウサギ穴に落とし込まれたけれども、しかし米国政府が我が物顔で「レジーム」に私物化されているというその点に置いて、彼らは絶対的に正しい。そしてその「レジーム」の渇望は底無しの沼だ。トランプ支持者達はトランプの敗戦を喜ぶべきだ—再選していたら、彼は今、生きていなかったかもしれないのだから。

追記:そうそう忘れるところだった。ドミニオン社のセキュリティ・ディレクターはもう何十年も反差別スキンヘッド組織のメンバーで、全米暴動の最中にも暴動を支持しANTIFAを鼓舞するメッセージをFacebookに載せていた。彼の反社会的な政治暴力の思想が仕事に影響していたかは知らないが、仮に2022年に使用される集計マシン会社のセキュリティ・ディレクターが1月6日の議事堂事件を称賛するメッセージをFacebookに綴っていたらと考えてみてくれ。メディアはどんな反応をするだろうか?ドミニオン社のセキュリティ・ディレクターの話は公知の事実なのに、メディアは無視を決め込んだわけだ。そういうところだよ。

(翻訳終わり)

I'd like to thank Darryl Cooper for his great work. Thank you once again for allowing me to translate and publish your tweets so that many more people can learn from this wonderful piece.  -Blah

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