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[緊急番外編]ライフルと少年〜カイル・リッテンハウス事件の全て〜:ファクトチェック

カイル・リッテンハウス裁判の中継が始まるやいなや、「なんてことだ。メディア報道と事実は全く違う。メディアの作り上げたストーリーにすっかり騙されていた」と人々は驚きの声を上げだした。例えば著名投資家のビル・アックマン(Bill Ackman)は11月11日のTwitter投稿で裁判視聴後の心情を綴り、偏向メディアや党派性バイアスが国を分断していると指摘した。そして革新派リベラル・オンライン・メディア”The Young Turks”のホスト、アナ・カスパリアン(Ana Kasparian)ですら、自身の事実誤認について謝罪した。

訴訟逃れのための謝罪訂正かと訝しむ声もあったが…


しかし当のメディア関係者で公に誤報やデマの流布を認め謝罪と訂正をしたのはアナ・カスパリアンのみで、MSNBCやCNNのホストらは無罪評決後も連日リッテンハウスに対する事実無根の誹謗中傷を繰り返した。


リッテンハウス裁判は日本でも多少の注目を浴びたが、米国大手リベラルメディアの記事をそのまま訳したものや、イデオロギーに満ちた在米著名人やジャーナリストによる発信ばかりで、事件を正確に反映した報道は極めて少ない。「黒人差別反対を訴える善良なデモ隊に、白人至上主義思想を持った極右の白人少年が銃乱射。無罪判決はこれはアメリカ式人種階級社会の表れであり、後々に禍根を残す不条理な判決」というナラティヴを押し通している。毎日新聞ロサンゼルス特派員の福永方人氏や、在米の映画評論家であり「町山智浩のアメリカの今を知るTV In Association With CNN」でアメリカ情報を発信している町山智浩氏なども、非常に意図的な言葉選びで事実をねじ曲げたツイートをしていた。

町山氏の不正確な米国情報は度々在米者に指摘されている
事件当時もデマをツイートし未だ訂正もなし


わたし含め事件当時より情報を追ってきた者や裁判の中継を視聴した者がTwitter上で反論を試みたが、大した効果はなかった。しかし、堂々と事実無根のデマを撒き散らし続けるメディアや、いい加減な知識で当時17歳であった未成人を悪魔化し己の政治イデオロギーに利用する著名人達に警鐘を鳴らす意味で、またリッテンハウス事件に興味を持ちつつも日本語での情報収集に苦労している人達へのクイック・ガイドとして、今回の番外編ではNew York Post紙のミランダ・デヴァイン(Miranda Devine)記者によるファクトチェック記事を訳してまとめてみた。より詳しい解説や事件の全貌については、わたしのnoteで随時カイル・リッテンハウス特集記事を追加しているのでフォローして欲しい。



カイル・リッテンハウス事件にまつわる10の嘘


スティール文書、トランプ支持者が殺した議事堂警官、ニック・サンドマン君事件、トランプ支持者にリンチされたジェシー・スモレット、武漢ラボ流出説は陰謀論、ハンター・バイデンのノートパソコンはデッチ上げ…メディアの報道における故意の嘘や切り取りの中でも、カイル・リッテンハウスについて流布された悪魔的なプロパガンダに勝るものはない。

彼らはリッテンハウス事件を人種問題にしようとしているが、実のところは階級問題であって、シングルマザーと白人労働階級の息子は人にあらずとばかりに殴り倒して悦に入っているのである。

そのような行為が許されているからこそ、彼らはデマを撒き続ける。

「カイル・リッテンハウスは白人至上主義者で、母親が彼にAR-15を持たせて州境を越えてブラック・ライブズ・マターのデモ隊を撃つように仕向けた」というのがメディアによるストーリーの根幹だろう。全て嘘である。

「トランプを支持する白人で、MAGAに熱狂し警察支持を唱えるソーシャルメディアのイキリ17歳が、銃を手に取って、人を撃ってやろうと州から州へと車を走らせた」と解説したMSNBCの国政アナリスト、ジョン・ハイレマン(John Heileman)も典型的なそれだった。

それでは、法廷で論破されたリッテンハウスに関する10の嘘を見ていこう。


1:彼はBLMデモ参加者の黒人2名を殺害した

昨年8月25日に無法地帯と化したケノーシャの街で起きた暴動の最中、カイル・リッテンハウスが正当防衛で撃った3人の男性は全員白人。

この中に黒人はいない


2:彼は州境を越えた

カイル・リッテンハウスはウィスコンシン州ケノーシャから20マイル(およそ32キロ)離れたイリノイ州アンティオークで母親と姉妹と共に暮らしていた。しかし父親、祖母、叔母、叔父、従兄弟、親友はケノーシャに住んでいた。ケノーシャでライフガードの仕事をしていた彼は、8月25日にシフトを終えた後、地元の学校で暴徒が残した落書きを消す手伝いをしている。前日の暴動により警察権力に見放された街では100台もの車が放火被害にあっており、中古車販売店のオーナーから敷地内の警備を頼まれていた大人達がリッテンハウスと友人を勧誘したのもこの時であった。暴徒達は武力行使を厭わず武器を所持していることが多かったため、リッテンハウスは護身用に銃を持った。ちなみにリッテンハウスに腕を撃たれた自称ANTIFAの衛生兵ゲイジ・グロスクロイツも、装填済みのグロックをリッテンハウスの額に向け突進している。

ケノーシャは彼の「地元」である


3:彼はAR-15を州境を越えて持ち出した

Esquire誌などはリッテンハウスを「テロリスト・ツアー客」などと非難したが、誤りである。彼のライフルはケノーシャ在住である親友の継父の家の金庫に保管されていた。


4:彼の銃所持は違法だった

これも誤り。ウィスコンシン州法により当時17歳だったリッテンハウスにはAR-15を所持する権利があった。判事は銃所持法違反とする検察側の訴えを退けたが、そもそも起訴されるべきではなかった。


5:母親が運転して州を越え彼を暴動の現場へ連れて行った

ウェンディ・リッテンハウス(46歳)はケノーシャに行っていない。8月25日の朝、アンティオークにある自宅近くの老人ホームで16時間シフトを終えた彼女は、遅くまで寝ていたとシカゴ・トリビューン誌の取材に答えている。彼女が目を覚ましたときには、カイルは既にケノーシャの勤務先に行っていた。


6:彼は「銃撃のチャンスを求めて」わざわざ暴動に出向いて行った

「17歳の少年がただプロテスターを撃ち殺しながら走り回っていた」、「AR-15を持って車で州境を越え、人々を撃ち始めたのだ」とMSNBCのホスト、ジョー・スカーボロー(Joe Scarborough)は主張していた。彼の持論は既に法廷で全否定されていたにも関わらず、スカーボローはリッテンハウスについて「自称民兵のメンバーで…60発もの銃弾を装填していた」などとコメント。最終弁論の際に弁護人側がこのあまりに酷い嘘を指摘すると、スカーボローは「わざわざそんな重箱の隅を突くような真似をするなんて」とばかりに弁護士を非難するツイートをして厚顔無恥ぶりを世間に晒した。


7:彼は「白人至上主義者」である

そうレッテル貼りをしてリッテンハウスの映像をツイートしたのは、大統領を目前に控えた当時の候補者ジョー・バイデンだった。最近このことについてホワイトハウスのジェン・サキ報道官が理由を尋ねられると、彼女はリッテンハウスの名を
出すことすらせずに「自警団の」と呼称を変え曖昧に話をずらした。左派系雑誌の
The Interceptなどは一つの記事中に16回も「白人至上主義」という言葉をちりばめた。リッテンハウスが白人至上主義者という言い掛かりは経典のように繰り返されてきたが、根拠はどこにもない。法廷においても、FBIがリッテンハウスの携帯電話を調べたところ白人至上主義や民兵に関するものは何一つ見つからなかった。彼らが目にしたのは、警察官や救急隊員に憧れ、警察や消防の士官候補生を務め、一度トランプ・ラリーの前列に座ったこともあり、”Blue Lives Matter”と言って警察を支持する少年の投稿だけだった。しかし、メディアがリッテンハウスに「白人至上主義者」の烙印を押すにはそれで充分だったのである。

幼い頃から警察や消防関係者への憧れが強かったという
介護士の母親に強く影響を受けていると少年は語っている
リッテンハウスの母親はバイデンを公に非難している


8:プラウド・ボーイズと一緒に「白人至上主義のサインをちらつかせた」

昨年18歳の誕生日を迎えた2日後、3ヶ月間の刑務所生活を経て200万ドルの保釈金で釈放されたリッテンハウスは、母親や他の大人達と一緒にバーに行ってビールを飲んだ。これはウィスコンシンでは合法である。ここで彼はメディアがプラウド・ボーイズのメンバーと主張する見知らぬ人物複数と写真に収まるのだが、親指と人差し指でOKサインを作っている。このOKサイン=白人至上主義のシンボルという誤った主張は2017年に4chanから発生したデマで、リベラルをひっかけて楽しむ悪ふざけに起因している。実際このジェスチャーはバイデンもよく使う。写真のためにとったポーズは軽率だったろうが、この一幕がリッテンハウスと白人至上主義者達を結びつけるものとはならない。

※※※ちなみにこのエピソードに関しては2021年6月28日付の左派誌The New Yorkerでリッテンハウスへの密着取材と共に詳しく説明がなされている。彼も家族もスポークスマンであるディヴィッド・ハンコックもバーにいたのがプラウド・ボーイズだとは知らず、ジェスチャーの意味も理解していなかった。リッテンハウスに至っては「民兵」についても知識がなかった。また、前任の弁護団及び世話人であったリン・ウッドやジョン・ピアースに特定思想団体へのマスコットとして利用されたとリッテンハウスは吐露している。


9:彼は 「指紋を隠すために」手術用の手袋をしていた

このデマを広めたのは口だけは大層なセレブの一人、マシュー・モディン(Matthew Modine)であった。リッテンハウスが手袋をしていたのはプロテスター達の応急処置に当たっていたためである。また数時間前に学校の清掃を手伝っていたときにも同種のグローブを着用している。ちなみに彼の顔は昼夜剥き出しであったが、指紋を隠すくらいなら顔もマスクなどで隠していたはずである。

この恥ずかしいツイートは既に削除されている


10:判事は弁護側に偏ったトランプ支持の人種差別主義者である

この中傷はブルース・シュローダー(Bruce Schroeder)判事が「被害者」という言葉を検察側に使わせなかったことに基づいているのだが、これは陪審員が判決を下す前にはよく適用されるものである。また、判事は昼食のアジア料理がサプライチェーンの危機によって滞っているという大しておもしろくもないジョークを披露したし、彼の携帯電話の着信音はトランプ・ラリーでも流れるLee Greenwoodの“God Bless the U.S.A.”だった、という実にくだらない難癖に過ぎない。実際、シュローダー判事は民主党員で、ウィスコンシン州の上院議員選挙に民主党から出馬したこともあり、民主党の知事が初めて任命した人物でもある。裁判の終盤で18人の陪審員のうちリッテンハウスの運命を握ることになる12人を決める際、リッテンハウス自身に名前のくじ引きを許可したのを「極めて異例」と報じたシカゴ・トリビューン紙の言葉選びにも偏見が見られる。「これはいつもやっていることだ」と法廷で判事は言っていたのだが。

メディアの報道姿勢に憤りを隠さない判事


陪審員の審議2日目となった水曜日、シュローダー判事はメディアの偏向報道を非難したが、リッテンハウスへの中傷よりも自分の評判に対する攻撃に最も腹を立てているようだった。判事は裁判のテレビ放映を止めると脅したが、それはまさに間違った解決策である。

一般市民が自分の耳で数々の証拠を聞くことができたからこそ、メディアの悪意に満ちたアンフェアな情報発信にも気づけたのだが、彼らの報道姿勢が公正な司法裁判を脅かし、リッテンハウスが正当に無罪となった場合の新たな暴動を確実にしているのである。

[引用記事終わり] 



メディアの報道姿勢や個人のリテラシーが今以上に問われている時はないだろう











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