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パッケージがグリーンになるとき [NEZ 2022年3月24日]

NEZ Magazineのウェブ版を翻訳しています。

「香水産業と持続可能な開発:メッセージの背後にあるもの」というテーマで特集が組まれた全7回の記事で、今日は第6回目です。

  1. サステナブルな香水って可能なの?(翻訳済)

  2. 天然香料 - 植物とエッセンスと人々(翻訳済)

  3. 高潔な合成香料を目指すとは?(翻訳済)

  4. 信頼できる香水の処方とは:異なるツールと一つの理想(翻訳済)

  5. ラボの内情:供給よりもエコ!(翻訳済)

  6. パッケージがグリーンになるとき(今回)

  7. 香りの循環:香水のライフサイクル

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パッケージがグリーンになるとき

By Delphine de Swardt
2022年3月24日 

フレグランスのボトルとパッケージにおいて、環境に対する責任とラグジュアリーは共存できるのだろうか。
フレグランスのパッケージにおける従来の規範、すなわち無垢な白さ、完璧な紙、透明なガラス、高級な素材に付随する重厚感は、持続可能なソリューションと相容れないように思われる。それでも技術は向上し、考え方も変わりつつあり、自然派志向のブランドは代替品を選ぶようになってきている。

目に見えない香りを形にしたものであるボトルはコレクターズアイテムであり、香りを伝える強力な手段だ。そのため品質、仕上げ、外観に妥協は許されない。しかしその製造に伴う環境負荷を低減するために、大きく2つの技術的な道が模索されている。一つは詰め替え用ボトルの開発。もう一つはガス炉から電気炉への切り替えや、再生材・リサイクル材の利用拡大など、製造時の二酸化炭素排出量を削減することだ。

しかし通常ボトルと呼ばれるものは、ガラス製の本体、プラスチック製のポンプ、プラスチック製、金属製、ガラス製のキャップ、そして密閉性を確保するための移行部品など、実際には異種材料からなるさまざまな要素の集合体であるため、ボトルを多角的に検討しなければならず、リサイクルには本当に頭の痛い問題である。

技術開発と新しいデザイン

まずメインとなる本体、つまり液体を入れる容器であるボトルそのもの、一次包装と呼ばれる部分から見ていこう。最近は新しい素材がカタログに載るようになった。リサイクル性の高いアルミニウムや、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、銅の合金であるザマックなど、新しい素材が登場しているが、まだあまりリサイクルされていない。ガラスは依然として王者である。リサイクルや再資源化の可能性がある一方で、高級品である以上、高い水準が支配している。そこが問題なのだ。非の打ちどころのない最終製品に慣れているお客様を満足させることが重要な場合、リサイクルガラスを組み込むことで外観や形状を変えることができる可能性があるが、オリジナルと同等でなければ許容されない。Pochet Groupのボトリング部門であるPochet du Courvalはまもなく創業400周年を迎えるフランスで最も古いガラスメーカーであり、そのガラスの品質は大手高級ブランドから高い評価を得ている。

「エコ・レスポンシブル・ソリューション、未来のビジョン」を意味する同社独自のSEVAガラスは大きな成功を収めていまる。「SEVA 1には高級香水産業から特別に回収されたリサイクルガラスが14%、SEVA 3には15%のPCR回収ガラスが使用されている。各ラインの透明度、柔軟性、色合いは、当社の代表的なガラスと同じだ。」とプロダクトマーケティング部マネージャーのAnne-Sophie Legrasは話す。その結果、ヴィクター&ロルフに始まり、最近ではシャネルの5番の100周年記念限定モデルに採用されるなど、同社のパートナーブランドを魅了することになった。

なおガラス製造では、廃ガラスであるカレットが原料の一つであるため、リサイクルはすでに製造工程の一部となっている。しかし「SEVA」は再生ガラスの比率が高く、発表されている数値にはカレットは含まれていない。この割合は今後さらに増加することが予想され、すでにロシャスの「Girl by Verescence」のために作られたモデルのように、40%リサイクルのPCRガラスを使用したボトルが市場に登場している。

エコデザインによってボトルの環境負荷を抑えるためのもう一つの選択肢は、ガラスを薄くすることである。ガラスを薄くすることで重量を減らすことができ、輸送やオンライン販売において重要な基準となる。「シャネルのガブリエルやランコムのイドルに使われている15mmのボトルには、このような工夫が施されている」とAnne-Sophie Legrasは話す。サステナブルなソリューションが新しいデザインスタイルを生み出すことを証明する技術的な偉業だ。

香水のレフィル

詰め替えボトルに関しては、ミュグレーが1990年代に、18世紀の香水店にあったビネガーファウンテンを改良した「La Source」を発表し、そのコンセプトを開拓した。顧客はこのファウンテンから補充するために店に行かなければならなかった。現在ではCETIE(国際ボトリング技術センター)の支援のもと、ガラスメーカー、ブランド、ポンプメーカーが共有するアプローチによりスクリューキャップが標準化され、従来の不正開封防止用圧着リングと競合し、カラー(ポンプヘッド)はビジュアルコードに合わせて縮小されている。

この改善により、大きな容器やねじ込み式ポンプを備えたボトルによる家庭での詰め替えが促進さた。この流れを受け、レフィルは店頭やオンラインで購入できる携帯型が登場し、ブランド側もさまざまな充填方法を採用するようになってきている。アップサイクルの精神に基づき、ヴィンテージボトルを提案するブランドもある。例えばFloratropiaはフレキシブルなパウチに入った小さな詰め替え用も販売している。またドリス・ヴァン・ノッテンの新コレクションのように、誰も捨てられないような美しいボトルを持続可能な形で再利用することに重点を置いているブランドもある。

フランスではSephora、Nocibé、Marionnaudなどの大手小売業者が、Cèdreなどの専門の分別プラットフォームを通じて、ガラスメーカーに返却されたボトルの回収・リサイクルサービスを提供している。このプログラムを利用した顧客は割引券をもらえる仕組みだ。

木とコルク

ボトルのキャップとポンプはリサイクルしにくく、現在では特定の処理が施されている。キャップには密閉性を高めるためにプラスチック製のインサートが使われているが、これはリサイクルしにくい。そこでPochet は、磁石を内蔵したアルミキャップ「エターナルトップ」を開発した。Coverplaは密閉性を高めるためにコルクを挿入した木製キャップを提供している。またObviousは、ワインボトルのコルク廃材を利用したゼロインサートキャップにコルクを採用している。ポンプは香水成分との相互作用を避けるため、不活性であるプラスチックが内部部品として広く好まれている。ポンプにプラスチックを使用しないことはできないが、使用した方が良いプラスチックもある。例えば循環型経済を提唱し、特定のプラスチックの使用を非難するEllen MacArthur Foundationとの合意により、この分野のリーダー企業の一つであるAptarは、2021年に論争の的になっているプラスチックであるPOM(ポリオキシメチレン)を含まないINUNEコレクションを発表した。

二次包装について、環境保護活動を行う多くの人々は「最高の包装とは無包装である」と感じている。特に高級品には透明な折りたたみ式セロファンによる包装が義務付けられており、この包装があることで、無傷の製品が保証されるのだ。パンデミックという状況下では、この衛生的な意味合いは一部の消費者にとって心強いものだが、今日これが疑問視されている。フラゴナールのようなメゾンは、このような方法をとったことがないと主張している。段ボールに関しては、企業はFSC認証を受けた持続可能な方法で管理された森林からの調達に力を注いでいる。全体として持続可能な代替品が存在するのだ。その意味で、ニッチなメゾンはより大きなコミットメントを示す戦略をあえて採用している。

Aemiumは環境に配慮し、持続可能な方法で管理された森林から調達した木箱のパッケージを採用するなど独自の取り組みを行っている。Olibanumも同様に、軽量化したボトルに加えキャップを廃止し、無漂白、セロファンなし、水性・無溶剤の接着剤とインクを使用した未加工のリサイクル段ボール製の箱を提供している。Essential ParfumsのFSC認証の段ボール箱も特筆すべきもので、目に見えるボトルは段ボールのバンドで留められた状態で中に収められている。またUne Nuit Nomadeでは、香水をパッケージなしで販売し、10ユーロの割引を実施している。

キノコ由来のパッケージ

伝統的な高級品については、この分野を専門とするDoro packagingの副社長であるPhilippe Ughetto氏が説明する。「パッケージメーカーには二酸化炭素排出量の削減という生産チェーンの観点と、製品の観点の両方から環境への影響を減らすという未来への共通のコミットメントがある。生産に関しては、紙の重量を減らすエコデザイン、発泡スチロールをやめて段ボールにする、リサイクルしやすい単一素材での組み立てを検討する、といった流れが一般的だ。印刷に関しては、天然素材のインクが好まれる。最後に、研究開発の取り組みとして、例えばパルプや天然繊維をベースにしたバイオ素材が注目されている。」とはいえ、これらの技術革新は従来の方法よりもまだ高いことは否定できず、すべてのブランドがこのゲームに参加する準備ができているわけではない。

フィンランドのSulpac社が開発した素材は、バイオ由来の興味深い選択肢のひとつだ。この会社は木材チップと植物バインダーからなる工業用堆肥化材料を開発した。またオランダのGrown社とイギリスのMagical Mushroom社が提案したキノコの菌糸を使った素材は、より驚くべきイノベーションである。有機栽培、断熱性、堆肥化、耐衝撃性など、多くの利点を持つキノコのパッケージは、Haeckels、Ffern、Lushなどのブランドで使用されている。もしこのようなイノベーションがまだラグジュアリーの基準を完全に統合するのに苦労しているとしたら、ラグジュアリーはその基準を見直すことができるのではないだろうか。

Grown社のCEOであるJan Berbeeは次のように説明する。「私たちは今、波の始まりにいる。企業は使い捨てのプラスチック包装がもたらす破壊的な影響について理解し始めているところだ。ラグジュアリー業界では、パッケージが環境に与える影響を大幅に削減する必要があるというシグナルがますます多く受け取られるようになってきている。これらのシグナルは政府からのもので、時には法律によるものもあるが、多くのNGOが業界に働きかけて、変化するよう後押ししている。そしておそらく最も重要なことは、より多くのエンドユーザーが無駄なパッケージや持続可能性の低いパッケージを受け入れないようになってきていることだ。パッケージを開ける動画に膨大な数の否定的なコメントがあるのは、その強力な証拠だ。Plastic Pollution Coalitionのウェブサイト[1]は『美しいパッケージの醜い真実』を非難する数あるサイトの一つに過ぎない。」

意識改革

精神は確かに進化しているが、この業界には惰性がある。それは企業が旧態依然とした、つまり持続不可能なパッケージング・ソリューションを導入するために、特に機械に対して多額の投資を行ってきたことが主な理由だ。Jan Berbeeは、次のステップとして最も重要かつ緊急なのは、意識を高めることだと考えている。Grown社のような企業にとっては、ヨーロッパに工場を増やすことで生産能力を高め、よりアクセスしやすくすることが目標であり、それはコスト削減とさらなるイノベーションにもつながる。もちろん、無漂白でラフな未加工のオーガニックな外観は、新しいメゾンを惹きつけ、ラグジュアリーコードとの整合性をより高めるために今も取り組んでいることである。またキノコと香水の長期的な同居は、2つの相反するコンセプトの和解と考えるのも面白い。1つはカビの象徴、もう1つは自然保護の象徴で、さまざまなレベルで互いを補い合っているのである。

したがってグリーン・パッケージングへの移行は近い将来、リサイクル不可能な部品や付属品の交換や、消費者の期待の変化をもたらすことが期待される。サプライヤーや大手ブランドは新しいシステムを採用し、産業規模でイノベーションを実践している。ある種のニッチな企業、つまりより自由で資金もなく、それゆえ必然的に創意工夫を凝らす企業から生まれる原動力も注目に値する。彼らは特定の素材や技術を放棄するという過激な選択と決断によって、この分野全体にインスピレーションを与える手助けをすることは間違いないだろう。

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原文はこちら
https://mag.bynez.com/en/reports/perfumery-and-sustainable-development-behind-the-messaging/when-packaging-goes-green/

画像:NEZ Magazine

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