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#2『正欲』〜「普通」じゃない「普通」って…〜

あらすじ

まとも。普通。一般的。常識的。自分はそちら側にいると思っている人はどうして、対岸にいると判断した人の生きる道を狭めようとするのか。
(「正欲」より)

動画配信を始めた不登校の小学生の息子を持つ啓喜。
デパートで働く他人から理解されず、理解もできない夏月。
その同級生の佳道。
大学祭のミスター/ミスコンにおけるルッキズムに疑問を持ちダイバーシティフェスの成功に奔走する女子大生、八重子。
同じ大学に通うイケメン大学生、大也。
彼らの言葉から発せられる、数多くの「普通」。
「正しい」って何だろう。
彼らが織りなす、普通の一般的な物語。

著者紹介

朝井リョウ(アサイリョウ)
1989年岐阜県出身。
2009年『桐島、部活やめるってよ』でデビュー。新人ながら神木隆之介主演で映画化され話題に。
その後も、『チア男子』、『何者』、『世にも奇妙な君物語』など数多くの作品を輩出し続ける作家。
本稿で紹介する『正欲』は作家生活10周年を記念した書き下ろし長編小説。
『スター』と同時刊行。
なお、高校時代はバレーボール部に所属し応援団長も務めるという一面も。
(Wikipediaより)

こんな人にオススメ

昨今のあらゆる差別・区別の反対運動に対して興味がある
全面的に上記の運動に賛成している
Youtubeのコメント欄を読むのが好き
朝井リョウに興味がない

とにかく「ヤバい」!!

今回ご紹介する本は、朝井リョウ著『正欲』。
この作品を読んだ感想をとにかく簡潔に表現するとすれば、
とにかく「ヤバい」に尽きる。
どこのレビューサイトや書評を見てもヤバい!とか、言葉にできない感情。とか、全く的を射ない感想ばかり。
結局ぼくは、何の本かわからないまま購入に至った
だけど、結果ぼくも同じ感想を持つことになってしまった
この本の前では誰もがことばを失い、内容について語ることすら躊躇う。そんな著作だ。
未読の方は、ぜひ著者の金言に目を通しながら読み進めてほしい。

ぐちゃぐちゃになった辞書

この小説の中で語られる一つのキーワードは、
「多様性」だ。

いわゆる昨今のLGBTQにおける問題や、
ルッキズム
レイシズム…
あらゆる多様性に目を向けたときに、ぼくはこれらについて語る自信を読後に失ってしまった
今まで自分が普通だと思っていたことが普通ではなくなり、文字通り世界が一変してしまった

ぼくには、(一般的には)性的マイノリティに属する友人がいる
彼はその事実は隠してもおらず、この前もぼくにプライドイベントに参加してきた楽しそうな写真を送ってきた

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ぼくはそのメッセージに、

「“マイノリティ向け”のイベントってどんなことするの?」

そう、返信しようとした
だけど、その瞬間ハッとした

自分ってマジョリティだっけ?
彼は今まで普通じゃない人生を歩んできた?

自分が無自覚に発した言葉は、本稿の冒頭に引用したように対岸にいる彼らに対して異常なまでに礼を欠いていることばだと感じた

差別は良くないよね
少数派にも耳を傾けないといけないよね
LGBTQについて考えることって大事だよね!
誰がどう見ても真の命題だ

だけどこの言葉たちは、大事な主語たちが抜け落ちている

(ぼくらがする)差別は良くないよね
(ぼくらは)少数派にも耳を傾けないといけないよね
(ぼくたちが)LGBTQについて考えることって大事だよね!

これらの言葉は、あくまで自分たち本意で自分たちが「普通」であるかのような前提で成り立っている。

ぼくは、この『正欲』という本で自分の中にある辞書の
「普通」「一般的」「まとも」「マイノリティ」「マジョリティ」
そんな言葉たちをサインペンでぐちゃぐちゃに塗りつぶされ、穴を開けられ、破られ、捨てられた。
自分の普通が、普通でなくなった瞬間である。

ぼくは、そんなぐちゃぐちゃにされて紙屑になったページたちを
新たなページとして復元する作業を、今行っている。

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