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「高齢化は女性だけの問題」説を検証した。

高齢化を解消する妙案のないままに、我々は世界にも類を見ない超高齢化社会へと突き進んでいる。

そんなある日、Twitter(現X)にて、以下のようなPostを目にした。

男性は健康寿命と平均寿命の差も短いし、さっさと死ぬから関係ない。
少子高齢化は長生きして社会保険を食い潰す女性の問題。

非公開アカウントのため出典を示せない

なるほど。一理ある。
とはいえ、ちょっと極端な意見のようにも見える。
気になったのでどのくらい的を射た意見なのか調べてみることにする。


用語の整理

基本的な用語について事前に整理しておく。

本記事では、65歳以上の者を指して高齢者と呼称することにする。
65歳以上の男性は高齢男性であり、65歳以上の女性は高齢女性である。
(本記事では、WHOの定義を採用し、65歳以上を高齢者とする。日本の現状を鑑みるに日本老年学会や日本老年医学会のように75歳以上を高齢者とする方が適切だと感じるが、資料の都合上65歳に統一する。)

老年人口とは、国勢調査報告において、65歳以上の人口と定義される。

人口比(2021年)

内閣府の令和4年版高齢社会白書を参照する。
2021年時点の人口は以下の通り。

総人口  :12,550万人
内男性人口:6,102万人
内女性人口:6,448万人

老年人口 :3,621万人
内男性人口:1,572万人
内女性人口:2,049万人


総人口における女性の割合は51.4%だが、老年人口では56.5%、75歳以上の後期老年人口では60.7%まで上昇する。当然ながら、この男女比の偏りは年齢が高くなるほど大きくなっていく。

令和4年版高齢社会白書を元に作成
令和4年版高齢社会白書を元に作成


人口比(2065年)

将来の人口予測については、国立社会保障・人口問題研究所の人口統計資料集の2023年改訂版を使用する。
これによると、2065年の日本の人口は以下の通り予測されている。

総人口  :8,808万人
内男性人口:4,240万人
内女性人口:4,567万人

老年人口 :3,381万人
内男性人口:1,474万人
内女性人口:1,907万人


総人口が大きく減少している一方で、老年人口はほぼ横ばいなのは恐ろしいものがある。
総人口における女性の割合は51.9%、老年人口では56.4%、75歳以上の後期老年人口では59.3%。
高齢化が進めば、男児比は女性側に傾いていくと予想していたので、この結果は少々意外だった。

国立社会保障・人口問題研究所の人口統計資料集の2023年改訂版を元に作成
国立社会保障・人口問題研究所の人口統計資料集の2023年改訂版を元に作成

社会保障

ここまで確認したデータを見るに、男性よりも女性こそが我が事として真剣に取り組むべき問題だと主張する分には理解できる部分もあるが、女性だけの問題とは言い難い状況が見えてきた。

社会保障費についても見て行こう。
先の男女比と併せて考えるため、2021年度の厚生年金受給者のデータ(厚生年金保険・国民年金事業の概況)を参照していく。
また、老年年金は基本的に65歳からの支給のため、65歳以上のデータに絞って参照する。

男性の老年年金受給者数:1005万人
男性の老年年金平均月額:169,006円
総支給額:約1億6985万円

女性の老年年金受給者数:492万人
女性の老年年金平均月額:109,261円
総支給額:約5376万円

これを見る限りでは、年金を多く受け取っているのはどちらかと言えば男性の方であるように見える。
(これに関しては負担額が男性の方が多いためだが、負担額が多いのは賃金格差のためでもあり、批判も擁護も難しい)

それにしても女性の受給者数が少な過ぎる。
国民年金受給者が別でいるとはいえ、2,049万人いるはずの高齢女性の内で492万人しか受給していないというのは俄かに信じ難い。
年金を受給できない人はどう生活しているのだろうか? 生活保護だろうか?

こちらも2021年のデータ(令和3年度被保護者調査)を確認する。
老年男性の生活保護受給者は123,530人。
老年女性の生活保護受給者は140,160人。

14万人は少ない。国民年金が受給できない高齢女性が約1500万人いるはずなのだ。別に収入があるのか、家族に頼って生活しているのか、貯金を切り崩して生活しているのか。
受給者数を比較すると女性の方が多少多いが、このデータを以って女性が社会保障費を食い潰していると主張するのは無理がある。

寿命

男女の平均寿命と健康寿命についても確認していく。

男女共同参画白書 令和4年版

2019年時点では、

男性の平均寿命:81.41年
男性の健康寿命:72.68年
男性の不健康寿命:8.73年

女性の平均寿命:87.45年
女性の健康寿命:75.38年
女性の不健康寿命:12.07年

不健康寿命には5年ほどの差がある。
寿命より健康寿命の延び幅が大きいのは希望か。
なお、健康寿命とは日常生活に問題がない程度の健康さを保っている年数を指す。

介護

さて、不健康寿命にこれだけ差があるということは、要介護者数には差がありそうだ。
当初は男女共同参画白書を参照しようとしたが、平成27年度を最後に要介護者に関する記述が消えてしまい、介護を理由とした離職者のデータしか扱わなくなってしまったため、介護給付費等実態統計を参照することにする。

令和5年4月審査分における要介護者認定者数は
総数 :720万人
内男性:233万人
内女性:488万人

令和四年度 介護給付費等実態統計を元に作成

要介護者が社会において負担となっていることは言うまでもない。社会保障の問題だけではなく、他の仕事に就くことができた労働力が介護のために割かれることになる損失も大きい。
なお、人口に占める受給者割合を見るに、女性の方が要介護者になりやすい傾向があるように思う。

令和四年度 介護給付費等実態統計より引用

結論

色々なデータを見てきたが、社会的な負担という意味では「高齢化は女性だけの問題」「高齢化は女性側の問題」だとは言い難い。女性の要介護者が多いことは確かだが、男女どちらもお荷物である。
ただし、個人的な視点に立つのであれば、老後がより深刻なのは女性の方である。老年年金の平均月額には大きな差があった。今後この差は縮小することが予想されるが、賃金格差は現在も存在するため差がなくなるわけではないだろう。健康寿命の問題もある。今後縮小されていくであろう社会保障も考えると、高齢化は女性だけの問題では決してないが、高齢化によってより苦しむのは女性である
少子化の文脈において「現代の女性たちは社会に対して産まない選択をした」といった少子化は女性による社会へのアクションだとする主張を耳にすることがあるが、その選択の結果として高齢化は加速し、その因果は女性に帰っていくのかもしれない。救われない話である。


今後の女性の寿命の予測

女性が男性同様に働くようになれば、女性の平均寿命は男性のそれに近付くという予想がある。
実際にアメリカではその傾向があるという話も聞く。

だが、残念なことに内閣府はそのように考えていない。以下は前述の資料に登場する2050年の男女の平均寿命の予測である。

女性:90.4歳
男性:84.0歳

令和4年版高齢社会白書

現在の男女の平均寿命の差を維持したまま、緩やかに寿命が伸びていくと予測されている。

個人的にも、アメリカ人女性の働き方と日本人女性の働き方には大きな差があるため、アメリカのように女性の平均寿命が短くなることは期待しづらいだろう。

老後に備えよ。


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