肩書きをなくした無職と主婦が、パソコンの中で生きなおす
会社をやめた瞬間から、肩書きが消滅した。
しいていうなら無職だけど、それって職業じゃないし。名乗れる肩書きがないことは、なんだか不安で居心地がわるかった。
新規入会ポイントが欲しくて申し込んだクレジットカードは、数分で審査落ち。「ぜひご入会ください!」だなんて明るく誘っておいて、こんなのひどすぎる。結局、肩書きがないとだれにも信用されない。
過労で体調を崩し引きこもってから1年。家賃も食費も税金も永遠に発生し続けるため、そろそろ働かないといけない。
そんなときに見つけた「完全在宅OK!自由な時間で働けます!」とアピールする事務の求人。本当か?と疑いつつも応募してみることに。雇用形態が正社員ではなく業務委託だったこともあってか、なんとか採用された。
面接を担当してくれたSさんが、採用後の顔合わせで言ったことをいまでもよく覚えている。
「大丈夫じゃないときは、大丈夫じゃないって言ってほしいの。わたしも言いたいから!」
じつは面接のとき、体調を崩して退職したことをうっかり話してしまったんだけど。Sさんも似たような経験があるらしい。
結婚と出産を機に会社をやめ、専業主婦になり、いまの土地に引っ越したとのこと。ふたりの子供を育て、「また働きたい」という想いがわきあがり、仕事探しをはじめたそうだ。
とはいえ、子供の行事や急な体調不良がひっきりなしに訪れるので、安定的に働くのが難しいらしい。
たくさんの企業へ応募したけど、ブランクがあり不安定な環境でもあるので、なかなか採用が決まらなかったと言う。
そんなわたしたちが、「事務員」という役割を得られた。毎日やることがあるのは、プレッシャーもあるけどなんだか嬉しい。
在宅ワークなので対面で顔を合わせることはなく、オンライン会議とチャットで会話をする。体調が不安定なわたしにも、子育て中のSさんにとっても、通勤がないのはありがたい環境だ。
お互いのチャットでよくつかうキラキラハートのスタンプには、「いいね!お疲れさま!」の意味がこめられている。画面ごしでも気持ちは伝わってくる。
最近、新しいメンバーが採用された。出産を終えたばかりらしい。
「大丈夫じゃないときは言ってね。わたしも言いたいから!」
Sさんからもらったこの言葉に救われたから。パソコンのカメラ越しに、新メンバーに向かって、まるで自分の言葉かのように伝えた。このハッピーな伝言ゲームが、この先も続いたらいいな。
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