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やっと捨てられる

俺は物を捨てられない性格だ。
美味しかったお菓子の袋とか、友達と行った博物館の半券でさえ捨てられない。
そんな俺だが、なんと今、あるものを大量処分をしている。何を処分しているか...........

答えは「中学時代の思い出(の一部)」である。

きっかけは何だったのだろう。
試験直前の焦りか、それとも夕食中に来た、アルバイト採用の1次試験通過の電話か。なんにせよ異常なのは変わらない。ガサゴソと部屋の奥深くにある教材を取り、ダンボールに詰め込む。何を捨てたのか、具体的には教科書、ファイル(ノート)、テスト計画表、模試の結果...etcと勉強関連のものだ。理科、社会、数学の教科書は残しておいた。勉強したいから。それでもダンボールは4段にもなった。どうやって処分しよう...w
パラパラとファイルをめくってみると、俺と先生のやり取りが残されていた。俺のバカみたいな話に、先生は真摯に受け止めて返してくれているのがよく分かった。

俺は恵まれていた。

"友達"と言える存在が居たかと言われたら分からない。だけど、学校にいる生徒も先生も"俺"を認めてくれていた。トランスジェンダーだとカミングアウト出来なかった(そもそもトランスジェンダーという単語を知らなかった)が、それなりに学校は楽しかった。

スカートが嫌だった。
女の子扱いが嫌だった。
でも学校へ行くのは苦痛じゃなかった。

自分らしくいられたか、と聞かれたら「いいえ」と答えるだろう。それでも認めてくれる仲間がいるのは心強いものだった。たとえ"本当の俺"じゃなかったとしても。(ヘンテコな俺に対して陰口を言う人は一定数いたが少数派だった)

そんなことを思い出す。考える。
捨てられなかった思い出たち。怖かった。
捨ててしまったら認めてくれていたその人を捨ててしまう気がして。
自分がその温かさを忘れてしまう気がして。
心の逃げ場が無くなってしまう気がして。
でもやっと捨てられる。
俺は忘れないよ。頭の奥、心の奥でずっとずっと覚えてる。温かさも、時には冷たさも。家庭やジェンダーや過去のことについて苦しんでいたことも。
だからバイバイ、俺の思い出たち。
たくさん支えてくれてありがとうございました。
俺の中でこれからは生きててね。

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