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『あわよくば症候群』 掌編小説

 三十代はおじさんおばさん。
 ましてや子供を前にして自分の事を『お姉さん』なんて言えない。
「私たち、三十五にしては若いよね?」
 ううん、年相応。四捨五入したら四十だよ。
「全然変わってない!」
 うーん、身体は変わっている。『化粧』と言うだけのことはあり、みんな顔は化けている。残念ながらボディーはごまかせていない。
 久々に会う同級生の会話。
 愛想笑いに限界を感じ、一次会で退散しようとしていた私の目の前に現れたのは元彼らしい。いや、元々彼? 元々元彼? まぁいいや。『自称元彼』から声を掛けられた。
 とにかく楽しそうだ。
 あの頃はこうだった、あの時はああだった。昔の話で持ちきりだ。
 よく見ると周りも盛り上がっていて、当時付き合っていた男女が仲良く肩を寄せ合っている。
 普段からなのか、今日という日が特別なのか。
 女性はドレスアップし、髪を整え、手にはネイルを施している。
 みんな綺麗だし、そう見えるように努力している。
 私もその一人だ。新しい刺激を求め同窓会に参加したと言っても過言ではない。それがどうしたことか。目の前にいる男性群のおじさん化。
 ビール腹を自慢し、独身女性、もしくは元カノに優しくする仕草。この体型でワンナイトを狙っているのかと思うとゾッとする。
 男性は殆ど『スッピン』だ。
「少しは小綺麗に見える努力しろよ」
 私は思わず呟き立ち上がった。
「え? 帰るの? 二次会は?」
 同級生の間を通り抜け、出入口のドアに手を掛けた。
「あっ」
 それはほぼ同時だった。
 少しだけ驚いた顔。
 私と同じリアクションの男性が扉を挟んで立っていた。
 私が手を離した瞬間、男性はドアを引いた。
「どうぞ」
 第一声に、かわいい笑顔も添えられた。
 明らかに年下の男性。
 スラッとした身体の横をすり抜けると良い香りがした。

 一夜を過ごすならこんな男性がいい。

 ふと過ぎった思いに笑ってしまう。これじゃ、さっきまで喋っていた男性諸君と変わらない。私も彼らと一緒だ。
「ありがとう」
 そう言って笑った私を年下の彼は不思議そうな顔で、小さくペコっとお辞儀をした。

 こんな姿に萌えてしまう私も『あわよくば症候群』である。

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