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『プレゼント』掌編小説

◆◆◆ マイハニー ◆◆◆

 ワンナイトラブだった。正確には未遂だった。妻が里帰り中の同窓会。お酒の勢いもあり、昔の同級生と盛り上がりそのまま自宅へ連れ込んだのが間違いの始まりだった。帰ってくるはずのない妻と鉢合わせ。過呼吸となり妻は破水。現場は大惨事となった。

「ずっと恋人でいたかった」

 泣きながら出産した妻の台詞は今に生き続け、僕たちは時々『恋人ごっこ』をする。結婚をする前に遡る。それは生活感のない二人の時間。

『ママ』ではなく『愛』の時間。

 そっと見つめ合い、キスをして笑い合う。
 休みの日、妻はスカートを履き僕と手を繋ぎデートをする。

 昨日は『恋人たちのクリスマス』を楽しむため、高級レストランで食事をした後、夜景を見にドライブした。
 これが妻の不安を取り除くための一番の薬となり『ママ』としての顔を保つ糧となっている。

 最近は罪滅ぼしをしながら内心、妻のことを羨ましく思っている。
 頭痛がする夜も、吐き気がする朝も、僕は休むこと無く働き続ける。
 いつ妻の発作が起こるか家でも細心の注意を払っている。
 目を閉じて眠りに付くときの安堵感が一生続けば良いのに。という気持ちで目覚める毎日を送る僕の方が病院に通いたい。

「世の中病んだもん勝ち・・・・・・」

 僕の腕の中で震えながら浅い呼吸を繰り返す妻の背中を摩りながら呟いた。

 僕の苦手な甘いアーモンドの香りを我慢して。


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