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『かすみ草』 掌編小説

 私の彼はとてもモテる人だった。
 細身で高身長、甘いマスク。滑舌が良く、響く声は優しい口調で、喋ればユーモアに溢れていた。
 彼の周りには常に人が集まった。それは男女問わず、また年齢問わず。
 彼は誰からも好かれた。私の自慢の恋人。
 二人で何処へ出かけても、声を掛けられるのは彼だった。
「格好いいですね」「何着てもさまになりますね」「モテるでしょ?」

 その連鎖は結婚してからも続いた。
 掃除、洗濯、ご飯を作れば「すごい!」と友達から言われ「イケメンは何でもできるね!」と褒められた。
 私は彼と同じように毎日仕事をして、毎日ご飯を作ったけれど、彼のように褒められることはなかった。
「綺麗な奥さんですね」と言われることもなかった。

 卑屈になった私は、自分のことを『かすみ草』だと思うようになった。
 そう私は彼の引き立て役。決して主役になることはない。
 結婚一周年に彼から三本の赤いバラを受けとった。
「愛しています」という告白と一緒に。
 涙で視界がぼやける中、彼の大きな手の温もりを感じた。
 苦しかったけど最期まで耳元で「愛している」と繰り返し、泣いてくれたのが嬉しくて私は目を閉じた。

 そして私はバラになった。

 私の遺言通り、私の周りには白いかすみ草が敷き詰められた。

 いつか私が話した事を彼は覚えていてくれた。

『どうせ死ぬなら、好きな人に殺されたい』

 最期に2つの夢が同時に叶った。

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