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夢のプリン10個食べたい【フォトギャラリー短編】

子どもにとって、プリンは幸せの食べ物である。
甘く柔らかい。卵と牛乳の甘さと、焦げたカラメル。

噛もうとしても噛めるものではない。歯の間をするりと、くぐり抜けて、のどを通っていく。口に入れたとたんに、それはなくなってしまう。コクのある甘さを残して。

子どものころ、母がパック入りのプリンを買ってきた。弟と大喜びである。
しかし、1パックにプリンは3個。
つまり、一つずつ食べると、1つ残る。
私たち兄弟は半分ずつ分けて食べた。0対1にはしたくなかったのだ。

パックで買ってきてくれたときは、いつも弟と1.5個ずつ食べた。

しかし、いつか2個食べたい、いや3個食べることはできないだろうか。
そう考えるようになっていた。

ある日、意を決して母に言ってみた。
「プリンを3個全部食べたい」
母は、私の真剣なまなざしを見つめ返していたが、しばらくして、こう言った。
「いいわよ、10個食べてみたら」
!!!!!!!10個? 思いもよらない数。いいの、そんなことを言って。そんな幸せまみれなことになって、大丈夫なの???
私は興奮を抑えられなかった。

翌日、母はパック入りのプリンを7パック買ってきた。
3×7=21 21個 弟と分けて 21÷2=10 あまり1個
算数が得意だった私は、すぐに計算できた。、、、、本当に10個ある。

「どうぞ。好きなだけお食べ」
母は優しくそう言って、微笑んだ。

私と弟は、いつもより少し大きめのスプーンを準備して、食べ始めた。
フタを開けると、甘い香りが漂ってくる。いつもは、少しずつおちょぼ口で食べているプリンを、豪快にスプーンでえぐり、プルプルしている物体を、胃の中へ滑らせた。
「うまーーーーーい。そして、まだまだある!!!!」
二人は、夢中でプリンを食べた。
食べた。食べた。
食べた。食べた。
食べた。食べた。
たべた。たべた。
たべた。たべた。
タベタ。タベタ。
タベタ。タベ・・・・

・・・
もーーーー
タベキレナイ。

3個をすぎたあたりから、オカシクナッテいった。
あんなにおいしかったプリンの甘さは、もうどうしようもなくくどく感じる。のど越しのよいなめらかさも、苦痛に感じる。
もう、スプーンは動かない。

母は、微笑んだままだった。

「もう残していい?」
「いいわよ」

夢のプリン10個が、わたしに教えてくれたもの。

「ほどほどの最高の幸せ」


(お礼)eimmyさん、素敵な写真をありがとうございました。プリンを食べたくなりました。いや、1つで十分です。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。スキやコメントをいただけると、プリンを食べたくらい幸せになれます。 

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