世の中の不条理・カフカエスク【審判】岩波文庫チャレンジ97/100冊目
カフカと言えば「変身」
ある朝起きたら突然巨大な虫になっていた、で始まる有名な小説。
「審判」はというと、
ある朝起きたら突然逮捕された、で始まっている。
日常に突然起こった不条理。虫の不条理はあからさまで分かりやすいが、「審判」はなかなか難しい。逮捕される理由も、裁判(原題はThe Trialで裁判)も何もかもよく分からない世界が描かれている。
こういう不条理の事に、英語でカフカエスクという言葉があてられる事もあるようだ。官僚的で不必要に複雑な(苛立たしい)事をさす言葉のようだが、納得がいかないままやらねばならぬ事一般、にも当てはまると思う。
カフカエスクを説明した1200万再生超えの動画があったので、興味がありましたら、ご参考にどうぞ(字幕が利用できます)。
超簡単に「審判」の世界
・ある朝突然逮捕されて有罪宣告、裁判が始まる
・訴訟手続きは、世人にも被告にも秘密
・尋問に弁護士の立ち会いは許されていない
・起訴されたら、誰も無罪になったことがない
・裁判を有利にする最も大切な事は、弁護士の個人的なツテ(役人買収)
・無罪にはならないが有利になる方法はある
1)見せかけの無罪宣告:無罪証明を書いて、裁判官のところを一回りする
2)引き伸ばし:訴訟をいつまでも1番低い訴訟段階に引き止める
だが有利にできた所で、ツテがあるのは下位の裁判官だけ。上級役人や上級裁判官に会える人はいない。無罪にできる権限は1番上の裁判所だけが握っている。
主人公K
主人公のKとはカフカ自身。あとがきによれば、本書は未完成の作品。本人の遺志に反して、友人がカフカのシ後に編纂・出版したものらしい。
内容は一応繋がってはいるものの、世界観に加えて未完成の部分がどうも読みにくい。終始「分からん」を胸に抱きつつ読み進める作品。
だがこの「分からん感」が、カフカエスクでもあるのだから、これはこれで良いことになる、という不思議な作品。
カフカ自身の複雑な環境を思うと、こういう作品が生まれても不思議でないような気もする。
カフカエスクを体験
理由が全くない逮捕に始まり、訳の分からない裁判が延々続く中で、当初「自分は何もしていないのだから無罪」だと固く信じていた主人公K。正しいのは自分で、周りが間違っている。
ところが、裁判の様子や周囲の反応からは「確実に有罪」の雰囲気。段々と周りの雰囲気に「無罪の信念」は侵食され始める。そして「裁判を有利」にするための方法を探すようになる。
自分を疑っていなければ、そもそも無罪なのだから、何もする必要はないにも関わらず。
最初は、人に突然起こる不条理・不合理なことを書きたいのかと思っていたが、最後にようやくこれは内面世界なのではないかと、思い至った。
「審判」のラストは衝撃的。全くもって説明のつかない展開に、唯一見出せるのは「これは内面世界」であるという事。逆に内面だという事のために衝撃のラストが用意されたとも言えるのでは。
*ラストの展開が知りたい方は最後をご覧くださいませ
「掟の門」
正直、この不条理が延々続くだけなので、話としては長く退屈だった。漠然としたよく分からない世界の中で「掟の門」という挿話が出てくる。分かりにくいが、象徴的なので一応紹介したい。
・掟の前に1人の門番が立っている
・門番の所に1人の男がやってきて、掟の中へ入れてくれと言う
・門番
「今は入ることを許すわけにはいかない」
「後でなら入れてやれるかもしれない、しかし今はダメだ」
「わしは1番下っぱの門番に過ぎない」
「広間から広間へゆくごとに門番が立っており、その力は次々に大きくなる」
「3番目の門番になると、恐ろしくて見ていられないくらいだ」
・門は開かれていたが、許されるまで男は待った
・何年も何年も待った
・ついに余命が少なくなった時、男が門番に聞いた
「なぜ私の他に誰も、入れてくれという人がいなかったのでしょう?」
・門番
「この門はお前以外の人間の入れるところではなかったのだ」
「さぁ、門をしめるとしよう」
さて、難しいぞ。
本書でKは「門番が男を騙した」と言う。この話をした人物は「騙されたのは門番だ」と言ったり、「男と門番どちらが従属的な立場か」などを語る。
訳者のあとがきでは「この話の解釈がいかに困難であるか、あえて言えば外部から加えられる解釈を拒否している」ともあった。
解釈の仕方は色々ありそうだし、解釈自体が困難ととる事もできるのだろうが、自分はこの門の向こうには自由=無罪、があったのだと考えた。自由を阻む門番が、裁判であり世の中のシステムであり、不条理なルール自体。
挿話の中の男はK自身。不条理を突破する自由は残されていた(門は開いていた)ものの、男は自分の意思で門の内側にとどまる事にした。つまり内面の自分に負けた、とするとエンディングと繋がる・・一応は。
自分の世界を広げるために、こういう作品は他の解釈も知りたくなる。読書会に最適な本だと思った。
最後に、
「ペスト」を書いたカミュとカフカがどうしてもごちゃごちゃになりがちだった。カミュには「異邦人」という代表作もあり、これが未読のためにごちゃ混ぜになっていたのかもしれない。
今回カフカエスクを学んだことで、この先は混合しないことを期待。
岩波文庫100冊チャレンジ、残り3冊🌟
衝撃のラスト(知りたくない方は見ないでね)
連行されて石切場で処刑・・
ここでシんだのは自分の内面ではないだろうか。
つまり自分の信念(内面)が外部(外面)に負けた。
外部とは不条理な世界、よく分からない世の中のルール、意味がないけどやらなくてはいけないことになっている事、などなど。
思いつくことはある。でも重たいね。
以上
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