見出し画像

超難・柳田國男から神道へ【海上の道】岩波文庫チャレンジ79/100冊目

日本人は最初どの方面からどこへ渡ってきたか。何百と言う数の大小遠近の島々のうち、どれへ始めて上陸し、どの方角へ移り広がっていったのか

この文言が気になって読み始めた。

本作は、「海上の道」を含む全9編。
そのほとんどについていけなかった・・
至って普通の日本語なのに難しい。超難関。


本書を読んで

後発研究者向けの考察書という性質から、一般向けではない(と思う)。

ノーベル賞作家、大江健三郎の解説が入っており、その中で本書は柳田國男氏の詩であると紹介されている。

自身の見る世界を自身の言葉で表現

民俗学などの素地がなければついていきづらいのだろう(と思う)。平易な文章で書かれているのに、なぜこんなにも普通の日本語が頭に入ってこないのか、不思議な本、そういう意味で印象深い。

最初の主題の答えはどこにあったか。
考察は色々述べられているものの「結論らしい結論はない」と理解している。

そういう訳もあって、
上野の国立科学博物館シアター360に同じような展示(3万年前の大航海-ホモ・サピエンス日本上陸-)があったのを思い出す。もう一度見てみたい。

柳田國男に傾倒している人なら、その頭の中身を覗けて良いと思うのだが、基本的にはどういう人がこの本を親しんだら良いのか分からない。岩波文庫チャレンジ79冊目にして、気軽には人におすすめできない本もあるのだと知った。

なんだか分からなない、ついていけない感じは、妖怪繋がりもあってか、京極堂による京極節を読んでいるかのようだった(京極夏彦さん百鬼夜行シリーズ)。

とはいえ、

偶然漂着したヤシの実から、
「漂着をもって最初の交通と見ることが許されるならば、日本人の故郷はそう遠方でなかったことがまずわかる」

とか

沖縄(宮古島)が子安貝、宝貝の産地だったことから、その魅力に惹かれて大陸から人が渡ってきた可能性がある事。

「われわれは国内の山野が、かつて巨大な樹木をもって覆われ、それが次々と自然の力によって、流れて海に出ていた時代を想像してみることができなくなっている」

などは、想像力を刺激されて良い。

「私だけは、国の学問の前途のために、消極主義に与みしたくない。むしろその反対に次々と新しい仮説を提出したい」「第2第3の方法は必ず試みられなければならない」

という精神も好き。

部分的な学び

以上の事から、本書の感想はとてもまとめづらいので、部分的に学んだ事や追加で調べた事を中心に残りの部分を割いていく。

ネズミのアレコレ

本書には「ネズミも人と同じように海を渡って島々に移動した」という一節がある。すでに触れたように、結論はここで見られないのだが、ネズミから派生するいくつかの気になる事を調べてみた。

大黒天の家来
・仏教の神、大黒天は神道の大国主命と習合(後述)した七福神が一人
・諸説あるようだが、家来がネズミ
・全く関係ないが、
「鹿男あをによし」という名作を思い出す。

昔話
ネズミの嫁入り
日本一美しい我が娘(ネズミ)のために、日本一の婿探しが始まる。
太陽いわく「私を吹き飛ばせる風の方が強い
風いわく「私の力では吹き飛ばせない壁の方が強い
壁いわく「私に平気で穴をあけるネズミの方が強い
最終的にネズミのお婿さんをもらって幸せに暮らすお話。

②ネズミの浄土
正直者のお爺さんが団子やおむすびなどを穴に落として、ネズミの住む地下の国へ行き、宝物をもらって帰るが、欲張りなお爺さんの方はうまくいかない、という類のお話。

十二支の最初(子)
十二支とは、東西南北の方角に「子、丑、寅、卯、辰、巳、午、未、申、酉、戌、亥」の漢字を当てたもの。覚えやすくするために後に動物を当てはめたとされるが、元々は紀元前の中国で暦や時間を表すために使われ始めたのが起源。

正午や午前午後は、11時から13時を午の刻と呼ぶことから。

https://www.ndl.go.jp/koyomi/chapter3/s2.html

神様から動物たちに「元日の朝、1番早く私のところへ到着したものから12番目のものまでを一年交代で大将にしてあげよう」と言われる。足の遅い牛は1番最初に出発するが、見ていたネズミは牛の背に乗り、直前で飛び降りて1番になる

猫が十二支にいないのは、神様のお話を聞き漏らした猫に、ネズミがわざと1日遅れの日付を教えたせい、とも言われる(諸説)。

全く関係ないが、
「宇治拾遺物語」に「子子子子子子子子子子子子」を何と読むかという謎かけがある。答えは最後。

風の名

「海では風の性質から名前をつけ、内陸では方角が風の名になる」という。調べてみると、今では2000以上の風の名前があるようだ。

・アイの風:幸せを呼ぶ風。春から夏にかけて吹く北東のさわやかな風の事
・アユの風:東風(コチ)、春風、春に吹く安らかな風

その昔「あゆちがた」と言われた愛知県。本書では「アユ+コチ+潟」と読み取れるが、これも諸説ある。年魚市と書いて「あゆち」と呼んだとか、「あゆ」に湧き出るという意味がある湧き水説など。

ニライ・カナイ

海の彼方の楽土の事。「国の大昔の歴史と関係する古いいくつかの宮社が、いずれも海のほとり近くに建っている」。

本書にあるのはこの1文だけだが、気になるではありませんか!

という事で引っ張り出したこちらの雑誌。

ペラペラとしか見ていなかったものの、真剣に読んだらめちゃくちゃ面白い(あまりにも続きを読みたかったのか、翌朝5時に目が覚めた)。

この中に「波上宮」という沖縄の神社が掲載されている。まさに「海上にある神の国ニライカナイに祈りを捧げる聖地」という説明。


神道あるいは神社・お寺との違い

ここからは、
「古い宮社のいくつかは海のほとり近くに」が気になる自分と同じ方のために、同雑誌から拾った情報をまとめたものを置いて最後に致します。

雑誌なれど侮るなかれ。とても興味深い✨

神道とは

日本古来の自然崇拝
・宗教のような開祖もいなければ、教え・経典もない
・山や森に宿る自然神や一族の祖霊を神として崇める

ぼんやりとしか知らなかった神道。むしろ何かヤバいものだと恥ずかしい思い違いをしていた自分。学校教育の影響の計り知れなさと、自分で調べてみることの大切さを改めて実感・・正しく知れて本当に良かった。

あえて言うなら古事記・日本書紀が聖書。
歴史書でありながら神話を内包するのが特徴。

古事記とは、天皇の正当性を国内向けに記述した本
日本書紀とは、日本の正史を外国に知らせるための本

最近読んだ本の影響もあってか、SDGsがもてはやされるずっと太古の昔から、自然崇拝してきた日本人に「自然を大切にしましょう」とあえて憲法に載せようと言うのは、「不自然」に見えて仕方ない。

熊野三山(世界遺産)を始めとする山岳信仰、海の神を崇める住吉信仰。自然崇拝は各地にたくさんある。例えば奈良の大神神社おおみわじんじゃでは、三輪山そのものが御神体、鳥居の向こうに拝む山が神秘的。


神社とお寺の違いを説明できますか?

神社が日本の神様あるいは天皇家を祭神として祀る一方で、仏教・お寺はインドに発祥し、お釈迦様を起源とする外来宗教

仏教が最初に入ってきた頃は、賛成派蘇我氏と、反対派物部氏との間で闘争があった。日本古来の神様の怒りをかうとして反対していた物部氏が蘇我氏に敗れ、日本最初の寺、法興寺(飛鳥寺)が建立される。

その後段々と神道と仏教の「教え」が融合して神仏習合ができてゆく(神宮寺とは、神社の中にある寺)。

滋賀県日吉大社の三角形の鳥居は神仏習合のシンボル。

明治には、古来の神道を復活させようという「神仏分離令」が出される。元々は融合してしまった神道を取り戻そうという純粋な活動であったが、一部で廃仏毀釈と呼ばれる過激な破壊行為ももたらした。


なぜあまりにも神社・神道を知らないのか

気になって調べてみるとまた出くわしたGHQ「国家神道、神社神道ニ対スル政府ノ保証、支援、保全、監督並ニ弘布ノ廃止ニ関スル件」として、国と神道の結びつきを排除する神道指令が出ていた。その結果、戦後の教科書から消える

「神道=天皇=軍国主義」という戦勝国の単純方程式。

鎌倉武士や戦国武将がこぞって神社に奉納した宝物が残る一方で、現在の私たちは日本の神様や神社をあまりにも知らないまま育ってしまう。残念で仕方ない。


神社へGO

行きたい神社は数あれど、とりあえず近場を制するところから始めたい。ほんの1部だけご紹介。

伊勢神宮(三重)
・神社最高格
・天照大御神、皇室祖先を祀る
・江戸からのお伊勢参りの旅を描いたのが「東海道中膝栗毛

香取神宮(千葉)
・祭神は経津主大神ふつぬしのかみ武甕槌大神タケミカヅチと共に出雲国へ降り立ち、日本を平定した神様
・国宝、海獣葡萄鏡を所蔵(日本三名鏡

鹿島神宮(茨城)
武甕槌大神タケミカヅチが祭神
・12年に1度の水上祭りでは、鹿島神宮と香取神宮の祭神が水上で出会う
日本三大楼門の一つ(阿蘇神社の楼門、福岡県の箱崎宮)

熱田神宮(愛知)
・皇位継承に用いる3種の神器の一つ、草薙剣くさなぎのつるぎが御神体
・神器はそれぞれ、八咫鏡を伊勢神宮、勾玉を皇室が所蔵

熊野三山(和歌山)
・世界遺産(熊野本宮大社・熊野速玉大社・熊野那智大社)
八咫烏やたがらす(神武天皇を熊野から大和へ先導した神)の黒ポストがある

国懸くにかかす神宮・日前ひのくま神宮(和歌山)
・同じ境内で左右対称に造られている
・国懸神宮では日矛鏡が、日前神宮では日像鏡が御神体
・2つの鏡は天照大御神を天岩戸あまのいわとから出てくるよう諫めるために作られた

石清水八幡宮(京都)
・平安京の裏鬼門、鬼門は延暦寺
・信長が「黄金の雨樋」を、楠木正成は「楠」を寄進
目寛きめぬきの猿

上賀茂神社(賀茂別雷神社)(京都)
下鴨神社(賀茂御祖神社)
・世界遺産
・立砂、左3本右2本の松の葉、偶数と奇数が合わさり調和した所が神の憑代

伏見稲荷大社(京都)
・稲荷総本山
・千本鳥居(1万以上ある)

八坂神社(京都)
素戔嗚尊スサノオノミコトを祀る八坂神社の総本山
祇園祭が行われる
厄除けちまきを軒先に吊るす、のが旧約聖書と似ている

北野天満宮(京都)
・全国天満宮の総本山
・祭神は菅原道真(神童だったが太宰府へ左遷。怨霊として恐れられる)
三光門:日・月・星、北極星があったため星の彫刻だけない

貴船神社(京都)
・祭神は高龗神タカオカミノカミ、水を司る
伊邪那美命いざなみが火の神・軻遇突智カグツチを産んだ火傷で亡くなるのを悲しんだ伊弉諾命いざなぎが、軻遇突智を斬った時に現れた三神の一柱(雷神・山の神・水の神)にあたる
気が生じる根源の地、気生根きふね
絵馬発祥の地、雨乞いには黒馬、雨やみには白馬を奉納していたのが絵になった

平安神宮(京都)
・1895年、平安遷都1100年を記念して創建
・首都が東京に移されてしまった後、市民の熱意と町おこしで創建された
・平安遷都を行った桓武天皇と平安京最後の孝明天皇の2柱が祭神
京都三大祭の一つ、時代祭開催(祇園祭、葵祭)

春日大社(奈良)
・世界遺産
武甕槌命タケミカヅチが白鹿の背に乗って鹿島から春日山に降臨したのが起源
・萬葉植物園、万葉集の植物8割を展示

出雲大社(島根)
大国主命おおくにぬしのみことが祭神、大黒様と習合した“だいこくさま“
因幡の白ウサギ伝説
・神無月には各地の神が出雲へ集まるが、出雲大社ではこの月を神在月と呼ぶ

赤間神宮(山口)
・壇ノ浦の戦いでわずか8歳で亡くなった安徳天皇が祭神
・共に入水した祖母の詠んだ句に由来して竜宮城をイメージして造られる
・前身、阿弥陀寺は、小泉八雲の耳なし芳一の舞台
・壇ノ浦の戦いで関門海峡に沈んだとされる草薙剣は形代で、本物は今でも熱田神宮に祀られているという

霧島神宮(鹿児島)
・天照大御神の孫、瓊瓊杵尊ににぎのみこと高天原たかまがはらから高千穂峰たかちほのみねへ降臨(天孫降臨
・瓊瓊杵尊が祭神
天の逆鉾あまのさかほこ坂本龍馬が日本初の新婚旅行で訪れる


ー答えー

子子子子子子子子子子子子」「ねこのこ こねこ ししのこ こじし」


岩波文庫100冊チャレンジ、残り21冊🌟

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?