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心霊スポットで会いましょう。壱

 何かしたい。何かワクワクすることがしたい。なんでもいいから。そんな若さ全開の気持ちを満たしてくれるものの一つとして心霊スポットに行くというところが男達のアホらしく可愛い部分である。スタンドバイミーかよ。

 その時は僕を含めて4人でいた。4人というところがスタンドバイミー感が出て良い。

1人目がN。彼は専門学校を卒業し就職をした。今年で社会人3年目になる。そんな彼は社会の歯車という普遍的かつ一般的である自分に嫌気がさしたのだろう。そうでもなければ心霊スポットなんか行かない。

2人目がO。こいつは社会的価値の高い大学に入ったが遊び呆けたせいで留年していた。同期が皆就職をしている中自分だけ大学生であり一年遅れでやってくる社会人というステータスに嫌気がさしたのだろう。もちろんそんなことでもない限り心霊スポットなんか行かないだろう。

3人目がY。彼は医学部を目指し2年浪人したものの、やりたいことが他にあると専門学校に入学。専門学校を卒業して超ブラックな現場で働いている社会人1年目。ほとんど取れない休日に何かしなきゃいけない焦りがあったのだろう。そんなことでもなければ心霊スポットなんか行かない。

そして僕だが、これが救いようのない人間なのだ。4流大学には卒業資格をもらうこともなくコンビニでバイトをしながらただ1日が終わるのを待っている。夢や将来について大人に言われてはむしゃくしゃしていた。だから何かしたかった。だから心霊スポットに行った。

 みんなが社会人になったり恋人と過ごす時間が増えた中でこうやって男友達だけで集まれる機会も減ってきている。最初の頃はそんな友達の輪から抜け出していく奴らが大人になった奴らだと羨ましく思えたが今思えば皆で集まってバカをしている方が男たちにはしっくりくる。だから少しでも皆で集まって騒ぎたいのだが集まれる時間も限られてくる中で充実感のあるバカをするのには企画力がどうしても必要となってくる。ただ酒を飲むだけではもう何も生み出せないと思っていた。三人寄れば文殊の知恵なんて言うけれど男が何人集まろうとも下世話な話しかできない。それなりに寒さのある夜にはドライブくらいがちょうどいいということになり車に乗り走り出した。運転はOがする。僕らは見かけたコンビニでタバコ休憩をとりながら明確な目的地もなくただ車を走らせていた。車内に流れる懐かしJPOPと下世話な会話だけでふけていく夜を楽しめていた。けれどもこれでは何かを成し遂げた感じがしない。何かを成し遂げたい俺らは目標を決めることにした。最初は綺麗な夜景や辺鄙な田舎などと意見を出し合ったがどれも心が踊るような代物ではない。手っ取り早く感情が動きそうなことといえば合コンかギャンブルか…。そんなものする相手も時刻でもなかった。もう日付も変わる。結局ケツ毛まだむしり取って出てきたのが肝試しだった。心霊スポットに行こうと。実に単純だ。そうと決まれば近くの心霊スポットを検索し目的地を定めまた出鱈目に車を走らせる。郊外からは離れていく車。少しずつ街灯の数も減っていき気がつけば山道。こんなところだと人を轢くより野生動物を轢くほうが現実的であるというくらいに。僕たちが向かったのはとあるロープーウェイ駅の廃墟。まだ梅雨の匂いすらしないにも関わらず僕らは夏の風物詩を堪能しようとしていた。次第に車内流す曲も明るめの曲が多くなる。僕らはかかっている曲のサビ手前で車を止めた。この近くに例の廃墟があるらしい。車を止めたのは大きな駐車場。ここは湖を観光する人たちが車を止めるところなのだろうか。湖とそれを囲む柵。それと公衆電話。それだけしかない駐車場で僕らはまたタバコ休憩をしつつスマホで目的地を確認していた。かすかに光っている公衆電話はその存在だけで僕らをワクワクさせた。皆で公衆電話に近づくと電話機の下に段ボールが置いてあった。蜘蛛の糸が貼っているので置かれてから時間が経っているのは間違い無いだろう。段ボールの上面は微かに開いており中身を見てくださいと言わんばかりだった。公衆電話内のドアを開けるとお線香のようなにおいが漂ってきた。それだけで怖い。それだけで僕らは騒いだ。箱の中身を見たい。けれども見てはいけないもののような気もする。Yが箱を開けると中には緩衝材の代わりと思われる新聞紙で包まれた何かがあった。こんな人気のない公衆電話に陶器なんかがあろうものか。段ボールの方から飛んでくるかすかな羽虫に声をあげることもできない。それほど異様な空気を放っていた。ここはまだ目的の心霊スポットですらない。固唾を飲んでいる余裕もなかった。これ以上近寄ってはいけないような触ってはいけないようなそんな気がした。皆車に戻り箱の中身について論じ始めた。やはり人の頭が入っているのが一番怖いとか上向きと下向きどちらが怖いかとか。僕からしてみればどのみち頭蓋のようなものが入っていたらそれどころではない。蜘蛛の巣が張っている様子から見ればそれほど新しくはないが段ボールや中の新聞紙の見た目はそれほど劣化していない。白骨化していればまだマシである。結局のところ遺体や殺人の凶器なんて入っているわけがないのと思っているのだがまだ見て確認しない限り僕らの妄想は膨らむ。実は3億円入っていたかもしれないしもしかしたら誰かが捨てた大人のおもちゃかもしれない。でもその時の恐怖には誰も敵わなかった。

 結局段ボールのあった駐車場から離れて僕らは目的のロープーウェイまで動いた。心霊スポットにおいて赤の他人と出くわすのはあまり喜ばしいことではないと思っていた。興醒めしてしまうだろう。けれどもそんな心配とは裏腹に周りに人が近づいてくる様子はなかった。どこがロープーウェイ廃墟への入り口か探しながら大きな道路を歩く。ここは元々有料道路、いわゆる高速道路だったようだ。今はもう料金所は閉鎖されており夜間は通行止めになっている。色々みて回ったが小さな山道の階段があるのみ。人が登るには荒れていて登るのは危険な気がした。だがその階段くらいしか見つからなくて4人は登っていった。まずはNが弱音を吐いた。ここを登ることはできない。この斜面は僕には無理だと。気がつけばTは一人で下に降りていた。よくもまあこんな山の中の心霊スポットで一人で待つという行為ができるなと思った。残った3人は少し登ったところに何やら建物を見つけた。目的のロープーウェイの駅だった。思った以上に足場が悪く僕らも長居することはできないと考えていた。一番見たいロープーウェイはすぐに見つかった。とにかく僕らは近づくことすらせずただ手元のスマホのライトで照らしては見つめることしかできなかった。ガサガサガサ。草むらに何かいる。何かはわからないがこの世のものではないという感じではなく完全に野生の動きと音だった。

 結論から行けば僕らは心霊現象ではなくて野生の動物に怖さを感じて廃墟から逃げ降りた。帰りの車の中でも僕らはそわそわしていた。そして僕らは手軽に感情を高められる心霊スポットや肝試しに惹かれていった。

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