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夢を届ける夢に立ち会える〜「ゆめの はいたつにん」読書ノート

読書ノートのnote版。すでに紙のノートと冊数に誤差が生じてきたので、ナンバリングできなくなってます…。「目指せ100冊! 読書ノート」マガジンにしたので、こっちはこっちで貯めていくぞ。

「ゆめの はいたつにん」
教来石小織 著/2016年2月22日発売/センジュ出版

【あらすじ】
ごく普通の派遣社員の事務員だった著者が、30歳過ぎてある日突然、
途上国の子どもたちに映画を届けるNPOのリーダーになった。
声が小さく、英語も話せず、リーダーシップもない著者がなぜ、
後に「新しい社会貢献」と呼ばれる活動を立ち上げ、広げることができたのか。
ちいさなひとりの夢がみんなのおおきな夢になる、ノンフィクションストーリー。(センジュ出版HPより
>>目次・奥付

少し前に、友人に強く薦められた本です。正直、タイトルだけではピンとこなかったのですが、帯には斎藤工さんのコメントが。

「運命的に出逢った映画を観ているかのよう」 ーー 斎藤工

なるほど、カバーイラストは映画を上映するスクリーンだし、映画が登場する、映画的なドキュメンタリーだな、とその程度の認識で読み始めました。

そうして一気に読み終えた「ゆめの はいたつにん」は、著者が夢をどのように叶えていったかを描きながら、「ゆめ」について大きく考えさせられる多重構造になっていました。感動とともに、深い学びがあったのです。

夢の実現ストーリー

映画好きの幸せな家庭に育った教来石小織(きょうらいせきさおり)さん。小6の時に「映画で夢を贈る側になりたい」と映画監督を志しますが、大学時代に挫折。脚本家を目指しながら派遣OLとして働き、失恋や病気などを経て、2012年に「カンボジアに映画館を作りたい」という夢を持ちます。

天啓や直感のようなもの、と言いながらもそれは、彼女の人生の断片がつながったものでした。映画をたくさん観てきた人生が、心の支えとなったり、新たなヒントをくれたり。同じ映画好きの観点でも共感できるし、嬉しくなる展開でした。

シナリオライターを目指しただけあって、思いが伝わる文章が書けることも彼女自身を助けます。協力者にしたためる手紙(メール)にこめた熱量や、クライマックスでもある「夢AWARD5」でのスピーチ原稿の執筆、この本全体もその筆力によるところ。閃きと行動で動いては、時に書くことで思考を整理しながら、進んでいく姿が印象的で。書く力大事! と改めて思った次第です。

運命的に出会った人々の助けを得て、地道でめげない行動力によって、夢が実現していく様子は、ハラハラするし、イライラもするし、自虐だし成長だし、たしかに映画的でもありました。このストーリーがやはり、ひとつ目の面白いところ。

夢の種まき

「映画を届けたい思い」が、より具体的、現実的になっていくのは、届ける先の子どもたちをちゃんと思い描いてからです。実際には、カンボジアの現地に行って初めて、思いが確信に変わっていきます。

貧困地域の子どもたちの将来の夢を聞くと、多くがお医者さん、学校の先生、と言うそうです。つまり、知っている職業やなりたい姿が限定されているんですね。身近にないから知らないけれど、もっと様々な夢や仕事があること、広い世界を知らせる手段としての映画。映画には、その可能性があると信じて、活動の意味を強固にしていきます。

貧困にはもっと直接的な支援、ワクチンだったり食糧だったりも必要です。でもそうじゃないところで、「人生を変える出会い」を提供したいというブレない思いが出来上がる過程は、現場の声、熱、感動、体験を言葉にしているから、伝わってきました。

こうして映画館のない地域へ行って、映画を上映する活動を「夢の種まき」と呼んでいるのだそうです。映画を初めて観た子どもたちの10年後、20年後に、夢の花が咲くことを願って。

「ゆめ」の捉え方に新たな気づきを得られた、「夢の種まき」としての映画。ふだん映画鑑賞者である私たちにとって、当たり前すぎて気づかない豊かさと不平等について、考えることができました。

ハルのふえ

カンボジアで映画を上映する活動をはじめるにあたり、上映作品の選定に苦慮したことは、容易に想像がつきます。私も映画会社の版権部門で働いていたのですが、映画には良い面もありながら、権利ビジネスの難しい面もつきものなのです。

そんな中で、重要な人物との出会いがあり、上映のための吹替版の製作までを成し遂げた作品が、やなしたかし先生の絵本を原作とした『ハルのふえ』でした。

カンボジアの農村部の子どもたちに届けるとき、やなせ先生からメッセージも届いたと言います。泣きそう…。

この48分のアニメ映画が上映された時の、子どもたちの笑顔が、純粋な反応が、彼女にエンジンをかけることになるのです。こんな素敵な作品との巡り合わせも、彼女とこのプロジェクトの“もってる”ところなのかもしれません。

コミュニティの成長

彼女の活動は一人ではなし得ませんでした。今でこそ、コミュニティの必要性や価値が浸透してきていますが、当時は、コミュニティ形成のノウハウなんてなかったと思います。

当時どのように仲間たちを得たのか、やり取りも赤裸々に、おそらく辛かったことや失敗談も書いてありました。おせじにもぐいぐい引っ張るタイプではなく、行き当たりばったりでよく成り立ったなぁ、というのが率直な感想。でもきっと、感謝と新たな決意でここまで書いちゃうのが、著者の魅力なのかな、と思いました。 努力をひけらかさないところや、なんか抜けてる感じ(失礼)が文体から伝わってきて。

イベント開催時の広報の大切さや、クラウドファウンディングでのノウハウなども、先駆者的な試行錯誤のうえに立っていて、読み応えがありました。熱い志を持って、仲間を集めて活動したい人にも、おおいに役に立つのではないでしょうか。

後日談

2016年出版の「ゆめのはいたつにん」ですから、少し遡ったけど、その後の目覚ましい活動を追ってみました。大きく成長しています。

上映権問題に悩むなら映画を作っちゃおうという発想で、クラウドファウンディングでできたアニメーション「映画の妖精 フィルとムー」がこちら。

WOWOW「斎藤工×板谷由夏 映画工房」とのコラボが実現。

NPO法人CATiC(キャティック,Create A Theater in Cambodia)を、2017年には「World Theater Project(ワールドシアタープロジェクト)」に改名し、活動の幅をさらにさらに広げています。

すでにいちボランティアコミュニティの域を大きく脱して、自走する組織に変わっていました。すごいです。

昨年から今年にかけて、英治出版のnoteで連載をしてたので、後日談として追うこともできました。

中でも著者のお人柄が伝わる、まさかのインタビュー記事が面白いです。

2019年になってやっと追いついた私ですが、近々イベントに足を運び、少しでも活動を支援できればと思っています。

まとめ

一人の女性の葛藤と挑戦の記録に立会い、夢の描き方を知らない子どもたちとの格差について考え、夢の配達人が映画を上映している風景に、胸が熱くなりました。とにかく動いてみる、という行動力も見習いたいところです。

一気に読めちゃうのに、様々なことを感じ、学び、読後体験につながるのもありがたいことです。物語的に伏線の回収ができてるなぁ、とも感じたので読み返しても面白そうだし、手元にあって勇気をもらえる本です。





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