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長谷川和夫医師の「確かさ」がここにある〜「ボクはやっと認知症のことがわかった」

すでに10万部突破しているというこの本に、今ごろ出会いました。

「ボクはやっと認知症のことがわかった」
長谷川 和夫(医師)、猪熊 律子(読売新聞編集員)
2019年12月27日発売/KADOKAWA

「この本は、これまで何百人、何千人もの患者さんを診てきた専門医であるボクが、また、『痴呆』から『認知症』への呼称変更に関する国の検討委員も務めたボクが、実際に認知症になって、当事者となってわかったことをお伝えしたいと思ってつくりました」――(「はじめに」より抜粋)

「終活」の教本?

「終活」について学んでいるとき、ある先生がこの本を教えてくれました。まだ60代の方でしたが「これを読んでさらに今を一生懸命生きなきゃと思い、終活に弾みがついた」とおっしゃいました。

「認知症の最前線にいた専門医であるボクが「やっと認知症のことがわかる」というタイトルのギャップ。ある種ドラマティックな部分もあるかもしれませんが、まさに闘病中である現役の認知症患者の声を聞けるだろうという方に、興味を持ちました。

認知症になった先生はどんな言葉をのこして、生きる力をくれるんだろう?

〈目次〉
第1章 認知症になったボク「確かさ」が揺らぐ
第2章 認知症とは何か
第3章 認知症になってわかったこと
第4章 「長谷川式スケール」開発秘話
第5章 認知症の歴史
第6章 社会は、医療は何ができるか
第7章 日本人に伝えたい遺言

認知症に捧げた人生の説得力

長谷川和夫医師は「長谷川式スケール」の生みの親。

これは、認知機能の物差しとして日本で初めて開発され、今もひろく認知症診断の物差しとして使われているものです。

私の父が十数年も前に「アルツハイマー型認知症」という診断を受けた際にも、使用されていたものでその存在は知っていました。

本書にはこのスケールの開発秘話も書かれています。長谷川先生が医師としていかに勉強され、奔走され、苦労されたか、短い章では語りきれない溢れる思いも伴うものでした。功績だけでなく、お人柄が伝わります。

だからこそ、自らが認知症になられても尚、こうしてこの病気に対する思いを伝えられる、むしろ医師として見落としていた患者の心を伝えているんです。自分は本当の意味で、患者の心を判っていなかったとも書かれているけれど、誠心誠意、常にこの病と患者さんに寄り添われていたことは明らかです。

病気のことを日本で一番長く研究してきた先生だから、かつ認知症になったことを受け容れているから、熱量をもって響いてくるんです。

近い未来への警鐘

「痴呆」から「認知症」と名を変えてたどった歴史に加え、認知症の現状を知ることもできます。

●認知症の有病率 ※MCI(軽度認知障害)とは別
70代前半では3%台、80代後半では40%超え、90以上では64.2%に
(女性71.8%、男性42.4%と女性の方が顕著に高くなる)

●「人生100 年時代」=2025年に「認知症700万人時代」
超高齢化日本では、認知症になる時期をいかに遅らせるかにかかってくる。

●認知症になるリスクを減らすためのガイドライン(2019年5月WHOが公表)
①運動、②禁煙、③栄養、④飲酒、⑤認知機能トレーニング、⑥社会参加、⑦減量、⑧高血圧、⑨糖尿病、⑩高脂血症、⑪うつ、⑫難聴
12のリスク項目への介入が不可欠ということ。

リアルな数字や具体を知り、備えておくことは、非常に重要だと思いました。長寿の世の中になり、人生100年時代をいかに生きるかというとき、認知症へのリスクと対処法を含めて考えることは必要不可欠です。

●認知症は「暮らしの障害」
「確かさ」が揺らぐのだというのが、認知症だといいます。
そして本質は「いままでの暮らしができなくなること」なので、「暮らしの障害」であると。
だから、社会が、周囲が変わらなければいけません。

このように、まさに直面する状況に対して、少子化より高齢化対策を急ぐべきということも冷静に伝えています。

終活の先生も同様に「未来に備えなければいけない」というメッセージを受け取り、伝えたかったのだと思います。

これだけでは終わらない

昨年放送したNHKスペシャルに大反響があったことを知りました。

NHKスペシャル「認知症の第一人者が認知症になった」

読み物としても、ほぼ再現されています。

すぐにNHKオンデマンドで見て、先生の伝えたかったことの本質をより知ることができました。

書籍の方は整然とまとまっていて、それは編集者の猪熊さんのお力が大きく伝えるという意味ではとても価値があることです。
でも、私は認知症の父を見ていたこともあり、きれいごとではない部分があることも知っていたからです。

「いちばんの望みは認知症についての正しい知識をみなさんにもっていただくことです。」

映像取材をお受けになったことも、長谷川先生の思いであり、ご家族もそれを理解して寄り添っている様子に涙が止まりませんでした。書籍にない部分も補完できたように思いました。

映像で見た先生の姿は、二年前に他界した父の面影に重なる部分も多くありました。

さらに長谷川先生の言葉のエッセンス本も読みました。
削ぎ落とされている分、こちらの方が涙が止まらなくなりました。

娘さんの書かれた書籍もあるので、これから読もうと思います。

「父と娘の認知症日記 : 認知症専門医の父・長谷川和夫が教えてくれたこと」


つい一月ほど前にも長谷川先生の記事が出ていて、現在は奥様を伴って有料老人ホームに入られているようです。心豊かに、安心して過ごされていることを願ってやみません。


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