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ハスは平和の象徴也         ~朝ドラ『らんまん』お弟子さんの物語

割引あり

「その昔、大きなハスの上で、お釈迦さまは仏のありがたい教えを、皆に教えたのだよ……」

祖母は子どもの寝物語に、よく話してくれたものだ。

“ビシュヌのへそより蓮花を生じ、蓮花の上に梵天生まれる ”

 二五〇〇年前の梵書は神の誕生をかくも艶(あで)やかに描き、以来、蓮華座は絵画や彫刻に描き込まれている。

 中国においては、ハスは清廉・浄友を表す君子の花――穢れに染まぬ清らかさを愛し、結婚式のときなどにめでたく用いる。

或いは、ハスはわずか四日で命を散らす潔さを、人間の生き方の理想にたとえられもする。これは、「少年、青年、壮年、老年」と、人生に重ね合わせて読む。

 日本でも古くは奈良時代の蓮華の宴――大仏も蓮華台に安座される。

徳川時代に入ると、盂蘭盆会(うらぼんえ)では蓮華を備え、蓮の葉に供物を包み、蓮飯など饗せしめた。

 仏教に取り込まれて以降、清楚にして偉大な夏の朝の花を愛する風流の気は失われた。

ハスは仏壇に供えられる仏事の花だの、城のお堀や田圃に植えられて蓮根を収穫して煮つければ美味(うま)いだの、口さがなき庶民により弄(もてあそ)ばれるのみに至ったのは、口惜しきことかな……。

 ――少年は、石垣の上に立つ。

城のお堀の水面には、白い花弁が浮かんでいる。

日本の西部は、白蓮が多い。

堀一帯を緑に繁らす、大葉の群生。

少年は無言で堀を見下ろしていた――が、薫風が鼻をこすると、我に返ったように浴衣の裾を翻し、駆け去っていった。

白い花弁が微風に身を捩じらせながら、小さな背に手を振っている。


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