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卒業後の青春

2015年に開催された第97回全国高等学校野球選手権大会に、母校が出場した。
私が在校中は叶わなかったが、卒業後、近年ほぼ一強の学校を押し退けて代表を勝ち取ったのだ。当時大学生だったので夏休みは早く長く、テレビで予選を見て手に汗握っていたのを覚えている。そして予選決勝、悲鳴を上げて喜び家族にLINEで速報を打った。
せっかくなら現地で応援しようぜ、と甲子園へ行くことにした。学校側がバスを手配してくれていたので、私がOGとして申し込み、その家族枠に母と妹をぶら下げて甲子園に向かった。
学校に集合してバスに乗り込むと、座席には1人1セットで学校が作った応援グッズが置かれていた。母校のイメージカラーを基調にしたタオル、メガホン、キャップだった。

甲子園はまぁ暑かった。夏なので当然だが、めちゃくちゃ暑くて熱かった。
天気は快晴、もはや灼熱。メガホンを叩く音、ブラスバンドの演奏、スタンド組の野太い声援、思ったより遠かったマウンドと、声援に消えるアナウンス。
確か三塁側に座っていて、上の方の席だったのでアナウンスが聞こえなくて急遽ラジオアプリをインストールして実況を聴こうと試みた。しかし時差があって余計に戦況が分からなくなって辞めた。音量を上げても現地の声で掻き消されて聞こえなかったというのも加える。

とにかく、現地観戦は凄かったのだ。ライブやイベントなども当時は行ったことがなかったので、せっかくだし記念に〜の軽さで行ったものだから、ひたすら圧倒された。その後ライブにも行くようになるのだが、やはり現地で生で見るのは熱量と圧力と雰囲気その他諸々が全身にぶつかってくるので、ひたすら凄いとしか言いようがない。

そして現地観戦では違う戦いも同時進行で始まっていた。
それは熱中症との戦いだった。母校は第二試合、真昼間の初戦だった。第一試合が延長していたので会場入りする前から灼熱の太陽に炙られており、ご存知の通り甲子園はドームではないので試合開始後2、3時間は座席固定で火炙りだった。そら吹奏楽部の楽器も心配になる。影響がないわけない。
かち割り氷で頭や顔、首や脇を冷やしたが残念ながら我が家は熱中症に負けた。なので正直、後半はあまり見れなかった。命の危機を若干感じた。

しかし終盤、勝ちそうな雰囲気だったのでなけなしの根性でマウンドを見ていた。
カキン、といい音が鳴って、母校は一回戦に勝利した。メガホンを叩いて、叫びのような歓声を上げて、ホームベースを踏む彼らを見送った。
甲子園で校歌を歌うという経験が、まさか自分もできるとは思わなくて嬉しくて少し泣いた。こんがり焼けた痛さにも泣いた。

帰りのバスは爆睡だった。
学校が二回戦観戦のためのバス利用者予約をしていたが、一試合でボロボロになったので現地観戦は諦めた。寄附を募っていたので代わりに課金した。

夜、朝日放送の番組である熱闘甲子園では、私も体育の授業でお世話になった体育教師兼顧問がインタビューに答えていた。野球部では先生だけが唯一知る人だったので、やっぱり夢やなかったんやな、と余韻に浸った。

学校側が作った公式応援グッズのタオル、帽子は今も記念にとってある。メガホンは引っ越しにあたり、申し訳なくも処分した。

今でも2015年熱闘甲子園テーマソングであるSuperflyのOn Your Side を聴くと、懐かしさと、あの一夏に全てを注いだ見知らぬ後輩たちの姿を思い出す。

あの夏の1日は、彼らにお裾分けしてもらった卒業後の青春だった。

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