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批評 『リディームチーム:王座奪還への道』、NETFLIX、2022年

本作は、2008年の北京五輪での金メダル奪還を絶対的使命として課されたNBA選手たちの軌跡を追うドキュメンタリーだ。

2022年の公開当時、「なぜ今なのか。」と思って観たが、観ていただくと分かると思うが、この映画は墜落事故で2020年に亡くなった、コービー・ブライアントに捧げられたものだった。

もう10年以上前の出来事なので、文脈を補足しておいた方がいいと思う。
チームを率いた「コーチK」の下記の本を参考に何点か指摘しておきたい。コーチKの本名は、マイケル・ウィリアム・シャシェフスキー(Krzyzewsk)、
名字の頭文字を取って、「コーチK」と呼ばれている。

まずは、当時のNBAの状況である。2008年に、コービーがMVPを取るまでの3年間、つまり、このチームが始動した年(2005年)からコービーが取った2008年まで、アメリカ人以外の選手がMVPを取っていた。それだけ、NBAが国際化されてきた時代なのである。今では、当たり前のようにアメリカ人以外の国籍の選手が活躍しているが。

そして、この年のファイナルでは、コービーのいたロサンゼル・レイカーズは、ボストン・セルティックスに負け、セルティクスが22年振りのファイナル優勝を飾った。コービーは、3連覇を果たした2002年以来優勝から遠ざかっていた。
また、コービーは「アメリカ代表で戦うのが夢だった」と言い、ユニフォームが披露された場では、涙を流した。

コービーは、映画の中で過大評価されているのではないか。と思われるかもしれない。しかし、「コーチK」の本を読むと、チームに「カルチャー」を持ち込んでくれたのは、コービーだったとある。

この「カルチャー」という言葉は、アメリカのチームビルディングや組織論の中では、頻繁に出てくるのであるが、邦訳が難しい。「企業風土」と訳されていることが多いが、私は的を得ていない気がする。「カルチャー」とそのまま訳した方がいいと思う。

さて、コービーが持ち込んだ「カルチャー」とは何だったのか。具体的には、映画を見てほしい。ここで、敢えて言うならば、「ディフェンス、リバウンドなど泥臭いプレーで勝つ」ということである。「自分に絶対、No.1プレイヤーをマークさせてほしい」とコービーは希望した。そして、「これだけ点を取れる選手が揃っているので、自分の仕事はディフェンスだ。」とチームの前で誓った。また、最初の練習ではシュートを打たないほど、徹底していた。

レブロンとの関係は、どうだったのか。コービーとレブロンの歳の差は、6歳である。このとき、レブロンはまだ優勝はしておらず、コービーは既に3連覇していた。コービーの方がスーパースターであった。これは、映画の中で描かれている、中国での人気からでも分かるだろう。
まだ、レブロンはスーパースターの階段を上り始めたところであった。レブロンが、ようやく優勝するのは、2011-2012シーズンである。

レブロンは、「コービーがどのようにして、重要な試合の準備をしているか。どのようなマインド・セットで試合に望んでいるか」など、教わりたくて、コービーの加入を歓迎したようである。

「コーチK」が奇しくも言っているように、「エゴを捨てるのは、自分が犠牲になることではなく、自分から離れ味方から教わる機会を得ることだ。味方は先生なのだ」

そのコービーの準備であるが、映画の中でも描かれているが、選手の招集日の二日前にキャンプに入り、スタッフのミーティングに参加し、相手の選手のことは、キャンプに来る前にビデオで研究済みだったみたいである。また、シーズン中もコーチKと連絡を取り合い、オリンピックで敵となる相手エースを試合でマークし、情報を集めていた。徹底的に相手エースを止める方法を模索していたようだ。

北京オリンピックでの結果は、ここでは明かさないが、その後、「コーチK」は、2012年のロンドン五輪、2016年のリオ五輪で金メダルを取り、アメリカ代表のコーチの座を退いている。

その後、コービーは2008−2009年、2009−2010年とシーズンを2連覇し、レブロン・ジェームスとともにロンドン五輪での金メダルに貢献した。レブロンは、今回のパリ五輪に出場予定である。



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