「睡眠と腸内細菌叢」 〜⑶腸内細菌を介した概日リズムと睡眠制御の可能性〜 について
こちらの続きからです。
「腸内細菌を介した概日リズムと睡眠制御の可能性」
腸内細菌は中枢および末梢時計の支配を受け、消化管の機能を補うように概日リズム変動をしていると解釈できます。
そこで、腸内細菌を介した宿主の概日リズムの回復、さらには睡眠制御の可能性が検討されています。
最近、腸内細菌自体が宿主の概日リズムに影響を与えることが無菌マウスを用いて示された。
Leoneらは、無菌マウスと通常マウスの視床下部内側基底部や肝臓の時計遺伝子 Bmal1 や Clock の発現を比較し、通常マウスでは既に報告した通り概日リズムが認められたが、無菌マウスでは概日リズムが減弱していることを見いだした。 本現象は食事の内容には影響を受けないことも明らかとなり、腸内細菌の存在が規則正しい概日リズムの発振に必須であることが明らかとなった。
腸内細菌が肝臓や視床下部内側基底部の概日リズムに影響を与える機序が検討され、腸内細菌の代謝産物である酪酸が日内変動を認めていたことから、腸内細菌が産生する酪酸 が注目された。
無菌マウスに酪酸を 12 時間ごとに注射投与したところ、肝臓の時計遺伝子の概日リズムが確認され、視床下部内側基底部におい ても時計遺伝子の振幅が増強される傾向が認められた。これらのことから、腸内細菌は代謝産物を介して、宿主の概日リズムの形成に寄与していることが明らかとなった。
末梢組織である腸管においても時計遺伝子による概日リズムが認められ、腸管機能に変動が認められるが、末梢臓器の概日リズムの同調には外部からの刺激が重要である。
特に消化管においては、食事の摂取がそのトリガーとなることが知られており、腸管の概日リズムを回復させる方法として、摂食時間を制限するTime restricted feeding(TRF)が報告されている。
モデルマウスにおいて同じエネルギー量の餌で あっても、24 時間自由摂食させた場合に比較して、1 日 9 時間未満などに摂食時間を制限すると、体 脂肪蓄積の抑制と耐糖能悪化の予防が認められる。
規則正しい食事パターンにより腸内細菌の多様性と日内変動を保持することが、中枢時計との同調と睡眠障害の予防に繋がる可能性がある。
「sleep homeostasis」
概日リズムに加え,sleep homeostasis における睡眠圧力にも腸内細菌の関与が想定されています。
1970 年代に細菌の細胞壁由来のムラミルペプチドが睡眠を促進することが見いだされ、その後、腸内細菌由来 LPS や炎症性サイトカイン(IL-1b,TNF-a,IL-18)などが睡眠を促す効果を有することが明らかとなった。
軽度の感染症や微生物由来産物が、ラットやウサギではノンレム睡眠の時間を延長し深度を増すこと、また、レム睡眠の時間を減らすことが報告されている。
感染症を有さないヒトにおいても、血中の IL-1b や TNF-a は概日リズム変動を示し、夜間に頂値となり明け方に低値となっており、入眠の契機となっている可能性が指摘 されている。
実際に,睡眠障害を高率に併発する慢性疲労症候群の患者では、LPS に対する血中の IgA と IgM が高値であり、腸管バリア機能の低下が推測されている。
そこで、慢性疲労症候群の 21 名の患者にエリスロマイシン 800 mg を 6 日間投与したところ、睡眠時間の延長が認められ、 Streptococcus の有意な減少など腸内細菌叢の変化も観察されている。また質問紙票で評価した睡眠の質は、被験者全体で有意な改善が認められていた。
Lactobacillus brevis のマウスへの 4 週間の投与により、身体活動度が増加し,、覚醒時間の延長が得られ、ノンレム睡眠が減じたとの報告がなされている。
またラットにラクトフェリンを含むプレバイオティクスを離乳期から投与すると、成獣期に腸内細菌の多様性が増加し、電気ショックによるノンレム睡眠の減少が予防可能であったとの報告もある。
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