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「IRのプロ人材」を量産するために何をすべきか

こんばんは。Mutualの吉田です。
2022年のIR系ACには、参画していないにも関わらず打ち上げには参加するということをやっていましたが、今年は参画することができました。笑

noteの三浦さんからバトンを引き継いだので、今回のIR系ACでは、「IRのプロ人材を量産するためにはどうすればよいか?」というテーマで書いていこうと思います。

なぜIRのプロ人材の量産が必要だと考えるのか?

日本ではコーポレートガバナンスの重要性が叫ばれ始めて久しく、ここ最近では政府が「資産運用立国の実現プラン」を公表するなどの動きを見せています。このような中で日本の株式市場に注目を集める海外投資家が増えていると言われていますが、それに伴って日本の上場企業に求められるIR活動の質向上も今後益々求められるようになってくるのではないかと思っています。

日本の上場企業がIR活動の質向上を図るために必要なことは色々あるかと思いますが、「高い資質を備えたプロのIR担当者が増えること」は間違いなく不可欠かと思います。
では、そのためにはどうすればよいでしょうか。
あくまで一意見ではありますが、私個人としては、「IRという仕事を専門職化していくこと」が不可欠なのではないなと思っています。
専門職とは、その名の通り「専門性を必要とする職」のことで、典型的には医師、弁護士、会計士、看護師、建築士等が挙げられるかと思います。また、士業だけでなくても、例えば経営者、経理、投資家等も専門職だと言えます。

このような専門職に就く人たちは、その専門性を活かして様々な場所で活躍するために自らの専門性を磨いています。そして、そのような専門性を磨き上げた希少性の高い人材は、高い報酬を得ながら様々な場所で活躍することが可能となります。その中でロールモデルとなる人が生まれ、その人にインスパイアされた優秀な人が新たにその専門職を目指し参入してくる。
こういったエコシステムが存在することで、業界全体の人材の質を高いレベルで確保することができるのではないかと考えています。

この点、IRという職種は、高い専門性が求められる仕事であるにも関わらず、まだまだ専門職としては十分に認識されていないのではないかと思います。そもそも「プロのIR人材になりたい」ということを志す人もまだまだ少ないでしょうし、「IRとしての専門性をどのように磨けばいいのかが分からない」と思われているIR担当の方も意外と多い気がします(実際そういう声を聞いたことがあります)。

そのため、先述のとおり私個人としてはIRが専門職化していくための取り組みが色々必要なのではないかと考えています。
以降では、私の考える「IRを専門職化するために必要なこと」を簡単にまとめてみます。

1. IRという仕事の認知を広げる

公認会計士ACで書いた「公認会計士×IRというキャリアのススメ」というエントリーでも少し言及しましたが、IRという仕事は、その存在と業務内容があまり知られていないのではないかと思います。
実際、業界から少し離れた人に「IRのコンサルをやっています」と話したときに「カジノとかのコンサル?」みたいなことを聞かれたことも何度かあります。

色んな人が参入を目指す専門職となるためには、まず認知されることからはじめないといけません。そのためには、IRの仕事内容や魅力を伝える書籍やメディア等がもっと増えていくことがまず考えられます。
例えば市川祐子さん著の「楽天IR戦記」などはその代表格で、同書を読んでIRの業界に興味を持ち、IRの道に足を踏み入れた方も多いのではないでしょうか。

なので、現役バリバリのIR担当者が、書籍やメディア等でIRの面白さ等を伝えていく動きがもっと増えればいいなと思います。(当然弊社も、そういったコンテンツを発信できるように頑張ります!笑)

また、突飛なアイデアに聞こえるかもしれませんが、「新卒でIR担当を採用する」という動きが今後もっと増えてもいいのではないかと思っています。
今回のアドカレで書く内容を考えている中でIRの求人情報を調べてみたのですが、80の求人情報のうち新卒採用を行なっているものはゼロで、56がIRの実務経験を要求しており、その他の求人も証券会社や経理・財務等の実務経験を要求している場合がほとんどでした。つまり、基本は中途採用の職種だということです。

しかし、新卒でIR担当を採用する会社が増えて、学生向けの就活イベント等でもIRの業務内容が紹介されるようになると、若い人たちの間でもIRという仕事の内容がもっと知られるようになるのではないかと思います。
金融業界へ志望する優秀な学生は多いので、そのような人たちに1つの選択肢としてIRを紹介できると、IRという仕事の認知度向上にも寄与するかもしれません。
当然、新卒でIR担当を採用をしようと思ったら、後述する「学習機会」や「ロールモデル」といった要素も必要になってくるので簡単ではないですが、中長期的には「新卒でIR」というパターンが増えていくといいのではないかと思っています。

2. 体系的に学ぶ機会を増やす

前回のエントリーでも言及しましたが、以下のとおり、IR担当者に求められるスキルや知識は多岐にわたります。

  1. 会計に関する知識

  2. 財務分析に関する知識

  3. コーポレートファイナンスに関する知識

  4. 会社法・金商法に関する知識

  5. コーポレートガバナンスに関する知識

  6. 開示制度に関する知識

  7. 資本市場との対話に関する知識

  8. ESGに関する知識

  9. ビジネススキル

  10. 英語スキル

  11. 対人コミュニケーションスキル

  12. エクセル等のオフィスワークスキル

  13. ヒアリングスキル

  14. プレゼンスキル

一方で、このような専門知識やスキルを体系的に身につける機会は意外と少ないのではないのではないでしょうか。
IRの場合OJTが基本でしょうから、自身がどれだけIRの専門性を磨き上げられるかということが、所属する会社のIR部長やCFO等の上長の知識量、経験量等に大きく依存するという実態が多くの場合あると考えられます。

昨今、コミュニティ等を通じてIRに関する情報交換を行う機会が増えていたり、IRに関連する情報発信が積極化されていたりするので、実務に役立つ情報をキャッチアップする機会は増えてきていると思います。
あとはそれらが体系化された状態で学習できる状態になるとIR担当者にとっての知識・スキルの習得がしやすくなっていくのではないでしょうか。先日浜辺 真紀子さん著の「IRの基本」が発売されましたが、こういった書籍が増えることも多くのIR担当者にとってポジティブなのではないかと思います。(私もこれから読んで勉強します。)

このあたりは、実際のIR担当の方から「自分はこういう学習をしている」とか「こういう学習機会があると嬉しい」みたいなことを色々聞いてみたいところです。

3. 資格の取得を普及させる

どれだけ学習機会が増えたことで自己研鑽を行なったとしても、「どの領域でどれくらい知識があるのか」ということが外部から見て分からなければ、なかなか専門性が理解されません。

この点、なんだかんだで資格は、外部の第三者から一定以上の専門性を理解・信用してもらうのに有用です。先ほど専門職として例示した医師、弁護士、会計士、看護師、建築士も、試験を通過して資格を取得しており、その資格があるからこそ専門性を外部に訴求して色々な領域で活躍できるわけです。

もちろん、資格がなくても色々な場所で活躍している人はごまんといるため資格が絶対というわけではないですが、それでも多くの人にとって資格というのは強力な武器になるのではないでしょうか。

IRに関する資格としては、「日本IRプランナーズ協会」の認定講座を受講し、試験に合格することで取得することができる「IRプランナー(CIRP)」というものがありますが、こういった資格を取ることは有効かもしれません。
また、英語はTOEIC、会計は日商簿記、ファイナンスCMAやCFA等、IRに関連する各領域の資格検定を受けることも手段としてあるかと思います。
個人的には、IRプランナーのようなIRに特化した資格がもっと普及し、かつ簡単には取得できない一定の希少性のある資格という認知が広がるとよいよいのではないかと思っていますが、いずれにせよ各企業のIR担当者が、自らの専門性をしっかり外部に訴求するために何らかの資格を取得するという動きはもっと普及してもよいのではないかと思っています。

4. ロールモデルをつくる

IRを専門職化していく上で重要な要素として、「ロールモデルをつくる」ということがあるかと思います。

統計をとったわけではないので肌感にはなりますが、現状、IR部門での実務経験を積んだ人が他社のCFOや経営メンバーとして参画するといった事例はまだかなり少ないのではないでしょうか。例えば「CFOにはどんなバックグラウンドの人が多いか?」と質問すると、おそらく多くの人が以下のようなものを想起するのではないかと思います。

  • その会社での生え抜きの社員

  • 公認会計士

  • 投資銀行出身者

  • ファンド出身者

実際、多くの人にとってロールモデルとなる著名なCFOなどは、上記の経歴のいずれかを持っていることが多いです。そのため、「将来CFOになりたい」となったときは、「会計士の資格を取ろう」とか「まずは投資銀行に行こう」という判断に至りやすく、「IRの実務経験を積もう」という判断には至りにくいというのが実態かもしれません(こんなことを会計士の自分が言うと反感を買いそうですが)。

一方で、例えば「IRのプロとして実務経験を積んだ人がCFOとして転職する」といったなパターンが増えてきたら、IRのプロを目指す人が増えることが期待されるのではないでしょうか。もちろん、IRで身に付く知識や経験だけでCFOの業務を全うすることはできませんが、それはどんなバックグラウンドを持っている人も同じで、誰しも走りながらキャッチアップするという側面が必ずありますよね。なので、IRのプロとしての専門性を評価し、CFOとして抜擢するといった動きがもっと出てきてほしいなと思います。

また、CFO以外にも、「社外取締役を目指す」という選択肢もあると思います。社外取締役には、開示やコーポレート・ガバナンス、投資家心理等を理解した上で、社内外との対話を通じて会社を客観的に捉えることが期待されていますが、まさにこのような能力は、IRでの実務経験を積むことで培うことができるとも言えます。そう考えると、実はIRから社外取締役を目指すことはかなり相性がいいかもしれません。

いずれにせよ、ロールモデルとなる人が増えてくると、IRの領域に足を踏み入れる人が増え、先ほど掲載したエコシステムがIRの領域でも回り始めるのではないかと思っています。

この循環が回ることで、高い資質を備えたプロのIR担当者が増え、日本のIR活動の質がさらに向上し、資本市場の発展につながっていくのではないでしょうか。
弊社としても、IRという仕事のプレゼンスをもっと高めていくことに貢献できるよう、色々取り組んでいきたいと思っています。


ということで、本日は「IRのプロ人材の量産」についての考察を書きました。この辺りは、現役のIR担当の方々含め、いろんな方と議論し、考えを聞きたいなと思っています。

最後までお読みいただきありがとうございました!!