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【書き起こし】IRインタビュー_フーディソン代表取締役CEO山本徹さん

今回、株式会社フーディソンの代表取締役CEO山本徹さんにIRインタビューを実施してきました。本記事では、そのインタビューの書き起こしを公開いたします。
インタビューの動画は、以下よりご覧いただけます。

また、同社の深掘りレポートはこちらです。


吉田:本日はお時間をいただきありがとうございます。今日はフーディソンさんについて、私からIRの観点で山本さんにお伺いしていきたいと思っています。山本さん、よろしくお願いいたします。

山本:よろしくお願いします。

創業経緯について

吉田:早速ですが、最初に創業経緯についてお伺いさせてくだしさい。山本さんは元々エス・エム・エスの創業メンバーで、上場も経験されてからフーディソンを立ち上げられているという経緯だと思います。今の事業ドメインは、生鮮食品の流通を良くしていくというところで、エス・エム・エスのときの介護や医療の領域とはかなりかけ離れた領域だと思うのですが、どういう経緯でこの領域で起業しようと思われたのでしょうか。

山本:私は大学卒業時に工学部の機械工学を卒業しているのですが、周りの同期は大体修士課程に進学して自動車会社などに就職するようなところでした。一方、私は不動産業界のマンションデベロッパーに就職し、セールスの仕事をしていました。そこで会った仲間たちと一緒に、エス・エム・エスという会社に創業メンバーとして入ったのです。

工学部の機械工学から不動産、介護・医療ときていますよね。この段階で、そもそも一つの分野で何かにチャレンジしていくということを決めていませんでした。加えてその中で、介護・医療の中でチャレンジしたときに、うまく上場することができたという経験もありました。そのため、経験値のない新しい事業領域に入ったとしても、正しいやり方で正しい機会を掴んでいけば、そこでチャンスは得られるという実感があるんです。介護・医療から食の領域に変わっていくことに対するそもそもの抵抗がないんですよ。
そのため、新たな事業領域を探すときに、介護・医療の領域でやるんだったらそもそも会社を辞める必要がないじゃないですか。なので、最初から違う領域で探そうとしていました。

この領域に決めるきっかけとなったのが、三陸の方に行ったときのことです。サンマ漁師さんとお会いして、「サンマを獲っているけど全然金額がつかない。」ということを聞きました。1キロ10円とか30円で売っているということを仰っていて。サンマ1尾が100gだとしたら、1円とか3円とかというのが売値による手取りだと思うんです。今考えてみると、それは加工用のサンマだったんじゃないかなと思います。とにかく、誰もが知っているサンマの漁師さんが儲からない、息子さんは継がないと言っている。美味しい秋の味覚を獲る人がいなくなっちゃうんじゃないかという一方的な思い込みを持って、水産業を見てみたときに、流通の課題感を持っている人ってほとんどいなかったんですね。でもみんな魚を食べていて、マーケットとても大きいですよね。そこで、その流通のインフラ自体に課題があるんじゃないかという見立てがあって、これは逆に誰もやってなくていいんじゃないかなと思ったんです。

なぜ最初に魚屋から始めたのか

吉田:なるほど。そして、最初にやられたのが魚屋さんだったんですよね。これはどういう経緯で魚屋さんから入られたんですか。

山本:この業界に対する接点が今までないわけじゃないですか。なので、一番初めに最終系のプロダクトから業界に参入するってすごく筋が悪いと思います。業界のことを知らないのに、良かれと思って作ったサービスが当たる確率はとても低そうな気がしますよね。なのでまずは業界の中に入って根を張るサービスから参入するっていうのが重要で、一番簡単だと語弊があるんですけど、何もない自分がゼロから始めるには、卸に入るのはすごくハードルが高いんですね。設備も必要で、たくさんのお客さんと仕入れ先が必要なんですけど、小売だったら仕入れることができれば、場所さえあればお客様に向けて商売できるじゃないですか。だから、まず一番参入しやすいビジネスモデルから入るのがいいんじゃないかと思っていて、お店を探し、小売店として出店したのが一番初めですね。

吉田:でも、仕入れルートとかを確保しに行くところもかなり大変そうですよね。

山本:とても大変でしたよね。すごく短絡的なんですけど、まずは産直だとなって、漁協さんに直接アタックしに行って、もう何でもいいから魚を売ってくれというので仕入れ始めたんです。当時出店した魚屋は、埼玉の奥にある高麗という地域だったんですけど、そこで言うと魚食文化ってそんなに進んでいないんです。高鮮度の朝どれの魚を取ってきても、お客様は水族館で楽しそうに魚を眺めるように見るんですが、買っていくのはイワシの干物とかそういう状態だったんですね。そこで、お客様のニーズに合わせるということの難しさも感じましたし、産直がいいみたいな話っていうのは、お客様の状態によっても変わるんだなっていうのは思って、なかなかうまくいくのは難しかったですね。

吉田:なるほど。ただ、最初から魚ポチでやられているような、飲食店さん向けのECみたいなものはやっていこうという構想はあったんですか。

山本:ありましたね。参入するときから、小売と卸売はまずやるだろうと決めていて、どの順番でやるかということを考えていましたね。

魚ポチについて

吉田:ここから一番メインのサービスである魚ポチですね。中小の飲食店さん向けのEコマースをやられているサービスだと思うんですが、こちらについてお伺いしたいなと思います。多くの方は、この魚ポチっていうサービスを、飲食店向けのECサイトぐらいにしか捉えてないと思っているのですが、実際にはかなりいろんな流通上の負を解消されていると思っています。例えば水産業界の流通に関連したどういった負が存在しているのか、御社が何を解決しようとしているのかを簡単にお伺いしたいと思います。

山本:そうですね。まずは利便性の部分が一番大きいんじゃないかなと思っています。日本にある飲食店さんの大多数が中小飲食店と言われていて、個人で経営されて身内の方とか、小規模でお店を回されているという状態になっています。そうなると、1人で何役もこなすわけですよね。調理もあれば仕入れもするし、会計も伝票処理も全部するわけです。そうなったときに、毎朝築地まで行く、毎朝豊洲まで行くっていうのは工数的にはなかなか大変なんですよね。なんですが、元々は自分の目で見て品質を確認して買わないと、いい状態のものを買えないから行く必要がありました。そのため、市場に通っているお店が良いお店だよねというふうになるというのが今までの一般常識だったと思うんですよね。ただ、その前提は、そこに行かないと品質が確認できない。もしくは、市場で見ていない人にはある程度品質がよろしくないものを送り込んでしまうみたいな文化があるということでした。
それを変えることできれば、わざわざ市場に来る必要もなく、お店にいながら欲しいものを注文することができるっていう、既存のECのシステムに反映させることができるわけですよね。一番大きいのは、市場に来なければならないということ。加えて、新規参入した飲食店さんは掛け払いもできず、現金で買わなきゃいけないみたいという負もありました。それを解決し、お店にいながら、産地の欲しい商品も、豊洲に来ている商品も買うことができるっていうのが一番大きなポイントだと思います。さらには元々、築地に来るっていうことも朝来るの大変じゃないですか。それが豊洲に移転してから、さらに交通事情が悪くなっているんですね。そのため、実は豊洲に移転した後に、一度大きな波で我々のサービスに登録いただくお客様が増えたんですよ。

元々市場に通われてたお客様からすると、サービス開始当初は魚ポチでものを買うっていうのは、やや値段が高かったんですよね。ちょっと高いけどそこに足を運ぶ手間を考えたら買ってもいいかなって思えるところがあるじゃないですか。今だと我々もまとまって買う量が増えてきている部分もあるので、市場で買うのと遜色ない金額になります。もしくは産地で魚を買いたいってなったときに、今日水揚げされた魚が欲しいのに、産地によっては今日は水揚げがないですってこともあるわけですよね。産直の魚をちゃんと日々手に入れるということは、実は複数の産地とネットワークを持っていないと、なかなか安定供給できないんですよね。それを朝の4時とかに、産地の競りに合わせて電話するっていうのはもうとんでもなく大変なオペレーションなので、そこを我々は束ねて、システム上で産地のものも買える、豊洲に来ているものも買えるっていうのを同時に実現させているっていうのが、飲食店経営において、朝の仕入れにかける時間を減らすことに貢献できるんじゃないかなと思います。

魚ポチの商流について

吉田:今、直近でも取引産地が70ヶ所以上あるんですよね。だから飲食店さんからすると、全国いろんなところから、いろんな魚をいつでも仕入れられるようになっているということですね。

山本:加えて、今までだったら、いろんなところに支払いしなきゃいけないところを我々に一括で払えばいいっていうのもだいぶ楽だと思います。伝票処理も我々だけでいいっていうことになるじゃないですか。

吉田:飲食店さんからすればとても便利ですよね。

山本:そこでなによりも大事なのが、飲食店さんが欲しい魚をちゃんと買えるかどうかなんですよね。例えば、我々のサイト上で、マグロで検索すると270種類ぐらい出てくるんです。これは食文化の多様性がまさにここに出てるなと思うんですけど、冷凍から生の魚、養殖魚、天然魚も含めていろんなマグロがあるんです。その中で自分が欲しいマグロはこれだっていうものをしっかりと選んでいただいて、その体験に満足していただければ、そこから離脱しないんですよね。そのため、オンボーディングがとても重要なんです。どういう業態でどういうお店なのかっていうのを把握して、それだったらこの商品がよろしいと思いますというレコメンドをしっかりして、始めの3回ぐらいは手厚くフォローをし、その後はご自身でどんどん買っていただくっていう形になるんです。そこが一般的なECとちょっと違いなのかもしれないですね。

吉田:そこまで寄り添って、最初にフォローすることって他のECではあまりなさそうですよね。それが御社の強みとしてもあると思うんですけど、最初は小ロットで注文いただいてから、どんどん注文数が増えていってARPUが伸びていく構造になっているんですね。

山本:まさにそうですね。特に水産品は、ちょっと買って様子を見て安心できるってなったら少しずつ広がっていくんですよね。なので年単位でどんどんARPUが上がっていくっていうのが特徴だと思いますね。初めからいきなりたくさん買うっていうのは、むしろ注意した方がいいかも知れないですね。

吉田:現在の取引産地70ヶ所以上のネットワークを作っていったのは、やはり魚屋をやってたっていうのが結構効いてるところがあるんでしょうか。

山本:そうですね。いきなり売りたいんで仕入れさせてくださいって言っても売ってくれないですよね。魚屋を持っているので売らせてくださいと、一番初めに言ったのは長崎の漁協さんなんです。そこから全てがスタートしています。初めは関係性が全くないところからコミュニケーションして入っていったんですけど、やっぱり入り込んでいくのはすごく大変なんですよ。

吉田:そうですよね。特に水産業界は大変そうなイメージがありますね。

山本:結局、月に1回だけ来てスポットで買って、その後来ないお客さんって、あっちからしたら煩わしいだけじゃないですか。そのため、安定的に水揚げされるものをちゃんと買い続けてくれるっていうトラックレコードがすごく重要になります。そうなってくると関係性もわかり、品質に対する手当てとかもチューニングが効いてくるんですよね。

例えば、長崎で水揚げされた魚を、福岡に送るとき氷の量で東京に送ったら、着いた時には氷が全部溶けちゃってるんですね。つまり、魚がいい品質で東京に届かないと意味ないじゃないですか。なので産地ごとに目線合わせを初めにして、これだったらやれるねっていうのを持ってスタートするんです。それがすごく大事です。産地ではすごくいい魚が、東京に来て本当にいい魚であり続けるかは、全く別の話じゃないですか。飲食店さんに良い状態で届けるためには、長崎から送ってくる際に、これぐらい氷を入れてないと絶対もたないので入れてくださいとか、大きい氷は駄目ですとか、袋に入れてくださいとか、魚ごとに仕様が決まっていて、それをちゃんとチューニングして届けてもらうことで初めて価値になるんですよね。魚は水揚げされた直後からどんどん価値が劣化していくので、お客様に届いたときに価値がある状態にするためには、産地とのコミュニケーションが大事で、ポッと出で売ってくださいってやってるとそこのチューニングは絶対やってくれないですよね。だからそれをずっと積み重ねてやってきてるっていうことが、やればやるほど関係性が良くなり、届けていただく魚の品質が一定安定し続けることの背景にあるので、実はすごく大事なんです。

吉田:そうなんですね。例えば、産地の卸売業者さんで、産地の近郊にしか卸してなかったところを、一緒に東京にやっていきませんかという提案をすることはあるんですか。

山本:はい。地域ごとにコミュニティがあるので、外に売っていきたいけど、東京に出してないとかありますね。例えば、北海道に出してたけど東京に出してないとなったら、また違う仕様にしなきゃいけないじゃないですか。だからそこはその地域から外に出すっていう役割の方と、仕様についてはちゃんと固めていくっていうのは大切ですね。良い流通にならないと、産直だけどがっかりだよねみたいなことが起こってしまうんですよね。

吉田:なるほどですね。ここからちょっと商流のところについてお伺いしたいんですが、全国各地に仕入れの拠点や産地の業者さんとのネットワークがあって、一旦全部御社が持たれている大田市場に集められるんですか?

山本:はい、そうです。商流は大きく分けると二つあって、自社が買い付けて集めるものは大田市場に集まるんですね。裏を返すと、僕らが買い付けなくても東京に集まってくる魚ってあるんですよ。毎回東京の需要に対して、各産地からトラックが動いていて、予想売上に基づいていろんな産地から来るんですよね。そういう商品に関しては、我々がわざわざ買い付けをして在庫のリスクを取る必要はなくて、豊洲に集まってくる商品をデータベース化して、お客様に提供しているということですね。
これはすごく便利なことではあるんですね。豊洲にある商品が見える化され、そこを買えるっていうのはそれも一つのイノベーションだと思うんですね。ただ、それだけだと飲食店さんにとって、豊洲で買えるものだけだったら差別化にならないじゃないですか。だからそこにお店の差別化のために産地の商品をスポットで入れていくんです。我々は豊洲にオートマチックに送られてきていないもので、産地にある価値のある魚を個別で買い付けているんです。なので商流は二つあって、市場から買うものと、産地から買うものの2つがあるということですね。

なぜ産地から買うかというと、量がまとまってないからそもそも産地から東京に送られないというものもあるんですよね。また、価格が東京で買うよりも特殊な買い方をすると安くなったり、もしくは産地で指定したやり方をしてもらうと鮮度が良くなったりするんです。そういう差別化があるものは産地から買うんですよね。

吉田:今の割合としては、市場から買うものと産地から買うものが半々ぐらいという感じですか?

山本:そうですね。市場と市場外で半々ですね。

吉田:産地から仕入れるものに関しては御社が在庫リスクを負って、売り上げを予測して仕入れられて、それが大田市場に運ばれてくるんですよね。運ばれる間に、魚ポチのサイト上に掲載して、それを見た飲食店さんが発注していく。その後、配送の作業が大田市場で行われるという流れですよね。市場で仕入れる商品は豊洲に一旦集まるんですか。

山本:それが多いですね。大田市場があるので大田向けの商品はあると思うんですけど、我々が買ってる場合は直接呼びますし、大田の競りをやられる会社さんが仕入れてるものもあるので、一部は太田市場に来ているものもあると思うんですけど、大多数は豊洲に集まるというイメージです。

吉田:豊洲で御社が買参権も持たれているので、競りや相対取引を通じて仕入れているということですね。豊洲に届いたものが、魚ポチに掲載されるタイミングというのは、御社が仕入れたものの情報が反映されるということなんですか。

山本:いえ。豊洲に向けて各産地からトラックで出荷される段階で、着荷情報を持っているので、その情報をデータ化して売りをかけていて、売れたものを朝引き取りに行くという形ですね。

吉田:なるほど。そちらの方は在庫リスクとかは基本的にはないんですね。

山本:そうですね。また、産地からの仕入れの場合、在庫リスクを取ってるじゃないですか。ただ、今まで十数年ぐらいずっとサービスをやっていて、トラックレコードを持っているので、大体これぐらいの量がこのタイミングで売れるというのはわかるんです。それに加えて、今ある在庫を踏まえて仕入れるとそんなに外さないんですよね。また、廃棄ロスというのは存在しないんですが、翌日に「これ昨日の魚なので少しだけ安くして売ります」みたいなことはやるんです。値引きロスといえば値引きロスかもしれないですけど、ほとんどなくてそれで売り切っちゃうんです。それでも売り切れなかったら、小売店側で売ってしまうこともできるので、現状で言うとBtoB側のロスはゼロですね。

改正卸売市場法の影響

吉田:そうなんですね。2020年の6月に改正卸売市場法が施行されましたよね。それまでは産地から仕入れるのは結構難しかったということになるんですか。

山本:もうちょっと補足すると、産地から買い付けるたびに煩雑な事務手続きをやらなければいけなかったんです。それをやると業務的に回らないよねという状態になっていて。オートマチックに全部どんどん買っていいというわけじゃなくて、買ったものは手続きをし、都に一定の手数料を申請するみたいなことをやらなくちゃいけなかったんです。それが撤廃されたということです。

吉田:いわゆる直荷引きというのが、規制されていて、そこが撤廃されたということですね。

山本:我々からすると市場間のやり取りがやりやすい環境になったという感じですね。

産地業者にとっての魚ポチのメリット

吉田:今までは産地でしか売れていなかったようなものが、消費地に送れるようになったという意味で、漁師さんとか産地の卸売業者さんも結構助かってる側面もあったりするんですか。

山本:実際そういう声は届いています。半期に1回社内で全社員向けの動画を配信していまして。社内でもお客様に直接フロントで接してる社員ばかりじゃないじゃないですか。だとするとお客様がどう喜んでくれてるのかって伝わりにくくて。ビジョンを語っても、実際我々はどうなってるんだろう、どうやってお客様に感じてもらっていて、何を変えられてるんだろうかって肌身で感じにくいじゃないですか。だからそれは組織的に、今お客様がどういうふうに感じているのかを、メッセージを集めて伝えていくってことはすごく重要で。そのときに言っていただくことがあります。

例えば、産地と東京の間でいうと、基本的には強い需要に則って魚は買われるので、一番強いのはスーパーマーケットなんですよね。スーパーマーケットが100ケース欲しいですみたいな情報は、すごく活性化してるんですね。一方で、東京の中央区にある博多魚介料理専門店が、「博多の今の時期のあの魚が欲しいな」ってなったときに、それを買い付けてくれって言っても相手にしてくれないんですよ。我々はそれを代行してるっていうことになっています。

例えば、産地に行ったときにめちゃくちゃ安くて美味しい漁師居酒屋みたいな店が、博多とかにもいっぱいあるじゃないですか。これ東京で言ったら多分3倍ぐらいで売れて絶対儲かるよねみたいなことが、でも東京には来ないっていうのがあって。東京に出荷してもどうせ売れないよねって思っちゃって地元で現金化されていたものと、中央区でその魚が欲しい人がいますよっていうのを僕らはマッチングしているんです。産地からすると、地元で売ってたよりもちょっと高くなる。東京の店からすると今まで手に入らなかったものが買えるようになって差別化になる。そういうことを僕らは繋ぎ込んでるということですよね。

吉田:需要を束ねて活かしているということですね。

山本:元々日本の水産流通のビジネスモデルって、大量に世界中の海から魚を捕ってきて、缶詰にして海外に輸出して外貨獲得するみたいなものだったと思います。その時代は、大量に取って売りまくるというので良かったと思うんですけど、今の日本の海の強さって、多種多様な季節ごとの鮮度のある魚じゃないですか。これってスーパーマーケットにすごく相性が悪いんですよね。多種多様な魚が季節ごとに来られても困るじゃないですか。一番売れる上位10商品ぐらいを安定的に入れてくれよと思うんですよ。それは飲食店には実はすごく相性がいいはずなんですけど、日本で作られてる流通の仕組みっていうのはスーパーマーケット最適化なんです。たくさん安かろうでも売ってこうみたいな世界観で言うと、生産サイドはたまらないですよね。そんな大規模な生産サイドばかりでもないですよね。むしろ8割9割は中小零細の団体なので。産地の多種多様な魚を、多種多様な飲食店さんと、ちゃんと繋ぎ込んでいくことで初めて価値に転化するんじゃないかなと。社会の変革とともに、そっち側にバリューがあるんじゃないかなっていうのは今感じてるところですね。

飲食店の魚ポチ利用前の仕入れルート

吉田:確かにそうですよね。漁師さんも今すごく大変な方が多いですもんね。資源管理や漁獲規制の問題も重なったりとか、魚がそもそも減ってしまってるとか。そこを流通の観点から、御社は解決されてるっていうところですよね。今顧客となっている飲食店さんは御社のサービスを使われる前は、街の魚屋さんやスーパーで魚を仕入れていたんでしょうか?

山本:そうですね。元々市場に行かれて買われた方は、利便性から魚ポチを使っていただきます。市場が周辺にない方は、実はスーパーで買われてるってのは結構ありますよね。午前中にめちゃめちゃでかいビニール袋を持って、スーパーで買われてるとか、業務用っぽいじゃないですか。

どのような飲食店が魚ポチを使っているのか

吉田:確かにそうですよね。飲食店さんは海鮮居酒屋だけじゃなくて、いろんなタイプの飲食店さんがいらっしゃるっていう感じなんですよね。

山本:そうですね。和食居酒屋さん、イタリアン、フレンチ、お寿司屋さん。イタリアンとフレンチは割と多いですよ。メインの料理としても、白身魚で使われたりとか。品質と価格のバランスが取れていて問題ないなってなったら、仕入れる便利さが完全に優勢になるんです。そのため、安定的にずっと使っていただくっていうのが多くて、割と銀座界隈とかある程度客単価の高いお店でも結構使っていただいてたりしますね。

吉田:そうなんですね。勝手に、高級路線のお店さんとかは自分の目で目利きをしないと駄目だっていうので、どちらかというと魚ポチを使われてるのは低価格帯から中価格帯の飲食店さんなのかなと思ったんですけど、意外とそうでもないんですね。

山本:お店の業態によるんですよね。お寿司屋さんで、超ハイスペックで、頂点に君臨するお店があるじゃないですか。そういったお店は、仕入れは完全オーダーメイドですね。何があっても絶対に目線が合うものを、どんなに高くても買ってくるんで、必ず仕入れてくださいっていう形でやり取りしてるところは、我々のようにシステムで汎用化させるっていうのとは相性がすごく悪いんですね。
そういう有名店で使っていただく金額もかなり大きいと思うんですけど、極めてニッチだと思っています。そこはむしろ人海戦術で労働集約的にやられるバリューがあるところだと思います。そこで我々が規模感をとるためにサービスをカスタマイズするっていうのはあまり考えていなくて、今まで魚のスペシャリストでやってこられた市場の方にやっていただくのが正解だと思うんですよね。なので、寿司で言うと明確にそこは差分があるところで、我々のサービスの対象ではないと考えています。イタリアンやフレンチで言うと、日々変わる食材というよりは、ある程度安定した養殖の魚をこれぐらいの品質でこれぐらいのタイミングで仕入れたいっていうのが定まってくると、1店舗について完全にマンツーマンでやるほど変化が起こらないですよね。そのためシステム対応がしやすいところですね。

魚ポチの顧客獲得ルート

吉田:かなり幅広な飲食店さんがターゲットになってくるという感じですね。今はそういった飲食店さんは基本的にWebマーケティングで出稿されてるという形なんですか。

山本:基本的にはそうですね。ただ、そこはいろいろ試行錯誤していて、Webマーケティングで登録を促すといろんな業態の方が登録いただくじゃないですか。その中には本当にスポットでしか使わないお客様もおられれば、月間120万使われるお客様もおられるという状態で今までやってきていて、アクティブ顧客数をどんどん増やしていくということでやってきていました。ただ、月間120万使っていただくお客様をターゲティングして当たっていく方が効率がいいんじゃないかというのもあって、そのときの獲得効率がどの程度か、継続して使っていただけるのかと等を検証ができたら、そこにシフトしていこうということで、検証はしてるところですね。

売上総利益額を安定的に成長させていきましょうっていうのを経営上の重要指標として見てるんですけど、その中でいうと売り上げの構成比で一番大きいのはやっぱり魚ポチというBtoBのサービスですよね。BtoBのサービスの粗利額を構成するのは、粗利率とアクティブ数とARPUなんですよね。この三つをどうやってうまくマネージして、粗利額を最大化させるかというのをマネジメント側でいろいろ見てるところではあります。

売上総利益率が上がっている背景

吉田:なるほど。ありがとうございます。売上総利益率についてお話があったと思うんですが、決算説明資料を拝見してると、じわじわ上がってきているじゃないですか。おそらくこの背景にはいろんな試行錯誤や努力があると思うんですけど、そういった努力が実っているという感じですよね。

山本:そうですね。売上総利益率に関しては特にBtoBとBtoCでじりじり上がってきてるんですけど、BtoB側で言うと、提供してるサービスに対する適切な付加価値分の値付けができてるかを検証しています。それこそ、魚を一尾からでも届けるわけじゃないですか。そうなったときに、その利便性、良い魚を一尾からでもお届けできる利便性に対して、採算が合ってないところに関しては、チューニングをしてる部分っていうのはありますね。そういったところの分析をしながら最適化をするというのは一つやっていることです。
BtoC側で言うと、商品の魅力をしっかり高めて、いい商品を作っていくってことをやってるのが商品粗利が高まってるっていうことに繋がってるのかなと思いますね。

吉田:結構PB商品も力入れられてるっていうのがありますよね。それがどんどん売れていくと利益率は上がっていくってんですね。

新FFCを開設した背景

魚ポチに関連して、去年の8月に新FFCを開設されていると思うんですけど、これは単純にキャパシティを拡大すること以外にも何か目的とかってあったんですか?

山本:センターの役割って倉庫機能と、積み込んで出荷させていく作業スペースという機能があるんですけど、一つはそのキャパシティを上げるためっていうのはあります。加えて、場所が広くなると出荷するオペレーション自体の生産性を上げるための何らかの打ち手を打ちやすくなるんです。大きな設備投資は今季はあまりやらない想定なんですけど、例えば狭い部屋で自動レーンを作るとかって言ってもそもそも発想できないと思うんですよね。広い場所があったときに、今100人でやってることを70人ぐらいでやれるオペレーションに組みかえるための設備投資はこれぐらいやるっていう発想ができると思うんです。

設備投資以外にも、システム化によって、極端に言うと日本語がわからなくてもオペレーションがちゃんと回せる体制にするとかっていうのは今までも進めてきてたりするところなんです。そういうオペレーションの効率化に資するような打ち手が打ちやすくなるっていうことがあります。キャパシティと同時に収益性向上に繋がる部分が大きいかなと思いますね。

新FFCがなぜ顧客満足度の向上に繋がっている?

吉田:実際にそれが稼働してから、飲食店さん側での満足度も上がってきてるみたいなお話をどこかでされてたと思うんですけど、それはどういう観点で上がってきてるんでしょうか。

山本:満足度というよりは、出荷の品質を見る指標がいくつかあって、例えば誤配送が起きないとか、要するにエラーがちゃんとわかる指標は作ってるんですよね。出荷のオペレーションで、8月に新しいセンターを開く前と比較をしたときに、8月に拡張して、9月10月ぐらいの段階で、もう既にエラー率は以前より下がってるんですよ。なので、確実に適切にお客様のもとに届けるっていうオペレーションが以前よりも、その段階でできるようになってるっていうのは、これはいいサプライズでしたね。

吉田:早いですよね。むしろ逆に最初ちょっと混乱するのかなとも思いますけど。

山本:前期の一番大きなイベントはやっぱりセンターの拡張だったんですね。センター拡張を成功裏に終わらせて、定常のオペレーションをよどみなく継続し続けるっていうことを思ってたんですけど、それはもう完全に実現できているという感じですね。

吉田:中長期的にはまた別のFFCも必要になってくるとは思いますが、ここからしばらくは、今稼働している新FFCを使っていくと言う感じなんですね。

山本:おっしゃる通りですね。今まででいうと大体3年程度のスパンで新たな拠点を拡張するっていうのはやってきてるんですよね。前期に建てた3ヶ年計画でいうと、今のセンターでやり切れるっていう状態になってます。

サカナバッカについて

吉田:次に、BtoC事業のsakana baccaについても少しお伺いしたいと思うんですけど、これは大きく駅ナカと、ロードサイドの2パターンが存在しているという感じですよね。置いてる商品も、店舗によって違うっていう感じですよね。出店が難しそうですよね。魚屋さんって、あんまりテナントを貸してくれなさそうなイメージがあったりするんですけど。

山本:初めそんな感じでしたね。いい場所で出店しようとしたら、カフェと競合して確実に負けますね。街中に出ていくのは一つのモデルとしてはあるんですよ。ただ、どちらかというと、駅ナカで出店依頼をいただくことがすごく増えていて、そちらの方がコスト的にも出店しやすいですし、オペレーションもやや簡易になっていて、モデルとしては完成度が高く成立しています。だから、そちら側で出していこうと思ってます。

吉田:なるほど。今の注力出店エリアというのは、駅ナカの方が中心なんですね。

山本:駅ナカですね。

吉田:認知度もそっちの方が上がるっていうのはそうですよね。

山本:お店の作り方としては、丸魚から惣菜までのフルラインナップである街中のお店は、エンターテイメント性でいうと、そちらの方がやりたいことを体現してるとは思うんです。そこはやりつつ、クイックに使いやすい場所で使っていただける接点を作ると言う観点で言うと、駅ナカはかなり優位ですよね。

サカナバッカが生み出すシナジー

吉田:今、sakana baccaをやってるからこそ、例えば魚ポチでこういったところで有利な点ができてるみたいなことって何かありますか? サービス間のシナジー的なことですね。

山本:サービス間のシナジーでいうと、sakana baccaで魚を仕入れるときには基本的には魚ポチを使ってるんですよ。社内のシステムとして使ってるっていうのがあって。なので、お店でいろんな面白いものを並べていくとか、魚系のお惣菜とかを準備するっていうのをやるときも、魚ポチがあるから仕入れ側での強みを活用できてるっていうのは明らかにあるかなと思いますね。そこが一番ベースのオペレーションで強いところかなと思いますね。

吉田:自分たち自身で使ってるからこそできるアドバイスがいろいろありますよね。

山本:sakana baccaで実現したいことは、魚に付加価値をつけて売っていくっていうことなんですよ。今までは、以前ほど魚が大量に獲れてないのに、特売で売っていくっていう出口が未だに支配的であるのは、そもそもそんなミスマッチはないよねっていう感覚がありまして。なので、いいものに価格を転嫁して売っていく、そのための魚のマーケティングってのはどういうものなのかっていうのを体現していこうということをやってたりするんです。
そのために、今持っている8店舗で何ができるかっていうと、各自治体さんから結構依頼をいただくことが多くなってきていて。地元にある資源は魚なんだけど、まとまった量がないからスーパーに出荷するほどじゃない。市場に行っても大して値もつかない。もっと認知度を上げないと価格も上がらないから、sakana baccaでプロモーションやってほしいっていう依頼をいただくんです。
それは結構お客様層とニーズが合っていて、魚に興味があり日々の変化を求めてるお客様に、この産地のプロモーションですっていう形でお店を綺麗に作り込んでいくと、それを使っていただけるようになってくるっていうのが入口としてあって。それは自治体さんからのソリューションとして依頼いただくということなんですけど、次に起こるのがスポットで売るだけじゃなくてもっとボリュームも含めてBtoBにも売っていきたいってなって。自治体さんから依頼を受けた魚をsakana baccaでも売るし、魚ポチのBtoB側で飲食店さんと連携をして、その産地に興味ある飲食店さんにご登録をいただき、独特のレシピを作り、一緒にお店で売っていきましょうっていうことをやっていくっていうのは、sakana baccaがあって始まってるビジネスで、魚ポチでも展開できてるっていうことなんですよね。

魚に価値をつけて流通させていこうと。それをスポットでお祭りみたいに一発で終わらせるんじゃなくて、プロモーションし、継続的に流通する仕組みを作っていこうっていうと、sakana baccaから入り、魚ポチにずっと流れていくっていう仕組みになっていって、結果的にsakana baccaはそこから買うっていうことになるんですね。それが産地側から一番喜ばれていますね。今までは、お金をかけて、何かプロモーションして一発で終わるようなことが多かったと聞くんですが、産地側はずっと魚を売り続ける仕組みが欲しいということですし、我々もそれを求めているんですよ。お祭りをやってもしょうがないじゃないですか。本当に魚が流通して価値になることに対してでいうと、我々のインフラに乗ってくださいっていうのが一番良くて。そのためにはまず、エンドユーザーの方に認知してもらう必要があるので、sakana baccaで伝えていくことには意味があって。それプラスBtoBでやっていくと、ボリュームも出るし、日常使いの中で落としやすくなるという感じなんですね。なのでかなり実は繋がってますね。

大手スーパーと組めている背景

吉田:なるほどですね。その一環で去年もスーパーのベイシアさんと一緒にコラボをしていたんですよね。

山本:ベイシアさんの100店舗以上のお店でホタテを扱っていただくっていうのが、これがさらに派生系なんですよね。sakana baccaでやる、BtoBでやる、我々以外でのネットワークの中でもやっていくっていうのが今広がりを見せていて。なぜベイシアさんとやり取りできたかっていうと、フード人材バンクで元々お取引先であって、スーパーさんのネットワークは実は社内ですでに強固なネットワークがあるんですよ。なので、今一つの成功事例としてはベイシアさんなんですけど、sakana bacca、魚ポチ、フード人材バンクが連携した一つの結実した形ですよね。それを他のスーパーマーケットさんとも一緒にやれないか、広げられる余地があるんじゃないかなというのが今動いてるところです。

吉田:それって最初から狙ってやってたんですか?フード人材バンクを通じてそういう大手の事業者さんともネットワークを作ってみたいなことを。

山本:それはやる明確な理由にはなってますね。我々もドメインを水産・生鮮の食の中でやるということを決めてるわけじゃないですか。なので、この中にいる主要なプレーヤーとはなにかしらで繋がっておけば、横でずっと繋ぎ続けられるだろうって思ったんですね。

これは割と前職のエス・エム・エスのときに介護・医療の領域の中で、根を張りそれぞれのサービスごとにシナジーを効かせていくっていうアプローチにすごく似てると思うんですね。スーパーマーケット向けの人材紹介のフード人材バンクだけを会社としてやり、成長していきますというのは、結構きついと思うんですよね。マーケットのサイズはそこまで大きくないわけなんですね。なんですが、水産の流通の中で主要なプレーヤーであるスーパーマーケットさんのアカウントを、現在全国でおおよそ50%ぐらいは獲得ができてる状態になっていて、かつそれで十分マネタイズができてる状態になっているっていうことであれば、この領域でドメインを張ってる我々からすると、十分重要な駒になっているという状態なんですよね。それが繋がってきたのが、ようやく一事例できたということですね。

吉田:ある種、魚ポチというサービスが、大手スーパーが入って、流通構造が変わったことに対するアンチテーゼ的な部分があったけど、そこを敵対視するんじゃなくて、むしろ一緒にやっていきましょうみたいな感じでやられてるんですね。

山本:そうですね。役割分担をもう1回し直したら、それぞれ必要なものは絶対持ってるはずだと思うんですよ。大量に売る力を持ってるってことはとっても重要ですし、だからこそたくさん取ってるその漁業者が成り立つ部分もあるので。だとすると、そこはしっかり任せて、我々はやるべきところをやるのかなっていう、そういう考え方ですね。

吉田:めちゃくちゃ面白いですね、ありがとうございます。

フード人材バンクについて

フード人材バンクの話がさっきちらっと出たと思います。その際マーケットがそんなに大きくないっておっしゃっていただいたと思うんですが、そもそも生鮮食品領域って人材紹介っていうモデルってあんまりないんですか。

山本:元々はなかったんですよ。これは我々がsakana baccaを始めて、魚職人を採用しようとしたときに感じたリアルな悩みなんですけど。どこに求人を出していいかわからないんですよね。タウンワークなのか何なのか。ユーザー層が浮かんでこないじゃないですか、明らかに。だから今でもスーパーのレジコーナーに張り紙がありますよね。職人さん募集してますって。あれが何とかやろうとしてる打ち手だと思うんですけど。だから我々も採用を始めた時はすごく苦労していて。職人さんが確保できないっていうところは、振り返ってみるとスーパーさん皆さんが持ってた悩みだったっていうことなんですよね。そこに人材紹介もなく、おそらく総合系の人材紹介会社からすると、マーケットとしてはそこまで大きくないんで、やる理由がなかったってことですね。それを我々としては理由があったんで始めたっていうところですね。

吉田:結構そういった悩みを抱えられてるスーパーさんが多かったから、割と早いスピードで広がっていったみたいな感じなんですか?

山本:かなり早かったですね。コロナが始まる前までは成長がすごく早くて、コロナでちょっと踊り場に入って、もう1回成長しようとしてるところですね。

吉田:これって1人紹介するのに、この職種のこういう人を紹介したらいくらですよみたいな感じの決め方をしてるのか、想定年収の何%みたいな感じで決まってるのか、どんな感じでフィーが決まっているんですか。

山本:職種によって変わる部分がありますね。我々だとスーパー向けの人材紹介と、飲食向けの人材紹介というのがあります。元々は価格帯を分けてました。と言うのも、肉の人材紹介の対象の人材って魚以上に少ないんですよ。ボリュームが少なくて、それをマッチングさせるという工程に入るんであれば、その見合う価格設定にしなければならないっていうのもありました。だから職種ごとにその希少度合いとかで設定をしてましたね。

HRサービスの新責任者着任の影響

吉田:なるほどですね。今、HR強化していこうというところで、去年に事業責任者の方が代わられたっていうのがありましたよね。かなり組織全体として雰囲気も良くなってきてるというお話があったと思うんですが。

山本:そこはかなり組織的には変わったと思いますね。エンゲージメントサーベイを定期的に取ってるんですけど、スコアが圧倒的に改善してますし、採用もかなり順調に今なってますね。組織のベースが整って、ようやく成長のステージに行けるっていうのが今期になるかなと思うんですね。

吉田:HR事業の粗利率が高いから、そこが伸びていくと全社の粗利率もちょっと上がっていきますよね。

山本:そうですね。大きな影響があると思いますね。

商品基盤の拡充の戦略について

吉田:ここから最後に、今立てられている戦略について少しお伺いしていきたいなと思ってるんですけれども、大きくコアグロース戦略とプラットフォーム戦略っていうのがあるということですよね。このグロース戦略の中で、BtoBコマースのコアグロース戦略で、商品基盤の拡充っていうのがまずあると思うんですけど、これはSKUを増やしていくっていうところですよね。今、魚中心になっているのを、肉とか野菜も増やしていくということですよね。実際魚ポチのサイト見てると、肉・魚に加えて、資材もあるんですよね。ここの拡充って結構大変なのかなって思いまして。そもそも肉とか野菜とかって、どうやって仕入れルートを獲得されてるのかとか、その辺って今どんな感じなんでしょうか。

山本:そうですね。SKUを単純に増やすだけだったら、実はそんなに難しくないと思いますね。ただ、ここでしか買えないという、希少性、専門性ですね。それがすごく重要で、専門性高い商品買えるから、その領域のコモディティも一緒に買おうっていうのが結構起こる行動だと思うんです。専門性高いマグロがあるから、珍味も買っとこうかみたいな話があると思います。どこでも買える珍味しかないサイトだったら別にここに来なくていいじゃないですか。一番仕入れが困ってしまうことを解決してくれるところで、それ以外のコモディティを買えばいいってことが起こるはずなんで、とにかく重要なのがその領域に対する専門性だと思うんですね。

水産で言うと、そこの専門性は維持しながら広げていくフェーズなんで、お客様のニーズとの兼ね合いで売れるもの売れないものっていうのを改廃しながら、いいものを入れ替えていくっていうことなのかなと思いますね。肉に関しては専門性が極めて重要なんで、専門性の高いものが取れれば、やはり同じ考え方でコモディティが取れるというふうに考えています。そのためにアドバイザーであったり、外部からある程度コメントをもらえるような方にも関わってもらいながら、少しずつ進めていって、広げ始めてるところですね。なので専門的な知識を獲得する必要があり、社員なのか外部委託なのかっていう形になるかなと思いますね。

野菜はですね、我々の拠点が大田市場にあるじゃないですか。なので、すぐそこに東洋一の野菜の市場があるわけですよ。もう100メーターぐらいのところにあるわけですよね。なのでそこは考え方次第なんですけど、野菜は結構慎重にやっていますね。コモディティを扱うときの体積当たりの粗利が極めて効率が悪くなってしまうんです。例えば白菜を買います。魚と体積比で考えたときの粗利がとっても効率が悪かったりするんですよ。ニーズもすごくわかるし、それをやったらおそらく毎日注文していただける理由にもなると思うんですけど、配送効率がとっても下がってしまって、収益性がかなりコントロールしにくくなりそうだなということがありまして。一応目線として見ているのは、配送するときのその体積当たりの粗利の影響っていうのを見ていて。なので、ニッチな野菜とかは扱ったりしてるんですね。だから希少性の高い野菜とかを扱ってたりはするんですけど、コモディティでよく流通してる野菜については、ちょっと判断が必要かなと思って、そこは買えるんですけど、扱うかどうかっていう感じですね。

吉田:そうですよね。確かに箱を詰める量も限られてるので、野菜だと1個当たりの粗利がめちゃくちゃ安いけど箱はでかいみたいな感じになるからってことですよね。商品の拡充については、最初は多分飲食店さんも、サービス名も魚ポチですし、そこから肉を仕入れるのって多分正直疑心暗鬼なところってありますよね。

山本:おそらくそこは乗り越えられると思いますね。結局一番初めも、「ECって本当に大丈夫なの?」というから始まって、体験がよければ継続していただいて、どんどん使っていただくってことが起きてて、魚ポチだから魚の専門性があるんですっていうのが繋がっていて使っていただけるじゃないですか。だから魚ポチなんで肉の専門性ありませんだったら、肉を使う理由にならないと思うんですけど、魚ポチに肉の専門性すごくありますだったら十分使う理由になると思うんです。なので、名前がわかりにくいというのはよろしくないのかもしれないんですけども、そこがネックになって進まないってことではないと思うんですね。我々がどの程度仕入れにコミットするかっていうことで変わってくるところだと思います。

魚ポチの大手企業向けの展開について

吉田:将来的にはやっぱりあらゆる飲食店さんが、かなりの割合を魚ポチを使って仕入れているみたいな世界観を実現していきたいと言うことですよね。
プラットフォーム戦略のスライドを見ていると、今は中小の飲食店さんがメインだと思われるBtoBコマースを、大企業・大手向けにも拡大していくみたいなスライドがありますよね。ここってどういった飲食店さんを想定されてるのかや、拡大していこうとなっている背景をお伺いしてもよろしいでしょうか。

山本:そうですね。元々の前提は魚ポチを使うのは専属のバイヤーがいなくて、個人で日々あれこれ仕入れなければならない飲食店の方々。逆に大手の方に関しては相対と交渉して、欲しいものはまとまったロットで買い付けていくんだろうから、ECは必要ないんじゃないかという仮説があったんです。ただ、お客様の中には多店舗展開しつつも、お店ごとに発注権限を渡してる店も出てきてるんですよね。これはおそらく消費者に飽きられているとか、変化を全体管理で言うとつけにくいとか、地域ごとにニーズが異なるんじゃないかとかっていうのを拾いに行かれてるんだと思います。

オペレーションでいうとすごくチャレンジングだなと思うんですけど、そういうお店さんが以前よりも出てきてるっていう状況ですね。そういった中で、実は魚ポチを使ってくださっている大手の会社も出てきてるっていう中で、そこは一つの社会変化なんだろうなって思ってるんですね。全店で100箱分の魚を買ったんで振り分けますというやり方から、それだとうちにはハマらないんですよっていうニーズがあるのかなっていうのが一つ仮説としてあって。そうなってくると、もう少し大手のお客様にとっても使いやすいような、UI/UXを変えていく側面っていうのはあるのかなというふうに思ってまして。お客様のある程度具体的な需要の中で、そういう兆しがあるのかもしれないっていうのは思ってますね。

今までは割とそこには需要も聞きにいかないっていう状態で、お客様としての定義から外してしまってたんですけど、変化の中でいうと実は小口で注文していきたいっていうニーズを取り始めたら、少しずつサイズを上げていける、アップを上げていける可能性があるんじゃないかと。お店ごとなんで全体で言うとすごく大きくなる可能性があるっていうふうに思っています。

吉田:結構、消費者側の変化みたいなものが影響してたりするんですか?

山本:あると思いますね。そこは背景には確実にあって、そこにキャッチアップしにいかれてるはずなんだと思います。BtoBの大企業向けのサービスは、先ほど少しお話出てたんですけど、フード人材バンクでは、すごくアカウントの繋がりが強いんですよね。飲食店、スーパーマーケットともに大手にすごくサービスが入ってる状態なので、そこは流通側での大手向けのサービスができてくると、拡大が早いと思いますね。もう日々やり取りをしてるわけですから。なのでそこは使わない手はないといいますか、シナジーの効かせどころだと思います。この領域の中で深めていく、我々の収益性を上げていく方法の一つのセオリーだと思うんですよね。そこでニーズにしっかり当たるようなものができると、マーケット自体も大きいと思いますし、そこに入り込んでいくスピードもかなり早く上げられるんじゃないかっていうのもあって、その一つの大きなテーマとして挙げているところですね。

吉田:全国のターゲットとしてる飲食店さんで、注力エリアで今12万店って書いていただいてると思うんですけど、それが実はもっと広くなっている可能性があるっていう感じですかね。

山本:そうですね。あの数値は中小飲食店に絞られて限定してるんですよね。そこが広がってくると、またBtoBのサービスの広がりも違いますし。

環境領域での新規事業について

吉田:最後に、このプラットフォーム成長というところで、新たな支援領域として環境領域のところに入っていかれるんですよね。具体的には、AMAホールディングスさんと、島根県海士町藻場開発プロジェクトを一緒にやっていくというのを発表されてると思うんですけど、この藻場再生開発というのがそもそも何なのかみたいなところを、ちょっとあまり馴染みがないかなと思うので、お伺いしたいんですけれども。

山本:そうですね。藻場っていうのは海の中の海藻類を指してるんですけど、元々はフーディソンとしてはちょっと扱いにくいテーマだとは思ってたんですよ。その藻場を作って、それが経済的リターンで何があるのかというところに答えがなかったので。創業してから、産地に行く中で今までずっと感じてたこととして、産地に行ったときに「もう沿岸部で魚が取れなくてね、海藻もなくなっちゃって、これ海の魚のベッドみたいなものなんで、それがないことで動物性プランクトンがいつかなくて、魚もいなくなってしょうがない。」みたいな話があって、沿岸部で魚が獲れない一因にどうやら関係してそうだと。理由は様々で、魚が藻を食べちゃうからそもそもなくなっちゃってるっていうのもあれば、南側から魚が上がってきて今までいなかった魚が食べてるところもあれば、いろんな理由があるんですけど。

僕らが魚の流通で継続的に事業をやっていくっていうと、魚が獲れる環境があることは必要だという課題認識はありつつも、そこでのリターンがすごく不確実で、魚の水揚げの持続性には資するものの、説明しにくいじゃないですか。だから、課題感はありながらもずっとやってなかったテーマなんですね。

ただ、昨今の2050年に向けてのカーボンニュートラルを目指していきますというのは、世界的にあって、日本もコミットしてるテーマじゃないですか。その中で森林系の二酸化炭素削減という効果だけでは、おそらく二酸化炭素のカーボンクレジット取引するマーケットにおいても、供給側が足りてないという状況になっていて。カーボンニュートラルに向けては、そういう打ち手もあって実現されていくだろうというふうに言われてるんですけど、二酸化炭素を減らす方法っていうのが、圧倒的に打ち手としてないっていう状況の中で、実は海藻類が海の中で二酸化炭素を吸着して止めておくっていう効果があるということが認識され始めていて。確か4月の国連に対する日本のカーボン貯留データの中にも、海藻で吸着してるっていうデータも出して受理されてるんですよね。それは世界的にも海藻類の吸着は認識されたってことを意味するらしいんですね。

つまりその藻場がちゃんと育ってくると、海の中の環境として健全になり、カーボンクレジットとして経済性も帯びてくるっていう、今すごいアーリーなフェーズなんですよね。これから広がっていくんじゃないかっていうフェーズだというふうに認識していて。だからどの程度ビジネス性があり規模拡張が可能なのかっていうのは、中に入り込みながら、そこまで大きくコストをかけずに事例を作りノウハウを手に持っておくということを実現させようとしているっていうのがまず一つのことで、その考え方に関してAMAホールディングスさんが一緒にやっていきましょうって話になり、そのプロジェクトが進むようになったっていう背景なんですね。

吉田:なるほど。カーボンニュートラル達成への貢献にもなるし、そういう海の生態系というか、ちゃんと魚が獲れる状態にして、そこで地域の漁師さんとかもしっかり食べていけるような状態にするっていう目的もあるんですね。

山本:それがすごく重要で、我々のビジョンって生鮮流通に新しい循環を作り出す、そのためのプラットフォームを作ろうって言ってるわけなんですよね。だけどそれは海の中の問題を一旦置いといて、海から魚が出てくるよねっていう前提をおいて今までやってる範囲なんですけど。そこって本当に出てくるのかという、海の中はどうなっちゃうのかっていうことに対しては、今語ってる循環の中に入っていなくて。我々がサービスとして作り出す循環の中に、本来はその海の中の環境も含めて循環するような考えを持ってやらねば、本当に海から魚が出てこなくなったら、あなたたちの循環どうなっちゃうのかということを考えなきゃいけないっていうふうに思ったわけですね。

目指すべき循環って、海の中も含めてできたとすると、すごく意味があるプラットフォームになるんじゃないかなって思ってます。加えて、実体験としてもこの夏の暑すぎる状態って、ここ数年も感じてるじゃないですか。これを緩和させていく、もしくはこれ以上暑くならないで過ごせるようにしていくっていうのは、肌身で感じるレベルだと思うんですね。
我々ができる手段って何だろうって言ったら、日々産地に行くとか漁師さんとコミュニケーションしているネットワークの中で、実は価値があるけど眠っている場所があったら、そこでも藻場を作り出していき、その中で産地にも追加の収入があったりとか、カーボンクレジットになっていたりと、海が良くなっていくっていうことに繋がっていくことに、重要なピースになり得るんじゃないかなと思ってるんです。これから調査して、ビジネス性としては検討していく段階なんで、まずは投資としては少額で関わりながら事例として見ていくっていうのが、ビジネスとしての考え方だと思うんですけど。まずはそこから発展させていけるかどうかを判断していくっていう感じですね。

吉田:なるほどですね。カーボンクレジットのところでしっかり収益性も確保できるってなったら、サステナブルにこういう取り組みを別の地域とかでもやっていけますもんね。

山本:おっしゃる通りですね。

吉田:ありがとうございます。ということで今日はかなりフーディソンさんのことについてお伺いすることができました。山本さん、ありがとうございました。

山本社長からのメッセージ

では最後に、投資家の皆様に山本さんの方から一言、メッセージをお願いできればと思います。

山本:今日は皆様長い時間お話を聞いてくださって、ありがとうございました。我々が扱っているテーマは、「魚の流通」がメインになりますので、皆様にとっては身近でありながらも、イメージがしにくいところがあって、想像しにくいところがあると思いますけれども、今後もこの領域で世の中に必要とされるプラットフォームを作り続けて、唯一無二の存在になれるように経営し続けていきたいと思っておりますので、今後ともどうぞご支援よろしくお願いいたします。ありがとうございました。