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行列計算を使わない線形代数 #10 〜 線形写像(その3) 固有値・固有空間・最小多項式

今回は、固有値・固有空間そして対角化を紹介します。ただし、行列式を定義していないので、固有値の計算方法(=固有方程式)はここでは出てきません。その代わりに、不変部分空間や最小多項式について紹介します。最小多項式の話まで入ると少し長くなるので、対角化可能な条件を最小多項式の条件として紹介するところまでにして、証明は次回に持ち越すことにします。

■定義10.1

ベクトル空間$${V}$$上の線形写像$${A:V\to V}$$に対して、部分空間$${W}$$が$${A(W)\subset W}$$を満たすとき、$${W}$$を$${A}$$の不変部分空間であるという。

■命題10.2

$${A:V\to V}$$を$${n}$$次元ベクトル空間$${V}$$上の線形写像とし、$${W}$$を$${A}$$の$${r}$$次元の不変部分空間であるとする。このとき、$${V}$$の基底$${\{e_1,\cdots, e_n\}}$$で、$${A}$$の表現行列が以下となるものが存在する:

$$
(A(e_1), \cdots, A(e_n) ) = (e_1,\cdots,e_n) \begin{pmatrix*}A_{11} & A_{12} \\ O & A_{22} \end{pmatrix*}. 
$$

ここで、$${A_{11}, A_{12}, A_{22}}$$はそれぞれ$${r\times r, r\times (n-r), (n-r)\times (n-r)}$$行列である。

とくに、$${A}$$の不変部分空間$${W_1, W_2}$$で$${V}$$が直和分解されるとき、すなわち$${V=W_1 \oplus W_2}$$のとき、

$$
(A(e_1), \cdots, A(e_n) ) = (e_1,\cdots,e_n) \begin{pmatrix*}A_{11} & O \\ O & A_{22} \end{pmatrix*}.
$$

となる基底$${\{e_1,\cdots, e_n\}}$$が存在する。ここで、$${A_{kk}}$$は$${r_k\times r_k}$$行列($${r_k=\mathrm{dim} W_k , k=1,2,}$$)である。

■定義10.3

$${K}$$-ベクトル空間$${V}$$上の線形写像$${A:V\to V}$$に対して、$${ A(v) = \lambda v}$$を満たす、$${v\in V}$$を$${A}$$の固有ベクトル、$${\lambda\in K}$$を$${A}$$の固有値という。ただし、$${v\ne 0_V}$$であるとする。

線形写像$${A}$$の固有値のなす集合を$${\sigma(A)}$$と書く。また、$${\lambda \in \sigma(A)}$$の固有ベクトルのなす集合(に$${0_V}$$を追加したもの)を$${\lambda}$$の固有空間と呼び、$${E_\lambda}$$と書く。$${\mathrm{dim} E_\lambda }$$を固有値$${\lambda}$$の自由度という。

■命題10.4

$${A:V\to V}$$をベクトル空間$${V}$$上の線形写像とし、$${\lambda, \mu \in \sigma(A)}$$とする。
(1) $${E_\lambda = \mathrm{Ker}(A-\lambda I)}$$. ここで、$${I: V \to V ; v\mapsto v}$$は恒等写像である。
(2) 固有空間$${E_\lambda}$$は$${A}$$の不変部分空間である。
(3) $${\lambda\ne\mu}$$ならば、$${E_\lambda\cap E_\mu= \{0_V\}}$$. 

■命題10.5

有限次元ベクトル空間$${V}$$は線形写像$${A:V\to V}$$の固有空間で直和分解される、つまり$${\displaystyle V = \bigoplus_{\lambda\in\sigma(A)} E_\lambda}$$であるとする。いま、$${\sigma(A)=\{\lambda_1, \cdots, \lambda_r\}}$$とし、$${E_{\lambda_{k}}\,  (k=1,\cdots,r )}$$の基底$${\{e_1^{(k)}, \cdots, e_{\ell_k}^{(k)}\}, \ell_k = \mathrm{dim}E_{\lambda_k}, }$$を選ぶ。

このとき、$${\{e_1^{(1)}, \cdots ,e_{\ell_1}^{(1)}, e_{1}^{(2)}, \cdots, e_{\ell_r}^{(r)} \}}$$は$${V}$$の基底になり、$${A}$$の表現行列は対角行列

$$
\begin{pmatrix*} \lambda_1  & & & & & \\  & \ddots & & & & \\  & & \lambda_1& & & \\  & & &\lambda_2 & & \\  & & & & \ddots& \\  & & & & & \lambda_r \\\end{pmatrix*}
$$

になる。

■定義10.6

線形写像$${A:V\to V}$$の固有空間が有限次元ベクトル空間$${V}$$を直和分解するとき、$${A}$$は対角化可能であるという。

■定理10.7

有限次元ベクトル空間上の線形写像$${A}$$が対角化可能であるための必要十分条件は、

$$
\displaystyle 
\prod_{\lambda\in\sigma(A)} (A-\lambda I ) = 0
$$

が成り立つことである。

■注意10.8

$${A}$$と$${I}$$は交換可能なので、定理10.7の左辺を$${A}$$の多項式として展開することができる。このとき、多項式の係数は$${K}$$である。

$${x}$$を変数とし、$${K}$$を係数とする多項式全体の集合を$${K[x]}$$と書く。いま$${\Phi(x)\in K[x]}$$に対して、$${x}$$を$${A}$$に、定数$${1}$$を恒等写像$${I}$$に置き換えた線形写像を$${\Phi(A)}$$と書く。すなわち、$${\Phi(x) = a_n x^n + a_{n-1}x^{n-1}+\cdots a_1 x + a_0}$$のとき、

$$
\Phi(A) = a_n A^n +  a_{n-1}A^{n-1} + \cdots + a_1 A + a_0 I. 
$$

■定義10.9(線形写像の最小多項式)

$${\Phi(x) \in K[x]}$$であるとする。有限次元ベクトル空間上の線形写像$${A:V\to V}$$に対して、$${\Phi(A)}$$が$${A}$$の最小多項式であるとは、以下の(1)および(2)を満たす多項式の中で次数が最小のものをいう:
(1) $${\Phi(x)}$$の最高次数の係数は$${1}$$, 
(2) $${V}$$上の線形写像として、$${\Phi(A)=0}$$. 

定理10.7の証明については次回に回します。また、定理10.7の一般化も次回に紹介します(証明を書くかどうかは未定です….)。

■演習問題

【1】命題10.2, 10.4, 10.5を証明せよ。

【2】$${n}$$次元ベクトル空間上の線形写像の相異なる固有値が$${n}$$個であるとき、その線形写像は対角化可能であることを示せ。

【3】$${2\times 2}$$行列$${J}$$を$${J=\begin{pmatrix*}0 & -1 \\ 1 & 0\end{pmatrix*}}$$とする。このとき以下の問いに答えよ。
(1) $${\mathbb{R}}$$-ベクトル空間$${\mathbb{R}^2}$$上の線形写像

$$
\begin{pmatrix*} x_1 \\ x_2 \end{pmatrix*} \mapsto J \begin{pmatrix*} x_1 \\ x_2 \end{pmatrix*}
$$

は対角化可能か?
(2) (1) の線形写像を$${\mathbb{C}}$$-ベクトル空間$${\mathbb{C}^2}$$上で考えたとき、対角化可能か?

<目次>
#0 連載の目的
#1 ベクトル空間とは
#2 ベクトルの一次独立・基底・次元
#3 ベクトル空間の基底とその変換
#4 線形写像(その1)〜定義と次元定理
#5 線形写像(その2)〜双対空間
#6 おまけ〜ベクトル空間の引き算としてのK群入門
#7 おまけ〜ベクトル空間の具体例:線形常微分方程式の解空間
#8 線形写像(その3)〜線形写像の共役
#9 おまけ:質点系の数理
#10 線形写像(その4)〜固有値・固有値・最小多項式
#11 おまけ:線形常微分方程式の解(行列の指数関数とLie群の視点から)
#12 線形写像(その5)〜対角化・最小多項式・一般化固有空間

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