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なぜSVBは破綻したのか?

先週末なにやら不穏なニュースが飛び込んできた。
アメリカの中堅銀行であるSVB(シリコンバレー銀行)が破綻したのだ。
その理由やいきさつについて調べたことをまとめた。

1、預金者はテック企業が多かった

この銀行の預金者はテック企業が多く、預金額の約51%を占める。
テック企業とはITなどのテクノロジーを駆使した企業のことだ。
また、その約51%の内訳は、創業初期のテック企業が約30%で、それ以外のテック企業が約20%である。
その他は、創業初期のヘルスケアが約9%、ヘルスケア・医薬が約3%など。

ここで、一つキーワードになるのが、預金保険だ。
預金保険とは銀行がつぶれても、預けているお金が返ってくる制度のことだ。
しかし、金額に上限がある。FDIC(連邦預金保険公社)は、基本的には1口座25万ドルまでしか保護しないのだ。

先ほど述べた預金者の特徴のため大口預金が多く、預金総額のうち約86%が預金保護の対象外であった。
この観点でいうと、小口の個人預金が中心の銀行と比べて、取り付け騒ぎになるリスクが高いといえる。

また、偏った預金者の構成から、テック業界が好調のときはその恩恵を強く受けられるが、不調になるとこれまたその影響をもろに受ける体質だったことも見逃せない。

2、長期国債や住宅ローン担保証券で儲けを出すモデルにした

銀行というのは、預けてもらったお金を企業などに貸して利子を取ったり、どこかに投資したりして儲けを出している。
テック企業は株で多くの資金を調達していたので、SVBからはあまりお金を借りてくれなかった。

だからSVBは、利益の多くを長期国債や住宅ローン担保証券(MBS)でゲットすることにした。
ガンガン債券を買って総資産のうち約57%が債券となった。
アメリカの商業銀行全体の総資産のうち債券が占めるパーセンテージは約24%である。
比較すると、約57%というのはかなり大きなウェイトを占めていることが分かる。

3、預金者が想定以上に預金を引き出す事態に

2022年度のGAFAMの決算が良くなかったことからも分かるように、テクノロジー産業は昨年不振だった。
アメリカのテック大手企業が大量解雇するニュースも象徴的だ。
例えば、アマゾンは1万8000人を解雇することを発表した。これは創業以来最大の規模である。
コロナ禍の特需で雇用を増やしすぎたことも背景にあるが、業績不振が寄与していることは否めない。

ちなみに、アメリカ全体では失業率が低い。2月に発表された1月の米雇用統計によると失業率は53年ぶりの低水準だった。
これを鑑みると、テック業界の状況が尚更際立つ。

しかも、金利上昇により、借金の利息も上がった。
さきほど、テック企業は株で多くの資金を集めていたからあまりお金を借りなかったと述べたが、それでも0ではなく、この状況下にあっては負担となるだろう。

そんなこんなで、資金繰りに困った預金者によって引き出される額が大きくなった。

4、SVBも資金繰りに困る

さあ、SVBも困った。
それに対応できる現金を用意しないといけない。

長期国債などを売って換金しようと思っても、買ったときの値段より低い価格でないと売れない状況になっていたのだ。

利回りが低いときに買った国債は、利回りが高いときに売ると損失が出るのだ。
なぜか?
それは金利が違う国債を比べてみると分かる。

もし、金利が1%のときに固定金利で10年国債を100万ドル分買ったとしよう。すると、毎年1%の1万ドルの利子収入をゲットし、10年持ち続けたときに100万ドルを返してもらうことになる。
それに比べて、金利が4%のときに100万ドル分買えば、毎年4万ドルをゲットできて、満期まで持てば100万ドル返ってくることになる。

ここで重要なのは、固定金利で買った場合、その間新たに発行される国債の金利が上がろうが下がろうが、買ったときの利回りで利息を得ることである。
だから、金利が1%のときに固定金利で買った国債は、金利が4%のときには価値が低くなるのだ。
毎年4万ドルゲットできる国債と毎年1万ドルゲットできる国債が同じ価格で売られていたら、当然みんな前者を買うだろう。

というわけで、毎年1万ドルゲットできる国債を、金利が4%のときに売ろうと思ったら、安くしないと売れないので価格が下がる。

アメリカの10国債は2020年は利回りが1%未満だったのに、2022年には一時4%を超えるほど上がってしまったのだ。
そして、丁度この期間にSVBは債券投資をガンガンやって、2020~2022年の間に債券残高が約4倍になるほど買っていた。

こうして持っている債券の価値が下がり、売ると損失が出る状況になってしまった。

国債は元々は比較的安全な投資だといわれている。
満期まで持ちさえすれば、アメリカがぶっ潰れない限り、ちゃんとお金は返ってくるし、利子収入ももらえるので、利回りが低くても儲けは出るからだ。
でも、このように国債価格が下落して、満期まで持てない状況になると損失が出る。

そして、住宅ローン担保証券(MBS)も金利が上がると値下がりする性質を持っているので、こちらも損失が出た。

追い討ちをかけるように、格付けを行う会社がSVBを数段階下に格付けするつもりであることをSVBに伝えた。

預金者のためにお金を用意しなきゃいけないし、格下げされないように資金があるところを見せなきゃいけない。

3月8日、もうSVBは損失が出ようが何だろうが、持っている資産を売って換金するしかないので、MBSや米国債など有価証券を210億ドル(約2兆8000億円)で売却したと発表した。
そこで発表された損失は18億ドル。

それでもお金が足りないので、SVBは増資することを考えた。
株式の発行である。
22億5000万ドルの増資計画だった。

5、一気に不安が広まる

しかし、突然増資を発表したSVBを見て、逆に不信感を抱く人々が増えた。
「おいおい、増資ってお金足りてないのか? あそこやべえんじゃねえのか?」って感じだろう。
SNSであっという間に不安感が伝播した。
大口預金者が多かったので、預金保護の上限の関係でなおさら危機を感じる人が多かっただろう。

そうして3月9日には、預金全体の約24%である約420億ドルが引き出された。
取り付け騒ぎにより、約9億5800万ドルの現金不足が発生。

3月10日、例の格付け会社は13段階の格下げを発表した。
増資計画は当然頓挫。こんな状況で十分な投資家が集まるはずがない。
同日、経営破綻を発表。

経営破綻したあと、米財務省やFRBなどは政府の基金などを使って、預金を全額保護することを決定した。
先述したように、基本的には預金保護は1口座25万ドルまでという上限があるので、これは異例の処置である。

この素早い対応については、問題点を指摘する声もありながら、概ね評価されている。
しかし、当然他の銀行は大丈夫なのかといった不安の広まりが、それだけで完全に鎮静化するわけではない。
今後の動向に目が離せない。

ただでさえインフレだの何だので難しい局面なのに、より一層難しい舵取りが求められることになった。


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