グリムクラウン 第2話


セツナが目を覚ます。古めかしい小屋の中におり、手足には枷。

セツナ「……ここは」
ザガン「起きたか」

ベッドサイドで煙草をくゆらせるザガン。

ザガン「憑魔者として大暴れして、貧血でぶっ倒れたんだよ」
セツナ「ザガン……そうだ、トワ!」
ザガン「もう一人の憑魔者にはまんまと逃げられたよ」「双子の姉ちゃんなんだってな」
セツナ「追いかけないと!」

セツナは立ち上がって動こうとするが枷に阻まれて動けない。足枷は寝ていたベッドに繋がっている。

ザガン「まぁ落ち着けよ。今出てってもトワちゃんの居場所なんて分からな――」
セツナ「でも行かなきゃいけないんだ!」「トワを助けないと!」

ザガンに食って掛かるセツナだが、ザガンはセツナを叩き伏せ、懐から出したデザートイーグルを後頭部に押し付ける。

ザガン「人の話は最後まで聞けよ」「せっかく軍から匿ってるんだからさ」
セツナ「軍からって……ザガンは軍人だろ!?」
ザガン「おう。妖魔撃滅小隊の隊長だ」

ザガンは片手で煙草をふかしながらも銃の撃鉄をあげる。

ザガン「ボウズを裁判なしで殺す権利を持ってる」枠外:分かったら静かにしような?
ザガン「妖魔撃滅小隊は、王冠角(グリムクラウン)を持った”魔”の王を探しているんだ」
セツナ「グリム、クラウン……」

セツナの脳裏に、イヴリスが憑依した自分の姿と、エクスに憑依されたトワの姿が思い浮かぶ。

ザガン「俺達の最終目標はクェイトという”魔”だが、他の王冠角も標的だ」「当然、ボウズもトワちゃんも討伐対象だ」
セツナ「テメェ……!」
ザガン「まぁ落ち着け」

ザガンは銃の撃鉄をさげ、セツナの頭から離す。

ザガン「クェイトの討伐に力を貸すっていうなら多少の目こぼしはする」
ザガン「ボウズの姉ちゃんが現れたら情報を渡しても良い」
セツナ「……協力者になれってことか?」
ザガン「いいや」「ウチに入隊しろって言ってんのさ」


迷路のように入り組んだ洞窟の中、仏頂面で歩くセツナ。その手にはランタン型の封印器に入れられたイヴリスがいる。

(回想)
小屋の外。山にぽっかりと開いた洞窟の入口にザガンとセツナが立っている。

ザガン「とりあえずお前の”期待値”を示せ」
セツナ「はぁ?」
ザガン「俺が鍛えても良いと思える程度には強くないと、仲間にする意味がない」

ザガンはイヴリス入りのランタンを渡す。

ザガン「ボウズは憑魔者だが、正気を保ってるし操られてもいない」
ザガン「うまく”魔”の力を引き出して倒してみろ」「入隊試験に推薦してやるよ」
セツナ「倒すって、誰をだ?」
ザガン「憑魔者。二本角の雑魚だよ」枠外:研究用に捕らえたのがいる
ザガン「元は野盗たちが使っていたアジトだったらしい。入り組んでるが、出入口は俺だけだ」
(回想終わり)

セツナ「突然憑魔者を倒せとかマジかよ……」
イヴリス「ケッ」「ザマァみろ」
イヴリス「お前が死んだら晴れて自由だ」「もっと強欲で!自分勝手で!ネガティブな感情バリバリな奴を探すぜ」
セツナ「……」
イヴリス「何見てんだよ」
セツナ「ランタンに小便ためるぞ」
イヴリス「て、テメェ! 俺様を誰だと思ってやがる!」
セツナ「知らねぇよ。火の玉だろ」
イヴリス「全ての”魔”を統べる王、イヴリス様だ!」

イキるイヴリスだがセツナは何とも言えない表情をしている。

セツナ「ザガンはクェイト……? ってのが王って言ってたけど」
イヴリス「あんなクソが王な訳ないだろうがっ!」
セツナ「知り合いかよ……」
イヴリス「角ってのは”魔”の強さの象徴なんだ」「有象無象はともかく、10本レベルになると数えるほどしかいねぇんだよ!」
セツナ「トワにくっついてた奴も知り合いか?」
イヴリス「あいつは——……」「ケッ! 何でテメェなんぞに話さなきゃいけねぇんだよ」

そっぽを向くイヴリス。カナタは唇を尖らせてランタンを振る。

イヴリス「ぬあぁぁぁぁぁ!?」「何しやがる!?」
セツナ「正直トワにくっついてんのが何だろうと関係ねぇ」「協力だけしてくれ」
イヴリス「ものを頼む態度じゃねぇだろうがっ!」
セツナ「良いじゃん。ほら、俺に憑りついてるんだろ?」
イヴリス「嫌なこった」「助けるだの守るだのゴミみたいな感情じゃお前の身体を奪えねぇし、本来の力だって発揮できねぇ」
イヴリス「さっさと死んじまえ」

セツナはむっとした表情でランタンをシェイク。イヴリスの悲鳴が響き渡る。
こつん、と物音が響く。セツナが視線を向けると、そこには二本角の憑魔者がいた。

憑魔者「肉……若いガキの……肉」
イヴリス「うほっ! こりゃまたイイ欲望の匂いだ!」

だらだらと涎を垂らした憑魔者がセツナに飛び掛かる。ギリギリのところで転がって避ける。

イヴリス「クソ、惜しい!」「何やってんだ、ちゃんと狙え!」
セツナ「どっちの味方してやがんだテメェェェ!」
イヴリス「はぁー? お前の味方する要素あると思うか? 脳みそついてっか?」

セツナは走って逃げながらもイヴリス入りのランタンを振る。四足獣のような走り方で背後に迫る二本角。その背中がぼごぼごと盛り上がり、三本目の腕が生まれる。

セツナ「いぃっ!?」
イヴリス「おおっ! もうそこまで侵蝕してんのか!」「くぅぅぅ! うらやましいぜ」

三本目の腕が伸びてセツナに迫る。前に跳び込んで逃げる。

イヴリス「良いのかァ~?」「逃げてるだけじゃどうにもならんぞ?」
セツナ「ぐぐっ……!」
イヴリス「ほら、立ち向かえよ!」枠外:そして喰われちまえ

セツナ(チクショウ……確かにこのままじゃ)
セツナ(さっさとトワも助けないとあんな風に)

逃げながら妄想。モザイク姿だが明らかに人間ではないシルエットのトワを思い描き首を振る。セツナは反転して拳を握りしめる。

セツナ「や、やってや——ヴぉっ!?」

殴りかかるが三本目の腕が伸びてきて、避けるためにバランスを崩す。憑魔者の腕がセツナを掠め、ランタンが落ちる。蓋が外れたのを良いことにイヴリスが外に出る。

イヴリス「へへっ、外に出れたぜ」「あとはガキが喰われれば晴れて自由だ」

イヴリスがニヤニヤするが、セツナに向かおうとしていた憑魔者が固まる。ぎぎぎ、と首だけが動き、イヴリスに視線を向ける。

憑魔者「いう”……り……?」
イヴリス「あぁ? 良いからさっさとそのガキを——」
憑魔者「いう”りすぅぅぅ!」
イヴリス「うぉっ!? こっち来んじゃねぇよ!」
憑魔者「あの時の恨みィィィ!」
イヴリス「だぁぁぁ何なんだよ!?」

逃げ回るイヴリスとそれを追いかける憑魔者。体勢を立て直したセツナがジト目になる。

セツナ「お前、どっかで恨みでも買ってんだろ」
イヴリス「心当たりが多すぎて逆に分からねぇ!」「”魔”は弱肉強食だからな!」

イヴリスの脳裏によぎる弱い者いじめのシルエット。

セツナ「さ、最低すぎる」

セツナがドン引きする。憑魔者の腕の側面からさらに腕が生えて鳥かごのようにイヴリスを捕獲する。

憑魔者「いう”りすぅぅぅ! 死ねぇぇぇぇぇ!」
セツナ「どんだけ恨まれてんだよ!」

セツナはツッコミを入れながらも憑魔者に横から体当たりをかます。憑魔者はバランスを崩し、イヴリスが通り抜ける隙間ができる。

イヴリス「クソガキ!? 何を——」
セツナ「うっせぇ! 今お前に死なれると困るんだよ!」
憑魔者「邪魔するなぁぁぁぁ!」

セツナが蹴り飛ばされるがすぐさま立ち上がりイヴリスと憑魔者との間に割って入る。セツナはイヴリスを庇うように憑魔者に立ちふさがる。指が槍のように伸びる。セツナは両腕で身を庇うが、左腕を貫かれ、そのまま肩に突き刺さる。

セツナ「がぁぁっ!」
イヴリス「お、おい!」
セツナ「つ、捕まえた……!」「……あとはどうにか倒せば……ぐっ」
イヴリス「……」
憑魔者「肉……いう”りすぅ……!」

憑魔者が涎を垂らしながら迫る。

イヴリス「……おいクソガキ」「俺様を身体に押し込め!」
セツナ「は!?」
イヴリス「テメェにゃ憑りつきにくいんだ! さっさとしやがれ!」
セツナ「お、おう!」
イヴリス「こんなクソザコに負ける訳にはいかねぇから契約してやる……!」「叫べ!」

セツナが無事な腕でイヴリスを掴んで胸に押し込む。

セツナ「契約(コネクト)!」
イヴリス「俺様の契約者なんだ。二本角如きに舐められてんじゃねぇぞ!」

閃光。憑魔者が吹き飛び、刺さっていたはずの指が途中で切断される。
光が収まったところに王冠角を生やしたセツナが立っている。傷口付近は血液でできた鎧やガントレットが生まれている。滴った血液は途中から剣になり、セツナに握られている。

憑魔者「いう”りすぅぅぅ!」
イヴリス「雑魚が気安く呼んでんじゃねぇ!」

セツナが剣を振りかぶり角を斬る。二本角の憑魔者は崩れ落ち、そのまま溶けて消えていく。セツナが倒れ、鎧や剣が血液になって流れる。イヴリスが身体から抜け落ちて、セツナを見つめる。


セツナは再びベッドの上で目を覚ます。包帯やガーゼで治療されている。ベッド脇ではランタンに封じられたイヴリスが不満げに揺らめいている。

ザガン「起きたか」「とりあえずは良しとしよう」

ザガンは食事を差し出す。大きなパンと湯気を立てたスープが載ったトレイ。セツナはそれを受け取るとがっつく。

ザガン「とりあえず入隊試験に出れるレベルまでは修業つけてやろう」
セツナ「……」
ザガン「どうした?」
セツナ「いやー……コイツがいれば別に修業とか要らない気も」

イヴリス入りのランタンを示すセツナに、ザガンが笑みを浮かべる。
スープについていたスプーンを取り上げたザガンはそれを握りつぶしていく。紙細工のように丸まっていく。セツナが目を丸くしている前で、球体のように丸められたスプーンをトレイに戻す。

セツナ「……スプーンが」
ザガン「こういう力があれば、ボウズの姉ちゃんを救う力になると思わないか?」
セツナ「……これ、どうやって飲むの?」
ザガン「ああっ、すまん! すぐ代わりを持ってくる!」

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