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人生相談もセックスも予定調和では乾いていく。紫原明子さんとの対話①

 昨日、voicyをはじめたことをお知らせしましたが、こちらで放送している「芳麗の女と文化の話café」でお話したことを、文字で読みたい方向けにnoteにも時々、アップしていこうと思います。今回は、12月26日にオンエアを開始した、作家・紫原明子さんとの対談・第1回目です。

 当初は文字起こしをそのまま置こうと思ったのですが、「起こしのままだと話した時の空気感や意味がわかりづらい部分もあるな」と。当然といえば当然なのですが……。とはいえ、インタビュー記事のようにかっちりと構成するのは、ちょっと違うかなと感じるので。ラフな手直しだけすることにしました。一部を省いたり、意味が通りづらい部分は言葉を足したり、細かな言い回しや言葉尻などは読みやすく変えたりしてます。でも、対談の中身や本意は変わっていないはずです。

 最後に文字コンテンツ用に“備忘録”として、その時の状況説明や感じたことなどを少しだけ付け足しますね。

 それから、この対談の第2回目は本日1/2のお昼よりオンエア開始しますので、よかったらぜひ。

 それでは、文字にすると少し長いですが、ゆるっと楽しんでいただければ嬉しいです。

●紫原明子にあらゆるお悩みが集まるのは?

芳麗 今夜は初めての対談ゲスト、作家の紫原明子ちゃんと一緒にお話ししていきます。明子ちゃんと出会ったのは、5、6年前かな。お互いにcakesで連載を持っていたのが、きっかけですよね。出会ってすぐに仲良くなって(笑)。

紫原 はい(笑)

芳麗 私がこのラジオをやりたいなと思ったのも、実は明子ちゃんの影響が大きいんですよ。明子ちゃんとの何気ない会話から刺激をもらったり、活動を間近で見ていたことがとても大きかったんです。それから私は、明子ちゃんという人の面白さにハマり続けているので。ぜひ、みなさんと、明子ちゃんをシェアしたいなと。シェアって言い方は変ですけど(笑)、そう思いまして、お招きしました。よろしくお願いします。

紫原:よろしくお願いします。お招きありがとうございます。

芳麗 明子ちゃんといえば、いろんな執筆活動がありますけど、やはり、クロワッサンオンラインのお悩み相談を読んでいる人は多いと思います。

紫原 ありがとうござます。あれね、すごく毎回大変なんですよ。

芳麗 あの回答って、心血を注いでますよね。

紫原 はい。毎月、15日が締め切りで、15日が近づくと鬱になります(笑)

芳麗 やっぱりディープなお悩み相談が多いですもんね。

紫原 でも、世に出ているものは比較的ライトなものです。もっと難しくてディープなものには、お答えできていないですね。

芳麗 そうなんだ。

紫原 私より年上の方のお悩みもくるし、そうするとどう答えていいものやら、悩ましいものもたくさんあって……。まだちょっとですね。お答えできているのは。

芳麗 あれでも比較的ライトなんですね。そういえば、先日は、「美人人妻と呼ばれたい」っていうお悩みがありました(笑)

紫原 眠り三四郎さんからのお悩みですね。

芳麗 相談者の年齢も幅広いですよね。クロワッサンオンラインは30代から50代くらいの女性が読んでいるものかなと思いきや、相談者には大学生の男子とかもいますよね。

紫原 そうなんですよ。理由の1つは、イラストを書いてくれている、わかるちゃんがシェアしてくれると、わかるちゃんのフォロワーは若い人もいるから、その経路で相談してくれているのかなと思って。最近、大学生の子のお悩みも増えました。

芳麗 いろんな人から相談が集まるのは、お悩み相談の回答には、明子ちゃんの人間性とか人生も出ているからだと思います。実際の明子ちゃんも老若男女に愛されるし、仲良いし、対等に話せる人ですもんね。佐伯ポインティさんとか、年下の男友だちもいて。

紫原 ポインティと仲良くなったのは、うちの息子に似ているからだと思う(笑)。

芳麗 たしかに、2人とも1度だけお会いしたことあるけど、面影が似てる(笑)。

紫原 体格も似ているし(笑)。昨日、うちの息子と話していたら、ポインティと好きな女の子のタイプが同じだったんですよ。もう、同一人物かもしれない。

芳麗 あはは! 

●顔が見えない相談者と会話しながら、答えを探す

芳麗 お悩み相談の連載について、まず聞きたかったのは、相談者の顔は見えないわけですよね。どうやって、(あんなにディープな)回答ができるんですか? 相談者とは、どんな風にコミュニケーションを取っているの? ラジオもね、顔は見えないけど、聴いてくれる人とのコミュニケーションだと思うから。明子ちゃんはどうしているのかなと。

紫原 あのお悩み相談の場合は、お送りくださったお手紙がすべてなんです。掲載しているまま、あれ以上でもあれ以下でもなくて。だから、その手紙を何回も読んでいます。ホント、難しいんですよ。何度も読んで、いろんな角度から(相談者に)質問を投げてみるんです。頭の中で。たとえば、「こういうことですか?」という質問Aを投げてみて。想像の中で、相手から返ってくる答えがしっくりこない場合は、今度は、別な質問Bを投げるんです。あらゆる角度から質問を投げてみて、しっくりくるものが見つかった時にかける感じなんです。

芳麗 なるほどね。

紫原 お悩み相談って、よくないコンテンツですよ。罪深いコンテンツだと思います(笑)

芳麗 (笑)。つまり、相談のお手紙と対話している感じですよね。

紫原 はい。木彫りを彫ることにも似ていると思ったこともあって。木を掘っていく時に、その過程で、自然と仏像がでてくるみたいな。何となく、ここらへんを彫るのかなと思いながら、少しづつ掘っていくと、最後は形になっていって。ああ、こんなものができたんだと思います。心の中にいる相談者の方との合作だなと思います。心の中で答えてもらっているから。

芳麗 ああ。たしかに、明子ちゃんの回答には、コミュニケーションのあとが見えるんですよね。独りよがりな部分がないというか。これって、明子ちゃんの文章の書き方にも近いんじゃないかな? つまり、着地点を決めずに文章を書いているのかなって。最初に着地点とか答えを決めて書くタイプの作家さんもいると思うんです。それは、ライターでもそうだし、ブログ書かれている人も一緒かもしれないけど。

紫原 そうですね。

芳麗 これって、明子ちゃんの場合は、初に答えを決めない、相手を決めつけないタイプ。地図のない航海に出るし、イメージを決めきらずに、木彫りしていく(笑)。すると、我ながら驚くべきものが出てくる……みたいな。

紫原 お悩み相談の回答を書くときは、特にそうですね。時には、着地点を決める文章もあるんですけどね。お悩み相談の場合、「こう言おう!」を決めちゃうと、ネタに走りすぎちゃうというか。悩んでいる人に対して、ネタに走るのはどうかなと。でも読む人にとっては面白いものを書きたいから難しいでですけど。やっぱり、相談者あっての文章だから、コミュニケーションが大事だなと思って。着地点を決めずに走り出すことが多いんだと思う。

●分かりすい答えや強い言葉は、一時だけの救い

芳麗 そもそも「悩みの答えって1つじゃない」っていうのも前提としてありますもんね。私は取材者でもあるけど、自分が本を出すときは、取材を受ける側にもなりますけど……。やっぱり分かりやすい答えを欲しい人の方が多いなって思うんです。「○○は××である」と言ってほしい。インタビューを受けると改めて気づくけど、 分かりやすい答えを欲しがる場合が多いじゃないですか?

紫原 そうですよね。

芳麗 「婚活成功の鍵は、○○しかない」とかね。言葉としても強ければ強いほど、共振してついてきてくれる人がいたりして。でも、それが正解とは限らないし、誠実じゃないとも思うんです。明子ちゃんは、そういう言い方をしたくない人なのかな。簡単には断言しない誠実さは、普段からありますよね。

紫原 そうですね。「こうだ」みたいな言い切りをした方が、喜ばれるのかなとは思うんです。「あなたはこうですよ」とか、決めつけて欲しいと思っている人が多いんだろうけど。本質ではないし、その時に答えが出ても、その時しか使えない。それではあんまり良くないと思うから。

芳麗 応用は効かないですよね。

●お悩み相談もセックス も承認欲求が強すぎると、予定調和に乾いていく

芳麗 明子ちゃんのお悩み相談の答えには、アフォリズムがありますよね。数ヶ月前のお悩み相談の回答も面白かった! セックスレスのお悩みにね。「そもそもセックスはコミュニケーションというけれど、果たしてどれほどの人がコミュニケーションに値するセックス を営んでいるんだろうのか」と回答していて。

紫原 は! 自分でもいいこと言っているなと思いました(笑)。

芳麗 それから、欲情する・されているという確認作業だけでは、セックス の意義ってあるのだろうかとも書いていて。すごくわかるなぁと。女の人がパートナーとのセックスがないと「寂しい」っていうのは、相手に欲情されないのが寂しいっていう意味でもあると思うんだけど。欲情の確認作業だけではね。コミュニケーションになってないと。

紫原 そうなんですよね。先ほど、「私のお悩み相談にはコミュニケーションのあとが見える」とおっしゃってくださいましたけど。芳麗さん、そもそもコミュニケーションって何だと思いますか? 

芳麗 やっぱりね……相手の心に触れること。聞くとか、見るという行為もそうだけど、相手の言葉を聴いて、心が震える部分を探していく。自分の反応と同時に相手の反応を楽しんでいく。そして、こちらからもまた投げかけてみて、さらなる反応を楽しむ。やっぱり相手あってのことだから。一方的だとコミュニケーションではないなと思う。明子ちゃんはどう思う?

紫原 私もそう思います。何がコミュニケーションで、何が違うのかを決めるのは難しいんだけど。相手の反応を期待するのか、期待しないでのぞむのかでも、姿勢が変わりますよね。

芳麗 そうですね。

紫原 承認欲求を満たすためだけのコミュニケーションは、“欲しいものを頂戴”じゃないですか。予定調和というか……。予定調和なやりとりをコミュニケーションとして満足できるのかっていうのはありますよね。だから、コミュニケーションって難しいなと思う。もぐら会でやっている、お話会の時も思うんですけど、相手がいるからこそ話すことと、相手がいてもいなくても話すことっていうのはもしかして違うのかもしれないし。
コミュニケーションをどうするのかを考える上では、自分と相手をどう位置付けるのかっていうことを、考えなきゃいけないんだなと。

芳麗 はい。

紫原 その上で、お悩み相談は、相手の顔が見えないという前提で、コミュニケーションだと理解してくださったと思うんですけど。私は頭の中で、仮想の相手を作って、その人とコミュニケーションを取りながら書いているんだなって、私は思ったんですけど。その人が言うことは初めから決まっているわけではなくて、何を言うか知りたいんです。前提を用意していないんですよね。答えはこうだろうという先入観をなるべく持たないようして、コミュニケーションをとっているんですよ。

●評価を求めて書きたくはないけれど……。

芳麗 素晴らしいと思う。今、聞いていて2つ思ったんだけどね。1つは、やっぱり何か感じて書きたいと思った時に、ブログとして書き残したいか、日記として書きたいかの違いは、そこにコミュニケーションがあるかないかだと思ったりしました。明子ちゃんは、作家デビューのきっかけはブログが話題になったことじゃないですか。

紫原 そうでした。私はすごく早くから日記をインターネットに書いていたんですけど、人々の日記がインターネットで公開されているのをみていて、人のリアクションを求めて書く文章の鼻につく感じがめっちゃ嫌だなと思っていて(笑)。自分は人のリアクションを極力、気にしないで文章を書きたいなと。でも、面白くない文章を書きたくない。リアクションを求めて書くようなダサいマネはしたくないと思ったんです(笑)。

芳麗 (笑)

紫原 だから、あなたの文章は神様への懺悔みたいだって言われることが多くて。神様、あのね……先生あのね……みたいなね。天に向かって喋っているみたいだねと。その通りですと思いました。文章で人に評価されたいっていうのが透けて見えるのは恥ずかしい。自意識が高いんでしょうね。「見て見て、評価して!」も、もちろん心にあるんですけど、それが露骨に滲み出るような真似はしたくないと思って、最終的に、先生聞いてみたいな形の文章を書くようになったんです。

芳麗 そうかぁ。

紫原 文章にも、相手にこうリアクションしてほしい、私をこうみてほしいって言う文章がありますよね。逆に、あなたがどう思うかはあなたに委ねますと言うスタイルもあるけど。それが見えちゃうのが文章の怖さですよね。

芳麗 明子ちゃんの場合は、読者にこびないし、過剰に語りかけたりもしないし。だからといって、コミュニケーションがないというわけでもないし……。

紫原 そうなんですよね。オンラインで文章を発表すると、どうしても、やっぱり向こうに人がいるとわかった上でやっているんだけど。でも、鼻つまみものにならないようにという加減が難しい。ずっと自意識との戦いですかね(笑)。

芳麗 それは、現在進行形の戦いなの? 自分の書籍を出して、たくさんの執筆連載を持っている今も変わってないの?

紫原 それがですね、エッセイを書くわりには、自意識と戦い過ぎた結果、自分を無色透明にしたがるようになって。私の話なんてしてもねと(笑)。でも、それを書かないとエッセイを書けないこともあるから、頑張って書こうとしています。

芳麗 なるほどね(笑)

紫原 難しいですよね。自分の思うことに価値があるとはなかなか思えない。何か大きな出来事とかがあって、これなら、みんながそう思ってくれるはずと思えたら、堂々と書けるんだけど。筆力の問題なんですかね?

芳麗 いや、違うよ。もちろん、それは自意識とか自我でもあるけど、丁寧なんだと思う。考え方とか、読者に対する、見方とかがね。丁寧だからこそ、何周も回ってるんだと思う。ストレートに、「私はこう!」とか「私の考え方には価値がある!」っていうのは、短絡的というと言葉がひどいかもしれないけどね。そう言う素直さとは違う良さですよね。明子ちゃんが今日、着ている服みたいな、複雑な色合いの感じ。一色では描けないのが、紫原明子ちゃんの魅力。かっこつけているわけでもないし、優しいのに、複雑であるって言うところが、私が明子ちゃんと言う人間であり、作家を好きな部分なんですよね。

●お悩み解決は論理的に。それでも解決できないなら星占いを

芳麗 第1回目の最後は、明子ちゃん自身の悩み解決法について聞きたいなと。小さなことから大きなことまで、問題にぶち当たった時に、どうしていますか?

紫原 まずは、芳麗さんに相談する(笑)。芳麗さんは魔女気質なので、不思議なくらい「何でそんなことがわかるんだろう?」っていうことをズバッと言い当てられるので(笑)。芳麗さんに相談します。

芳麗 魔女気質!!!(笑)。光栄ですけど、そんなことない(笑)

紫原 今も芳麗さんに光が当たっていて、眩しくて。神様みたい(笑)

芳麗 あはは! カフェの窓から強い西陽が当たってる(笑)

紫原 それからですね。私はわりと論理的なので、その問題が解決できることか解決できないものかを、まず分けてみます。解決できないものだと分かっていても気になる時は、星占いを見ますね。解決できないのに気になり続けるっていうのは、もしかして、そういうバイオリズムとか、星の巡りとかね。自分だけではどうしようもない力が働いているんだろうと考えるようにして。そこに、「ちょっと元気がない時期です」って書いてあったら、ほらほらって思うし。あとは、満月の時期は調子悪くなったりするので、ちょっと気にしてみたりとか。

芳麗 バイオリズム、大事ですよね。

紫原 自分次第で解決できるお悩みの場合も、対処法は色々ですよね。私の気持ちの持ちようで解決できるのか、実際に動かないといけないのかを見極めて、なるべく解決をしようと試みます。もし、気持ちの持ちようだなと思った時は、問題を見る視点を変えてみる。だいたい、視点っていうのは、時間軸なんですよね。短期的に見たら、残念だったり損失だったりするけど。長期的に見たら、メリットになったりもしますよね。。これはすごく後々ネタにもできるだろうなとか。この経験があると、いいおばあちゃんになる要素になるだろうなとかね。判断する時間軸を変えてみる、近くで見たり、遠くで見たりして、悩みの持つ意味を考えてみると楽になります。

芳麗 とても客観的ですよね。私に悩み相談してくれるって言っていたけど、明子ちゃんは話しながらも、依存相談モードでは一切ないし。何事も自分でどうにかする前提だし、「人に話してもどうにもならないことってあるよね」っていうことをすごく分かっている人だと思う。だから、私は話してもらう機会があったら、喜んで聴くだけなんですけど(笑)。

紫原 (笑)

芳麗 明子ちゃんって、そんなにスピリチュアルな人じゃないでしょう。一般的な女性の平均くらいの興味かなって。

紫原 そうですね。

芳麗 でも、ある日のクロワッサンの悩み相談の回答にも書いてましたよね。物事が上手く進まない時などは、「今起こっている出来事の意味を考える」と。たとえば、引っ越したいのに、物件が全然決まらない時は、「まだ、ここにいる方がいい?」と考えて見たり。

紫原 そうですね。悩んでも自分のせいだけだとは思わないようにしています。たとえば、人間関係がうまくいかない時も、自分に非があったなと思うことはめっちゃあるけど、相手の虫の居所が悪かったんだろうと思うこともあるし。あとは、気圧のせいかなとかね(笑)。
気圧が低いとみんな体調悪そうじゃないですか。あの日は、気圧が悪かったから。天気がよければ、こんな風にはならなかったかもしれないなとかね。

芳麗 あるね(笑)

●究極のお悩み解決法は、マンガみたいに生きること

紫原 それから、自分の問題だったら、最近、糖質ばっかり食べているから調子悪いのかなとかね。40が近くにつれて、自分の体の限界がはっきり分かるようになってきたから。何事も行ける時は元気な時、行けない時は体の調子が悪い時かなと思うようにしています。
あと、恥ずかしいこととか、ああ、やってしまったってことありますけど……。そういう時は、芸の肥やしだなと思うようにしてます。

芳麗 わかる!

紫原 逆に顔から火が出るくらいのことが、1つもないときは、何にも挑戦していない時だなって思って。昔はもっといっぱいあったんですよ。

芳麗 明子ちゃん、芸の肥しを増やすの好きだよね。デビュー作の著書「家族無計画」でも、主婦時代にキャバクラに行った話とか書いていたもんね。クロワッサンのお悩み相談でも、「私は1人でストリップショーを観に行ってきました」って書いていたし。ああいうことをするのは、心を柔らかくしたいからもある?

紫原 そうですね。人に話して驚かれるようなことをしておきたいなっていうのもあるし。

芳麗 人を楽しませたい人だよね。

紫原 そう、あと、ふざけたい(笑)。

芳麗 うん。ふざけるって、めっちゃ大事(笑)

紫原 この間、友だちと次に会う時までに、お互い大きなふざけたことをやって報告し会おうねって話して。その友達が何をやったかというと、マスクの下で鼻の下に鼻毛を書いて1日外出したって言っていて(笑)。私は、そういうことをして生きていたいなって。

芳麗 お悩み相談の直接的な解決法じゃないかもしれないけど、ふざけた部分を持って生きるって、すごく大切なことのような気がする(笑)。

紫原 私の父の口癖があって、「それ、漫画やな」なんですよ。何か大変なこととか起こっても笑いながら「マンガやな」って言うんですよ。そして、あらゆることがギャグ漫画のように処理されていくんです。私が真剣に悩んでいることも、そうやって処理するから。昔は、全然理解がない人だなって思っていたんだけど(笑)。今となっては、あの処理の仕方は、本当にすごいなと。

芳麗 たしかに。何か失敗したとして、分析と反省をすませつつも、あとは冗談として面白がる視点は良いですよね。

紫原 強いですよね。

芳麗 私も明子ちゃんに相談したり、話を聞いてもらうことが多いけど私は、オープンマインドではあっても、あまり悩みとか負の感情を吐露できない方なんですよ。言いたくないと思っているわけじゃなく、なかなか出てこない。でも、明子ちゃんには、自然に話している。
それは、明子ちゃんの物事の捉え方が多面的だから。心が柔らかいし、ちゃんと毒があるところも好き。

紫原 (笑)

芳麗 意地悪じゃない毒ね(笑)。だから、私に大変なことが起きて苦しんでいる時でも、明子ちゃんは「かわいそうだね」っていう視点だけでは捉えない。ユーモアで捉えてくれたり、別な角度の視点を見せてくれたりするからね。いい温度感で話しやすい。悩み相談する側としては、別にかわいそうがられたいわけでもないし、絶対的な答えをもらいたいわけでもないからね。だから、恋愛相談はこの人、仕事の相談はこの人には話せるかなっていうあるけど、明子ちゃんには、私自身の毒気も含めて、何でも話せるっていうのはあって。
それは、明子ちゃんの人間力だなと思います。

明子 そう思ってもらえて嬉しいです。


第1回の備忘録

・この対話は、師走も半ば頃、明子ちゃんのお気に入りのカフェで行われました。広々とした明るい空間、リラックス感のある素敵なインテリア、笑顔の素敵なスタッフの方々、くつろぎながら仕事をしている他のお客さんたちも含めて、完璧な空間! 来年からは私も通いたい。

・第1回目は、「悩み相談もセックスも予定調和だと良くないし、コミュニケーションのあり方が大切」ということを話し合いましたが、これは、私がインタビューにおいて考えることとも共通しています。誰かの話を聴くときは、相手の言いたいことや本質を捉えつつも、予定調和にしたくないと思う。だから、先入観はもたない、容易に決めつけないよう、その時々のコミュニケーションにフォーカスしていて。取材中はもちろん、インタビューを執筆中も、頭の中でインタビュイーの残像と会話しながら書いています。それから、読者とも想像で会話している部分があると思います。インタビューって、話して書いて、それを読んでもらうまで、全てコミュニケーションなんですよね。

・たまたま、この日、東京に滞在していた、明子ちゃんのパートナー、猫町倶楽部主宰の山本多津也さんも同席。私たちの自由な会話を温かく見守ってくださいました。
明子ちゃんが「お悩み相談の回答は、木彫りを彫ることにも似ている」と話した後に多津也さんが、「今の木彫りを彫る話を聞いて、夏目漱石の『夢十夜』の中に出てくるエピソードを思い出した」と。それは素敵! 帰宅後、『夢十夜』を読み返したら、「第六夜」に、護国寺の山門で運慶が黙々と仁王を彫っているというストーリーがありました。芸術を掘り出すことも、人生における様々な問題の答えを掘り出すことも、当て所なく掘り続ける作業なのだと改めて感じ入りました。

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