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【植物が出てくる本】『夢幻花』東野圭吾

本の紹介記事は、かなり久しぶりになってしまいました。
コンビニの本コーナーで、表紙のイラストが気になって何となくカゴに入れてしまった本です。読み始めたら、最後まで一気読み…! 面白かったです。

『夢幻花』東野圭吾(2016年:PHP文芸文庫)

秋山梨乃は、祖父の周治が丹念に育てている花々の写真をブログにアップすることを提案し、その作業を手伝うことを申し出ます。しかしある日、その祖父が何者かに殺害されてしまいます。そして、祖父の庭から消えた謎の黄色い花……。
その黄色い花の写真をブログにアップしたことをきっかけに、植物関連企業の社員を名乗る男、蒲生要介が梨乃の前に現れます。さらにその弟で大学院生の蒼太とも知り合い、蒼太と梨乃は真相解明に乗り出します。花の秘密、そして事件の真相は……?

この物語のキーになっているのが、謎の黄色い花。アサガオの一種であることが明らかになるのですが、黄色いアサガオは現在存在しないと言われており、謎は深まるばかり。
そして、事件の真相に迫るために、蒼太と梨乃が訪ねたアサガオ研究者、田原はこのように話します。

「どんな花を咲かせてもいいが、黄色いアサガオだけは追いかけるな、とね。理由を訊くと、あれはムゲンバナだからだ、といわれたよ」
「ムゲンバナ?」
「夢幻の花という意味だ。追い求めると身を亡ぼす、そういわれた」

周治の事件を追う刑事、早瀬や、蒼太が中学生の時に朝顔市で出会った少女、孝美、そして自殺した梨乃の従兄、尚人など、バラバラに見えた人々が次第につながり、やがて、「なるほど!」と思える結末にたどり着きます。

きれいに伏線がつながり、そして最後には、登場人物たちが希望を胸に歩き出す姿が描かれて、すっきりした読後感でした。
登場人物たちそれぞれが抱える、人生に対する悩みに、思わず感情移入してしまう箇所もあり……。
主人公が若いためか、ミステリーでありながら青春小説のようにも感じられました。

ちなみに、黄色いアサガオの開発は実際に行われているようです(自然科学研究機構 基礎生物学研究所のプレスリリース)。
江戸時代には変化アサガオの栽培ブームがあり、黄色いアサガオも栽培されていたようですが、この物語に出てくるような「禁断の植物」だったのかどうかはわかりません。

この物語では、植物の「美しさ」とは別の側面にスポットが当てられていて、植物研究者などの登場人物ももっともらしく描かれていて、植物好きとしては、とても楽しく興味深く読むことができました。

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