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Eduble日本語教室が目指す「オーダーメイド授業」〜子どもの継承語教育〜【Aflevering.232】

 日本の公教育に8年携わり、2020年からオランダに移住してオランダの公教育や社会に触れ、日本語教室で子どもたちの継承語教育に関わってきました。私が日本の教育システムしか知らなかった頃に比べると、それなりに教育を見る視野が広がってきたように思います。

 いろんな教育方法や教育システムを見て、自分なりに気づいたことがありました。
 それは、「興味・関心のないものは、学ぶ意欲は起こらない」ということです。もちろん、学校教育では、子どもたちが好きなことだけを学べば良いというわけではありません。なぜなら、社会で生きていく上で最低限必要なことは子どもたちは選べないものだからです。
 だから、教育に関わるとは言っても自分がどの立場にいるかで子どもたちに提供すべき学びは変わってくると思っています。

学校教育で学ぶこととは?

 学校の役割とはどのようなものなのでしょうか?それは、社会に出るための準備として、他人との関係づくりを学んだり、また他者との関わりの中から見える「自分という人間」を見つけたり、読み書き計算の基礎を身につける場所だと思います。つまり、すべては社会で他者とうまくやっていくために必要なことを学ぶところだということです。

 そのため、学校教育は子どもたちの興味・関心の対象でないことも学ばなければなりません。社会を構成している人たちが、社会に出るために必要だとしている学び、つまり大人が用意した学習内容を学ばなければならないのです。私はこの学びはとても大切だと思っています。

 しかし、私がここで重要だと思うことは「学び方を学ぶ」機会を保障できているかということです。一斉授業で先生が子どもたちに一生懸命にある事柄についての説明をして、その内容に関するテストなどで完結させてしまう場合がありますが、子どもたちはとても退屈そうにしています。しかし、学び方を変えるだけで同じ内容であっても楽しく学ぶことができます。
私は公立高校で働いている時は、学習内容は変えられないので学習方法を工夫して、生徒たちが興味関心を持てるようにしたり、「社会に出た時どんな生き方をしたいか」などを考えるきっかけになるような授業づくりをしてきました。

時代の変化とともに変わる教育

 近年は、子どもたちが持つ興味・関心に合わせた学びも必要になっています。なぜなら、社会においても画一的な仕事をこなす能力だけでなく、個々の発想や創造性も求められるようになったからです。

 そのため、学校では両方の学びが求められるようになり、そもそもが異なる学びの種類が混同して現場が混乱しているのではないかと思います。

 現在は基礎科目の学習に加え、探究学習をカリキュラムに取り入れている高校もあり、生徒たちの実践を耳にすることがあります。社会に出るために必要な学び(高校まで来るとここまで学ぶ必要があるのか?と感じるものも一部ありますが)と生徒発進の探究的な学びを両立させることは重要だと感じます。

日本語教室にも探究学習を

 私が現在行っている継承語の探究学習「継承語教育オーダーメイド授業」についてまとめておきたいと思います。これまで述べてきたように、日本語としての読み書きの基礎学習は必要ですが、それに加えて、子どもたちが興味・関心を持って学び続けるための「探究的な学び」も必要です。
子どもたちの学習意欲を維持させつつ、子どもたちの個性を活かした授業づくりをしたいと思っています。

個別の学びと集団の学び

 私は大学での4年間の学習塾での個別指導と集団指導、日本の高校での集団指導をする中で、個別学習と集団学習にはそれぞれ求められる授業構成は異なるということがわかりました。個別の学習では、目の前の学習者の学習状況にフォーカスし、学習者にとって必要な学びを提供することが重要だと考えています。また、集団の学習においては、学習者同士の関わりを重視し、一人ではできない学びを提供することが重要だと考えています。

「オーダーメイド授業」とは?

 海外で暮らす子どもたちにとっての日本語学習というのは、学校教育の中に入っていない限り「オプション」での学びになります。保護者から見ると「日本語はやっておかないといけない」と思うかもしれませんが、幼い子どもからするとその重要性を理解するにはまだ時間がかかるかもしれません。しかし、だからといって「子どもはまだ分からないから」という理由だけで、子どもに無理やり勉強させることは、子どもから主体性を奪ってしまいます。主体性を奪われた子どもは、自ら学ぼうとする姿勢を持てず、何かの達成感を味わう機会も少なくなるので、最終的には自分で決めることができない子どもになってしまうのです。

子どもが関心のあるテーマで学ぶ

 私の授業では、基本的な読み書きの訓練も必ず行います。この時は学び方を工夫してメリハリを付けるようにしますが、それだけでは不十分で、子どもたちが楽しく学習を続けていくことは難しいと感じています。そこで私は、「子どもたちが興味のあるもので学ぶ」という、大人から子どもに学びを与えるのではなく、子ども自身から学びを広げてもらう機会を作ることにしました。それでは、私が今取り組んでいる個別の探究学習について以下にまとめておきます。

「東京ディズニーランドってどんなところ?」(Rさん、8歳)

Rさんは、オランダで生まれで現在8歳です。父親が日本語を話す他は英語やオランダ語で生活しています。Rさんにとっての日本語は、父親とのコミュニケーションにおいて大切なツールになっています。日本語を学ぶことに対して少し苦手意識のあるこの子にとって、日本語での会話能力を引き上げることがまず優先されるべき学びだと考えています。

 Rさんの性格は好奇心旺盛で、日本の文化が好きな子です。また、日本のことや歴史について話をするのが好きです。以前、日本に帰国する前の準備として、日本に行った時に「日本語やっててよかった!」と思ってもらいたくて、訪問予定である「三鷹の森ジブリ美術館」についての調べ学習を行いました。そこにはどんな展示があるのか、どんな食べ物やお土産があるのかを一緒に調べて用紙にまとめました。またそういった活動をしている時、Rさんは日本語を一生懸命読み、ジブリ作品に関して知っていることを楽しそうに話してくれました。

 そして日本に帰国後、実際に美術館に訪れた時には、「先生と調べた通りだ!」と感動してくれたようで、美術館での時間を有意義に過ごせたと保護者より連絡をいただきました。
 次の帰国では、東京ディズニーランドに行く予定があるらしいので、新たにディズニーランドに関する調べ学習を実施しました。東京ディズニーランドに関する歴史やアトラクション、食べ物などをチェックし、興味があったところをまとめました。そして、今回は調べた内容を「旅のしおり」にまとめました。
 このように、日本語を通して学んだことで、日本での滞在を楽しめたり、感動する経験が、継続的な日本語学習のモチベーションの維持につながるのではないでしょうか?

「『働くこと』、『お金』って何?」(Mさん、13歳)

 こちらは、以前も私の記事でもお伝えしたことのある生徒です。IB MYPで学んでいる生徒で、現在日本語で理科と社会のサポートをしています。

 私が行っている学習サポートは、主に学校で学習した内容に関して日本語での解説をしたり、学校での学習内容を日本の理科・社会の単元と繋げます。また、日本語でのエッセイの練習も兼ねて行っています。

 Mさんは現在、「働く」ことと「お金」についてとても興味があります。そのため、私は中学公民や高校政経で学ぶ労働や経済に関する単元と結びつけ、さらにキャリア教育の教材も合わせた授業をすることにしました。
 初回の授業では、「労働」に関するブレインストーミングを行いました。労働に関してのニュース記事を使い、自分にとっての「働くとは何か?」というテーマでディスカッションをしました。
 最終的に至った生徒の結論としては、「仕事をする」ことは、単にお金を稼ぐことを目的とするのではなく、「自分が得意とすること」と「社会を支え誰かの役に立ちたい」という2つの思いが大切なのだという結論に至ることができました。
 そして、今後は日本の労働問題や労働に関する憲法や法律がどうなっているのかを見て知識としての定着も目指していきます。そして、今ある労働基準法や労働組合法などがどのような過程を経て成立してきたのかを考え、学びを深めていきたいと思います。

 今興味があること、関心があることを出発点にして学ぶことは、知識の定着も促します。講師の役割は、興味関心に合わせた学習内容を考え、知識の定着と探究する楽しさを味わってもらうことだと思い、オーダーメイドの授業を大切にしています。

「あれ、もうこんな時間になったね」というのが私にとって何よりの喜びであり、集中していると時間はあっという間に過ぎてしまうのです。

 以上が私が現在取り組んでいる「継承語教育オーダーメイド授業」です。これからも子どもたちの学びを充実させられるように取り組んでいきたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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