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THE COCKPIT(ザ・コクピット) 「音速雷撃隊」(シーズン1エピソード2)を観て[327]

 私はこれまで世界史の教員として、ヨーロッパの歴史を学び、生徒たちと共に学んできました。ヨーロッパの歴史たどってみると、度重なる領土争い、宗教戦争、ナショナリズムの高揚によって大規模な戦争が繰り広げられ、多くの命が犠牲になりました。
 そして、2度の世界大戦以降は国際的なつながりが強まり、完全とは言えないまでも、比較的平和な世界を手にすることができました。スティーブン・ピンカーの著書などで紹介されているデータからも見ても、現在が比較的平和な時代であることが分かります。

 この比較的平和とされる世界は、既に実現されたものと考え、何もしなくてもこれからも続くのでしょうか。もしくは、戦争を起こさないように何かしらのを努力することが重要なのでしょうか。これからの社会を生きる私たちに求められるのは、もちろん後者です。

 なぜなら人々の思考には欠陥部分もあり、現状をデータからではなく、自分の周りで見たことやニュースなどから端的に判断しがちです。認知バイアスをはじめ、楽観主義バイアスや利用可能性バイアスなどが働くことで、世界観が歪められることがあります。こういった誤解を防ぐために、私たちは人類の歴史を学ぶ必要があり、過去の戦争はどのようにして引き起こされたのか、当時は現代の価値観と比べてどのような違いがあったのかを知る必要があります。歴史を学ぶ意義という意味では、単純な知識の暗記で歴史を評価するような程度でとどまっていてはいけないのです。むしろその奥にある、歴史観の養成が必要です。

 戦争があった時代の文学作品などを読むと、当時の人々が考えていたことを知ることができます。先日、私が作品を探していた時に見つけたものを紹介したいと思います。

戦争による「精神の麻痺」

 戦争時代を生きていた人たちはどんな思いで死んでいったのでしょうか。喜んでいたのか、死を怖がっていたのか、その手がかりになるものを作品から感じ取っていきます。今回私が見た「音速雷撃隊」のストーリーでは、日米を善悪の構造で捉えるのではなく、戦っている人々にはいろんな思いがあることが分かりました。また、戦争が始まってしまうと人々の考えは異常なまでに残酷さを帯びてしまうことが分かりました。

 タイトルの画像はAmazon Prime Videoの番組紹介のところからお借りしています。

「音速雷撃隊」のあらすじ

 舞台は太平洋戦争末期、日本軍が開発した「桜花」という兵器は、片道分の燃料のみを搭載しており、人が操縦して相手の空母に体当たりを仕掛けるものです。ストーリーの中では、桜花に搭乗するパイロット、それを運ぶ乗組員たちの戦争に対する思い、またアメリカのパイロットたちの戦争に対する思いが描かれており、戦争を知らない私たちにとって貴重な視点を提供してくれます。

重要なのは戦争が起こる前の社会背景

 戦争でただたくさんの人が死んだとか、グロテスクな写真を見て戦争は怖いというイメージを持たせるだけでは、本質的な理解を妨げることになりかねません。今後の平和な社会を作るためには、戦争の時期に起こったことを知識として学ぶだけでなく、その構造や因果関係について考える時間が必要だと思います。

 この作品を観ていると、戦争時代を生きていた人たちみんなが戦争を肯定していたわけではないということです。自分たちの家族を守るために、自分の命を犠牲にするという選択をした人々も多くいることが分かります。
「戦争を反対する人もいる中で、なんでこういうことが起こるんだろう?」という出発点からでいいので、そういったことを探求できる時間が学校教育の中であると、学ぶ意義がより深まっていくのではないでしょうか。

作中の印象的なセリフ

「戦争でみんなおかしくなってしまった」
「人間爆弾の桜花は人の命を部品にしもうた」
「せめて今(当時)の若者があと30年生きられたら、みんないろんなことをしただろうな」

 戦争は若い人たちの未来を奪うものであり、私たちがこれからも平和な生活を送るためにも戦争がもたらす甚大な被害について知る必要があります。

 戦争をするという決断を政治家が簡単にするようなことが今後起こったとして、その代償を払うのは私たち一人ひとりになります。そのためにも、完璧ではないまでも現存する民主主義を時代に合わせて改良しながら大切にしていく必要があると感じます。

 マンガもあるみたいなので、今度日本に帰った時にチェックしてみたいと思います。


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