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IB MYPの試験(社会)では、どんなことが聞かれるのか?【270】

 私は元公立の高校の社会科教諭として勤務していましたが、現在は教育を視野を広げるために、オランダでいろんなカリキュラムの生徒の日本語サポートをしています。その中でも、IB MYPに通う生徒の日本語サポートをしていると、元社会科教諭として色々気付かされることがあります。
 これまでにIB MYPの授業の魅力について記録してきましたが、今回は試験問題がどうなっているのかについて書きたいと思います。

IBの試験ってどんな感じなのか?

 今回生徒からフィードバックをもらったテストはいわゆるテストウィークに行われたものです。
 授業では評価に直接入らない形成的評価"Formative"と、評価に含まれる総括的評価"Summative"があります。今回のテストは、後者の評価に入るテストです。

 私も詳しいわけではありませんが、テストウィーク以外にも小テストのようなものやレポートの提出はあります。しかし、それが評価に含まれるかどうかは明示された上で、生徒たちは準備します。評価に入らない課題をサボったところで、その理解したことを使って評価される課題に取り組まなければいけないので、結局は自分に返ってくるのです。

「論述」主体の試験

 ここでは、生徒が報告してくれた試験問題で問われていたことを記録しておきます。日本の教育とはまた違った一面があるので、参考になるところがあれば嬉しいです。

①奴隷貿易についての図を見て、1650年から1860年の間に、アフリカからアメリカに強制的に人々を移動させたこと(その影響)について、3つ詳しく説明せよ。

 この地図には、アフリカ大陸と南北アメリカ大陸が示され、奴隷がアフリカのどの地域からアメリカのどこへ連れて行かれたのかとその人数が示されています。また、アメリカでどのような作物が栽培されていたのかが示されています。この期間の間に多くのアフリカ人が奴隷としてアメリカに運ばれたことで、どのような影響があったのかについて自分の考えが求められています。

②大西洋貿易が三角貿易と呼ばれるのはなぜ?

 「三角貿易」と呼ばれるその理由について問われています。この問題においても、ただ単に語句を答えるだけのような安易な問いではなく、その言葉の説明が求められています。そして、その説明は論理的に表現されなければなりません。

③旧世界より、コロンブスの交換によって新世界に持ち込まれた 2 匹の動物を挙げてください。

 こちらは、牛馬や羊などの家畜がアメリカ大陸に運ばれたことを書きます。

④新世界より、コロンブスの交換によって旧世界に持ち込まれた食品の例を 2 つ述べてください。

 こちらは、その後ヨーロッパの食生活を大きく変えたトウモロコシやジャガイモについて書きます。

⑤「ヨーロッパ人は、大西洋奴隷貿易の際に多くのアフリカ人から自由を奪ったことに対して全責任がある」について、あなたの考えを述べてください。

 大西洋奴隷貿易によって、ヨーロッパ世界が発展した一方で、その代償となったのがアフリカ大陸に住んでいた人々です。それは現代世界の構造にも影響していることで、これについての自分なりの考えを提示することが必要になります。

⑥ジャレド・ダイアモンドの地理的決定論の理論は何を述べていますか?

 これは授業で紹介されたジャレド・ダイヤモンドに関する記述です。ヨーロッパの気候や作物などに関して述べます。

⑦ヨーロッパ人がアメリカ大陸に到着したことで、地元住民に与えた主な影響の 1 つは何ですか?

 コロンブスの交換についてまだ述べていない「病原菌」について書くのが良いかもしれませんね。

⑧ジャレド・ダイアモンドによると、飼いならされた動物がヨーロッパ人の成功に貢献した理由を説明してください。

 ⑥⑦のまとめのように感じます。ヨーロッパ人は家畜とともに長い期間過ごしてきたので、動物がもつ病原菌への免疫を持つことができたそうです。それに対して、アメリカ大陸の人々は家畜を持つことはまだなかったそうで、多くの人が病原菌によって死んでしまったということになります。

「論述」試験のメリット〜成長が分かりやすい〜

 論述問題を解く時、一問一答の問題ばかりを解いていると、かなり苦労します。ただインプットした知識を出してくるのと、それらを使って論理を組み立てるのとでは、脳の使い方が全く異なります。

 論述は何よりも「考える力」が必要です。自分が持っている知識をどのような順序で示し、因果関係なども含めた説明を組み立てなければいけません。ただ、こういった活動を繰り返すことで知識が整理されやすくなり、物事の理解力が高まることも期待できます。

 今後もこういった論述を評価する仕組みになっていってほしいと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。

<参考HP>
ブループラネット賞ものがたり「ジャレド・ダイヤモンド教授」(2023.02.23)

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