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フィジェットトイを身に着けて

今朝、Amazonからフィジェットトイが届いた。
無限プチプチが好きな人なら、きっと好きに違いない。電気のスイッチやロッカーのダイヤル、ゲームの操作スティックなど「感触が楽しくてつい弄っちゃう」ギミックが集結した夢のおもちゃである。

fidget=そわそわするの意味だそうで、精神を落ち着けるための道具でもあるらしい。ストレス解消にも有効で、ADHDや自閉症の人のなどのメンタルケアにも用いられているようだ。1個数百円から手に入る手軽さも魅力である。

なぜそんなおもちゃを購入したかというと、「顔に触っちゃう病」克服のためだ。コロナ禍のマスク擦れから、眠れる獅子だったアトピー体質が大暴れすることになり、顔の皮膚が真っ赤に腫れたり引いたりを2年ほど繰り返している。免疫抑制剤という強い薬を飲み、日光には当たれないドラキュラのような生活をしている。
周囲の人は「顔に触らなきゃ治るよ」と言うのだが、かゆいからつい掻いてしまう。髪の毛一本触れただけで、キーーーーッ!と狂気が発動する。狂気は理性を簡単に奪い去る。原稿を書いていても、考えている間につい顔をいじってしまう。自分はあまりやらないが、無意識のクセとしては貧乏ゆすりや髪の毛を抜いてしまうなども類似行為にあたるだろう。

狂気のピークはほんの数分。その間、顔を掻きたくなる手を封じてしまえばいい。ネットでいろいろ探した結果、藁にもすがる思いでこの玩具にたどり着いた。

説明書は英語と中国語だが、彼らはアトピー戦線で疲れ果てた私にやさしく語りかけてくる。スイッチボタンのくだりを読んで、涙があふれそうになった。たぶんこう書いてある。

「ほら、これなら機械が壊れるなんて心配しなくていいからさ。君の気が済むまで何回でも電源ボタンを押しなよ」

ううっ、吹雪の夜をさまよっていたら温かい家でスープをめぐんでもらったような……。泣ける、泣けてくる。課金するからイケボのASMRでも読み上げてほしい。

かくして開封の儀から2時間後、私はすっかりこの玩具の虜になっていた。顔がかゆいときは指を顔に伸ばす代わりに、フィジェットトイのダイヤルをカチカチ回して触感と音に集中する。――というか自然と集中してしまう。回し車を回すハムスターのように。

イラっとしたときにも有効だ。
試しに80年代に流行った、とある猫のキャラクターを思い浮かべてみる。マイケルというトラ猫の顔が嫌いだ。”天然”を装ったとぼけた表情と猫らしからぬ作り物のようなポーズが生理的に受け付けられない。
その顔に集中砲火を浴びせるべく、格闘ゲームを思い浮かべながらジョイスティックらしき棒を親指で猛連打する。頭部が蜂の巣になったところで、スティックを旋回させて――からの強打! 脳内の画面では、そのボディに決め技の回し蹴りが炸裂した。

腹立たしい上司の背中を見送りながら、デスクの下で親指を躍らせるのも爽快なストレス解消法かもしれない。ちなみに今回購入したフィジェットトイはリング状で2個セットで売られており、両手での操作も楽しめる。

もはや手放せなくなったため、皮紐をつけて首から下げてみることにした。精神的なお守りだ。今日は夕方から狩猟関係のセミナーに行く予定なのだが、お会いするのは取材でもお世話になった大学の先生などなどハイソサエティーな方々だ。万が一、この玩具について尋ねられたときに一言で回答する術を今の私は持っていない。会場の入口で外すかどうかは、そのときの気分で決めよう。

中国語の商品名、「減圧魔戒」。
魔界からの使者が暗黒のリングで地球を制圧する様子が目に浮かぶ。
さあ、我を守り給え。
かゆみから。そして羞恥心からも。

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