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【小説】 彼は負けず嫌い、その切実な理由

「うっ、うー……う、かぁ?」
「ほら、早く早く。答えてよ」

 彼は悩ましい顔をしている。
 もう二人で長いこと、こんなやり取りを続けている。

「そうだな、"ウツボカズラ"!」
「はい、アウトー! それもう言ったよ、私の勝ち!」

 私は嬉しくなって思わず声をあげてしまった。

「ええ、まだ言ってないよ!」
「言・い・ま・し・た! 絶対、言いました!」
「言ってない!!!」

 彼はムキになって否定してきた。負けず嫌いだなぁ……なんだか、遊びに真剣になっている様子が余計におかしくて、私は思わず笑ってしまった。

「言ってないったら、言ってない。まだ、続けようぜ」
「私の勝ちで終わりですー! だから、おしまい!」
「言ってないから、マジで……怒るよ」

 あれ? なんだか彼の口調がマジなトーンだ。
 「怒るよ」だなんて、ただの遊びなのに。

「……言ったって証拠でもあるのかよ」

 彼が真剣に問い詰めてくる。

「うーんとね、メモリーにちゃんと残っているよ。"ウツボカズラ"はグリニッジ標準時2189年2月16日21時13分に言っているね。だから、あなたの負け。私の勝ち!」

 しっかりと証拠を提示する。
 どうあがいても、私の勝ちは揺るがないのだ。

「じゃ、これで私の役目は終了だね! 楽しんでもらえたかな? それじゃ、バイバーイ!」

 私はそう言って、自身のプログラムを終了する。再起動プログラムは大気圏脱出時の衝撃で破損している。56年間、こんなに長い時間を彼とおしゃべりできて、私は満足だ。

「……もう少し長い間、話していたかったな」

 宇宙ポットの中で、彼はたった一人つぶやいた。

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