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雨の名曲

いつもあまり見ない歌番組をその日は見ていました。
その日の特集は「雨の名曲」。
いろんな年代の「雨」の歌が流れていたけど、夕食を食べながらだったから、聞いているようで聞いていなくて、お店のBGMのようになっていました。

番組ももう終わる頃に、その歌は流れました。
しっとりとしたムーディーな旋律と甘い歌声。
耳に飛び込む言葉が、いつかの私をクローズアップするかのようでした。

その歌について、歌のタイトルや歌っている歌手の方が誰なのかくらいはわかるものの、Aメロあたりは何となくでしかわからず、サビの部分だけ聴いたことあるなぁという程度でした。
それもそのはず。その歌がリリースされたのは、私がまだ5歳の頃。
ただの5歳。神童なんかではないから、その当時の流行歌の記憶はありません。

その後も、その歌を聴く機会がないまま大人になってしまったので、ほぼほぼ、初めて聴くのと同じ状態でした。しかも、フルコーラスで聴けたので、その歌の世界観、ストーリーもよく分かりました。
とっても意味深な、大人の歌。
聴き終わったあとも、しばらく箸は止まったまま。曲の良さはもちろんあるのだけど、それよりも歌詞の偶然に驚いてしまったのです。力が抜けたように、ぼんやりエンディングを見つめるしかありませんでした。
夕食後も歌の余韻は残り、甘い記憶ばかりを追ってしまいました。

なぜって、
確実に私が「この歌詞の世界を生きた」からです。


相手と私の関係、舞台となった街、そのときの天気。
当時5歳だった子どもが、いい歳の大人になって、その歌の世界をそのまま体感し、歌の世界の人物になってしまった。
何十年も前の歌と自分の経験がこんなにも重なるなんて、人生とは不思議なものです。
私も一端の大人になったのだろう・・・。

この恋の行方がどうなったのか、どうなるのかは、当然、歌われていません。想像するしかありません。
私自身のことも、この先、どのような展開になっていくのか、自分のことだけどわかりません。ただ、私は現実を生きているので、目の前にあるストーリーの結末を知ることはできます。
だいたい想像がつく結末のような気もするけれど、この歌のように、たとえ「ここまで」で終わったとしても、それはそれでいいのかもしれません。
結末までのストーリーをしっかり楽しみたい。今は、ただそれだけです。




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