「雑談」というトレンドとメタバース
はじめに
感染症が蔓延し、外出自粛が呼び掛けられる社会では、旅行やライブなどこれまでの非日常を楽しむ方法は姿を変えてしまいました。
それどころかリモートワーク、リモート授業化したことで休憩時間の雑談という日常さえも非日常のものとなっています。
その結果、オンライン上のコンテンツでは雑談を求める人が急増し、特に学校と家庭、クラブ活動など属する社会が少ない若年層では、雑談という要素がトレンドの鍵となっています。
そこで、今回は若い世代の間で雑談が今までとは違う形で生活に実装され、今後この雑談がどのような形で発展していくのかを見ていきます!
▼雑談というトレンド
新入生歓迎会は中止、移動教室はなくZOOMのURLを切り替える...
そうして今まで学校の休み時間や放課後、課外活動中といった隙間時間で友人と他愛もない会話をする習慣は薄れています。
実際に、大学1年生の3人に1人が「友だちができない(いない)」ことを悩みに思っており、交友関係を支えるサークル所属率・アルバイト就労率どちらも減少していると全国大学生協連の調査で分かっています。(n=11,028人)
参照)第56回学生生活実態調査の概要報告(最終閲覧日:2021年9月24日)https://www.univcoop.or.jp/press/life/report.html [調査実施時期:2020年10~11月]
そういった中で、余暇時間の使い方として雑談を求める人が増えています。
ただ、これまでのように隙間時間に雑談を行うという形ではなく、YouTuberの動画やLIVE配信を視聴するという外出自粛に合わせた形で雑談欲を満たしているのが特徴です。
▼雑談トレンドを盛り上げるYouTuberたち
リモート環境では多くの調査で動画視聴時間やスマートフォン使用時間が増加しているという結果が出ていますが、その流れを牽引するのがYouTuber立の存在です。
そんなYouTuberの中でも若者の間で最近人気度を挙げているのは以下のようなチャンネルで、どれも親しみやすいキャラクターが自然な形で雑談しているのが特徴として挙げられます。
・2021年8月度に一番多く登録者を伸ばした「平成フラミンゴ」
(チャンネル登録者数105万人)※2021年9月27日現在
・「大丈夫そ?」「してもろて」などの流行語の生みの親「パパラピーズ」
(チャンネル登録者数176万人)※2021年9月27日現在
その他にも「ウチら3姉妹」「ヒヨごん」など、日常生活にあったことを話す雑談スタイルのYouTuberたちがチャンネル登録者を多く伸ばしています。
彼らは流行りの食べ物をテーマとして雑談を進めていきますが、ここでの流行りの食べ物はあくまでも「雑談のお供」として存在しています。
そのため、フルーツ飴、地球グミ、フルーツサンド、マリトッツオ、ペッパーランチなどの食べ物の流行が目まぐるしく変わっているのも、トレンドを拡散するインフルエンサーであるYouTuberたちがトレンドフードを雑談のお供として消費しているからだと推察します。
▼長時間配信が魅力のVTuberたち
YouTuber以外にもこのリモート期間にさらに勢いを増して人気を博しているのがVirtual YouTuber(通称VTuber)またはVライバーの存在です。
ゲームをプレイしている様子を生放送で配信する活動をメインに行っている彼らもまた、若者の可処分時間の使い方としてコロナ禍で勢いを増した文化だといえます。
▼男性VTuberで初のチャンネル登録者100万人達成「葛葉」
↑動画配信時間は9時間1分
チャンネル全体でも3時間ほどの配信が基本
▼ゲーム全クリアまで追われない耐久配信が人気の「戌神ころね」
動画時間は10時間26分
チャンネル全体でも基本的に4時間ほどの配信時間
彼らもただひたすらにゲームを無言でプレイするのではなく、時には生配信に寄せられるチャットと会話をし、時には攻略法のアドバイスをもらい、時には視聴者の質問や相談にのる形で配信活動を行っています。
配信スタイルとしても朝や深夜など「いつ配信を除きに行っても配信が続いている」安心感や途中離席しても復帰しやすいゲームが選ばれている、作業用BGMとして利用するなどおうち時間を楽しくする要素がちりばめられています。
YouTuber×トレンドフードと同じように、あくまでもゲームは雑談をするためのネタとなっているので最新作が出るたびに、色々なゲームをプレイしている様子がVTuber配信のトレンドとなっています。
▼6時間越えにもかかわらず約30万再生の再生数「アンジュ・カトリーナ」
↑ゲーム配信ではなく雑談のみで6時間25分の配信
▼4時間半の雑談配信で70万再生「桐生ココ」
↑配信時間は4時間29分
また、上記のようにゲームプレイはせず、寄せられるコメントや事前にフォームなどで募集した質問のみで雑談配信をするVTuberもおり、再生回数も多いことから彼ら自身の人気と同時に長時間にわたる雑談配信を楽しむ人たちが多くいることが分かります。
▼今後のトレンド予測:雑談型SNSとメタバース
ここまではYouTubeという場所でこれまで日常にあった雑談がどのようにコロナ禍の生活に溶け込んだかを見てきました。
ここからは、次に雑談欲を満たすだろうと話題になっている「雑談型SNS」が今後若者の間で流行するのかどうかについてを見ていきたいと思います。
・ランダムマッチング方式の通話が特徴「Soul」
・「優しいSNS」がキャッチコピー「Gravity」
この2つのSNSに共通するのはフォロワー数など目に見える指標に重きをおくのではなく、性格・興味が近い人たちとつながるプラットフォームです。
どちらのSNSもアプリ開始時に性格診断テストを受け、その結果が近い人同士が同じグループに属したり、多くタイムラインに表示されたりと趣味の合う人たちと雑談するのが基本的な使い方とされ、Twitterなどのアプリで多く広告出稿されており徐々に話題化しています。
また、どちらも実写の顔写真ではなくアバターをもってコミュニケーションを行うメタバース的世界観を持っていることも特徴として挙げられます。
メタバースとは(Metaverse)
メタバースとは、多人数が参加可能で、参加者がその中で自由に行動できる、通信ネットワーク上に作成された仮想空間のことである。
出典:ZDNet Japan(https://japan.zdnet.com/glossary/exp/%E3%83%A1%E3%82%BF%E3%83%90%E3%83%BC%E3%82%B9/?s=4)
細田守監督作品「サマーウォーズ」や「竜とそばかすの姫」に描かれるようなアバターを持ち、仮想空間の中でコミュニケーションをとる世界を想像していただくのが分かりやすいと思います。
ただ、こういったメタバース的プラットフォームや雑談型のプラットフォームが日本で浸透しているかという点でいうと、あくまでも自身の体験ではなく、第三者的視点から鑑賞対象としてメタバースを感じているのが現状です。
局所的には任天堂ゲーム「あつまれどうぶつの森」やスマホゲーム「二ノ国:Cross Worlds」をプレイするなど一部メタバース的世界を体験しているものもありますが、会話量としてはチャットを中心としたコミュニケーションで挨拶レベルにとどまっています。
また、そういったゲームで会話する対象も全く見ず知らずの人と繋がるのではなく、ある程度現実世界や他の場所で交友関係の延長線として繋がっていくことが多いのも現状です。
そのためアバターをもち、性格診断の結果から生み出される世界の中でコミュニケーションを行う「雑談型SNS」などが ”今すぐに” 爆発的に流行する環境ではないと思います。
しかし、ゲームや映画などで徐々にメタバース的感覚でのコミュニケーションの素地が形成されつつあるのも事実です。今回見てきたようなコロナ禍で雑談欲に燃える人々が多くいるという環境が「雑談型SNS」などの新たなコミュニケーション手段への渇望を奮起させる追い風となる可能性も十分考えられるでしょう。
▼まとめ
今回の記事のまとめとしては、以下の通りです。
・コロナ禍の生活の変化が「雑談」という日常を非日常に変えてしまった
・人々は雑談を求めるようになり、所属している社会集団が家族や友人と比較的少ない若年層がその動きの中心に存在する
・「YouTuber×流行りの食べ物」「VTuber×ゲーム」という流行りの裏にも雑談要素の存在がある
・SNSの世界にも「雑談SNS」という枠組みで流行の兆しが見えるが、メタバース的世界観を自身が体験するコンテンツとして受容できるフェーズに到達するかがポイントとなる
おわりに
この記事を書いている最中に、緊急事態宣言の解除が発表されました。とはいえ、外出自粛の流れやリモート環境はまだまだ続くと思われます。
今回取り上げた「雑談」という流れの中で今後どのような動きがあるのか、まだまだ動向をウォッチしていきたいと思います。
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