「好き」の切り売りはできない

「好き」って気持ちは知ってるつもりだし、好かれる機会に恵まれなかったわけでもないんだけど、「好きだよ」と言われるとうまく次の言葉が出てこない。わたしが恋愛苦手だなーと思う理由のひとつです。

「好きだよ」と言われると、たいていは次に「君は？」と訊かれる。困った。「わたしも好き」って答えるのが一番丸いんだけど、それを言った後はなんか居心地が悪い。
その「好き」はわたしを振り回していたものじゃなくて、目の前のあなたを喜ばせるための「好き」。いつの間にか勝手にわたしの中に居座っていた「好き」じゃなくて、正しく応答するために作り出した即席の「好き」。「好き」がわたしのものじゃなくなって、安くて手軽なモノにすりかわってくような感覚が拭えない。ハリボテの「好き」に閉じ込められて窒息しそうになったとき、目の前の相手を急に見たくなくなってしまう。このやりとりを避けて通れないなら、運命の人と出会えたとして恋愛を続けられる自信はない。まして一生添い遂げるなんて無理。

最近気づいたことだけど、わたしの「好き」は特定の人に向き続けるものではないみたいだ。
「今の時間いいな」「あの子の今の顔、素敵だな」っていう瞬間に対する「好き」はあるけど、それは「あの子が好き」には直結しない。瞬間瞬間の「好き」がある程度積み重なったとき、初めて「あの子が好き」が立ち上がってくる。自覚してしまったが最後、あふれてきて歯止めが効かない。その状態がしばらく続いて「あの子が好き」が当たり前になると、好きってことを少しずつ忘れていく。積み重ねた「好き」が吹き飛ぶほど許せないことがあれば「嫌い」に転じていく。それは自分の人生を生きている限り仕方がない。過去の「好き」にしがみつくでもなく、同じ「好き」を取り戻そうとするでもなく、今感じている「好き」に正直でいるしかない。
少し目を離せば感じなかったであろう「好き」、少し時間が経てば忘れてしまうであろう「好き」。貯めておこうとすれば錆びるし、無理に引き出せば自分が嫌いになる。同じ人に自信を持って「好き」と言い続けることは難しい。だから、焦らず、もったいぶらず、意地を張らず、目の前の人と「好き」の瞬間をつぶさに共有したい。

そうなってくると、恋愛関係というものはわたしの「好き」とかなり相性が悪い。それでもわたしの中に恋としか呼べないような感情はある。「好き」に正直でありたいけれど、恋人間のお決まりの挨拶につぶされたくもない。そうすると、わたしと現在好きな人との間で恋愛関係のルールを捻じ曲げていくしかなさそうだ。
相当疲れるだろうけど、お互いに「好き」を共有できる瞬間がある限りは付き合ってほしい。

書いていて自分の面倒くささに驚きました。わたしが好きになった人、ドンマイ。