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アメジストの魚。

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アメジストの魚のまとめです。 宜しければプロローグからどうぞ。
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#雨

アメジストの魚。6-2

アメジストの魚。6-2

―恋は盲目。―
茅尋は私が思っているよりもあっさりとその言葉を肯定した。自分から言った言葉なのに、肯定されたことに対して居場所のない不快感が熱を帯びる。

「ねぇ、茅尋。」

駄目、君だけは。
もう狡い私を捉えてしまったんだから、君だけはちゃんと私を見て。視て。お願い。

「一緒に、」
「嫌だよ。」
茅尋が言葉を遮る。
寄せては返す波の音が僅かな沈黙を作った。

「…まだ何も言ってないじゃん。」

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アメジストの魚3-2

アメジストの魚3-2

「どうしたの、ずぶ濡れだけど…」
「急に雨降ってきちゃって。」

部屋にいて気が付かなったけれど、たしかに外からは雨のサーサーと降る音がする。

「待ってて、今タオル取ってくる」
「ごめんね。」

脱衣所にある収納ボックスからバスタオルを一枚取り出して玄関に戻る。

「はい、これ」
「ありがとう。」

「もし必要なら洗面台の所にドライヤーとタオル置いておいたから使って。それと僕のしかないけど着替え

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アメジストの魚1-1

アメジストの魚1-1

(雨か…。)

ぽたぽたと降り始めた雨粒が整然と並べられた白いタイルの上へ落ちていく。
次第に雨足は強くなり、避ける術を持たない僕はものの数分で濡れ鼠へと変身を遂げた。

頬を伝い、喉を伝う雫が瘡蓋の様になった皮膚を濡らす度にジクジクとした痛みが走る。

…これも症状の一つらしい。

数年前から発症した人魚症という病は着実に僕の身体を蝕んでいる。

進行するにつれて声が変わり、皮膚や一部の臓器は鱗

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