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天空の教室(信長編)

蘭丸が、エンマ大王からの書簡を開いた。

織田信長殿

未来の国から、子どもがお主に会いに来る。
相談したいことがあるそうだ。
丁重にもてなすように。

  エンマ大王

ほほう、おもしろいではないか。
ちょうど安土城も完成したところじゃ。記念に望みを叶えてやるのも一興。どんなことを言うのか、楽しみじゃのう。

しばらくしてやって来たのは、なんとも弱そうな小童じゃった。
「お前か、わしに会いたいと言っておるのは。今日は機嫌がよい。何なりと申してみよ。」
「強く、なりたいです。どうやったら、信長さんみたいに強くなれますか?」
「ふっ、おもしろい。ついてこい。」

天守の最上階に向かって、階段を上った。小童もついてくる。最上階の望楼で、あたりを見渡した。湖の水面が、近江の山々の緑を見事に映し出している。運のいいやつだ。こんなに天気のいい日にやって来るとは。

ふと見ると、目を見開いて真っすぐに前を向いている。

「ほう、こわくないのか。
強くなりたいと言うから、弱虫な小童かと思うたが、いい根性は持っとるのかもしれんな。ここに登れば、遠くまで見渡せる。あの山、あの谷の向こうにも、まだ先が広がっておる。強くなりたいなら、遠くを見るんじゃ。高いところから、ずっと遠くまで。人間なんて、ここから見たらちっぽけなもんじゃ。目先のことしか見えんやつは、どんどん気持ちも縮こまる。気持ちが小さくなったら、負けたも同然じゃ。」

鷹を呼ぶために、右のこぶしを突き出した。いつものように、空を横切ってわしの手に止まる。
「こいつなら、もっと遠くまで見渡せる。さぞ気持ちよかろう。以前、ポルトガルの遣いが、地球儀なるものを持ってきた。この国は、ちっぽけな島国らしい。海の向こうに、まだまだとてつもなく広い世界があると言うのだ。わしは見たい。この足で歩きたい。そこに住む人間と話がしたい。ちまちまと立ち止まっとる暇なぞない。そう思うと、身体の奥から力がみなぎってくるもんじゃ。」

わしの話が届いとるのか、それとも、こやつ自身が自分で何かを感じ取ったのか、目に力が宿ってこぶしを握りしめておる。
「なんじゃ、表情が変わってきたのお。こぶしも握りしめて。おぬしの心にも火が付いたようじゃの。いいか、今の気持ちを忘れるな。強くなりたいなら、遠くを見ろ。その先に何があるか、想像するんじゃ。ちっぽけなことに惑わされとる暇はないぞ。」

わしとしたことが、しゃべり過ぎたかもしれんな。こやつを見ておると、懐かしいことを思い出したわい。
わしの小さい頃、よく木のてっぺんに登っておった。できるだけ高い木を探して。遠くまで見渡すと、くだらんしきたりなぞ、どうでもよくなってくる。新しい時代を、空が、山が教えてくれる。わしは、そうやって強くなってきた。
こんなことを思い出すと、情も湧くもんじゃな。エンマがよこした小童でなければ、召し抱えてみたい。未来の国に返すのが惜しいのお。

「わかったか。強くなるんじゃぞ。」
「はい、信長さん!ありがとうございました!」

今回の話は、 #こんな学校あったらいいな で書いた作品を、信長目線で書いたものです。少年目線の原作は、こちら。併せて読んでもらえると嬉しいです。


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