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自分がプレーするのとはまた違った感動が味わえる【推しスポーツ】

このメンバーで出場できるカップ戦も、最後の大会になった。これが終わったら、あとは中総体だけ。そして、僕たちは引退する。

中学生になって、選んだ部活はソフトテニス。今までやったことないけど、なんかおもしろそうな気がして、双子の弟の涼太と一緒に入部した。1年の時には、10人だった同級生は、2年の時に宮部が転校してきて11人になった。試合の団体戦の時には、そこからレギュラー組6人が選ばれる。

小学生の頃からテニスクラブに通っていた西本と柳原は、さすがに最初からレベルが違った。先輩たちにも負けないようなサーブを打つこともあって、ずっと同級生の中心的な存在だった。
今村と小川は、城東小学校から来た2人。保育園からずっと一緒だったようで、すごく仲がいい。最初は2人ともチビだったのに、今村はどんどん背が高くなった。それにつれて、ボールを打つ力も強くなっていった。鋭いレシーブが持ち味だ。小川は、見た目も性格もおだやかなやつで、とにかく安定感がすごい。落ち着いたプレーで丁寧にボールを返し続けて、そのうち相手がミスをする。
中野は、頭脳プレーが得意。相手の裏をつくところにボールを打てるから、見ていて気持ちいい。プレーの手本にしたいタイプだ。
豊田は、波に乗ると強い。背が高くて声がでかいから、「よっしゃー!」と叫んで大きくガッツポーズをする姿は、相手チームにプレッシャーを与えているはずだ。誰も勢いを止められない。でも、ちょっとしたミスで崩れることがあり、表情に出るからすぐばれてしまう。そこを突かれると、立ち直れなくなるのが弱点だ。

2年の後半には、西本、柳原、今村、小川、中野の5人が、レギュラー組としてほぼ確定していた。豊田は、調子がよければレギュラー組だけど、調子が悪い時には宮部が選ばれていた。
あとのメンバー、山下、加藤、そして、弟の涼太と僕は、準レギュラー組。練習には真剣に取り組んでいたつもりだけど、次第に力の差がハッキリとしてきて、どこかで諦めていた。そりゃあ、試合には出たい。そのために毎日練習をしている。でも、団体戦で勝つためには、強いやつが出た方がいい。

最初は区大会で負けっぱなしだったこのチームも、西本と柳原が引っ張ってくれて少しずつみんなが強くなっていくのを感じていた。2年生最後の大会では、準決勝で負けたけど3位決定戦で勝って3位。初めて賞状をもらった。自分が出なくても、こんなに嬉しいんだと感動した。記念撮影の興奮は、今思い出しても心が躍る。その時の副賞のソックスは、お守りであり、勝負ソックスになっている。

その勝負ソックスで臨んだカップ戦。この大会では、レギュラー6人に補欠4人を加えて、合計10人が出場選手に登録される。誰が選ばれるかは、その場で発表される。
発表の瞬間に決まるのは、出場する10人と、選ばれない1人。

先生が、名前を呼ぶ。
「1番手は、西本、柳原。」2人が返事をする。
「2番手は、今村、中野。」
「3番手は、小川、豊田。」
いつものメンバーだ。

「あとの4人は、宮部、山下、加藤、涼太。以上。」

呼ばれたのは、涼太。僕は、選ばれなかった。

その瞬間、ぐっと息が詰まって、体が固くなった。目をつぶって、歯を食いしばったけど、涙がこぼれるのを止められなかった。予想していたから、そうなっても笑顔でいるつもりだったのに。
すぐに隣に来て、肩を組んでくれたのは、柳原だった。柳原はチームの雰囲気をよくしてくれる存在で、いつもおもしろいことを言って笑わせてくれる。失敗した時には、「ドンマイ、ドンマイ!前よりスイング良くなってるよ。もう一歩踏み込んだらいい球打てるって。」と、前向きな声をかけてくれて、何度救われたか分からない。この時は、何も言わずに肩を組んでくれたことが、余計に嬉しかった。変に励まされても、どんな顔をしていいか分からないから。
中野が、タオルを手渡してくれた。クールだけどやさしいやつ。ありがとうの言葉がでなくて、少しうなずいて受け取ったタオルをくっと丸めて涙を拭いた。

試合は3試合。
第一試合は、西本・柳原ペア、今村・中野ペア、小川・豊田ペアが出場した。うちのチームのベストメンバーだ。だけど、この日の豊田はなかなか調子が上がらず、小川が打ち返しても豊田を狙われて結局負けてしまった。
勝てたのは西本・柳原ペアだけ。結果、1勝2敗で負け。

第二試合は、豊田に代わって宮部が選ばれて、西本・柳原ペア、今村・宮部ペア、中野・小川ペアの組み合わせになった。宮部のプレーからは、このチャンスをつかみたいという気合いが伝わってくる。いつも以上に輝いていた。その勢いが他のみんなにも伝わったからなのか、この試合は3勝で勝ちをつかんだ。

第三試合には、山下、加藤、そして涼太も出場した。
まずは、西本・柳原ペアが、二試合目の流れに乗ったままストレート勝ち。
山下・加藤ペアは、試合の雰囲気にのまれたのか、動きが硬い。こちらは、ストレート負けをしてしまった。
最後は、小川と涼太のペア。安定感のある小川と組めて、涼太も余計な緊張はしていないように見える。危ない場面で小川が拾ってくれると、次に来たボールは涼太がラケットの中心で捉えて、そのまま相手コートの右隅に突き刺さった。「よっしゃー!」僕もガッツポーズで喜んだ。
取って、取られて、を繰り返しながら、最後は小川と涼太の粘り勝ち。2勝1敗で、試合に勝った。

試合後のあいさつを済ませると、「やったー!」とこぶしを突き上げて涼太が戻ってくる。今までで一番の笑顔だ。いつの間にか、僕も涼太に向かって走り出していた。



毎週テーマを決めて共同運営を続ける日刊マガジン『書くンジャーズ』。
今週のテーマは、【 推しスポーツ 】です。

「これだ!」と閃いたのは、子どもの部活。

長男は、中学時代にソフトテニス部に入りました。長男も、そして僕も、それまでに一度もやったことがないスポーツです。ルールがなんとなく分かるくらいで、ラケットを握ったことすらありません。
最初の試合は、ぼろ負けでした。でも、楽しそうにしてるからそれが一番だと思いながら、仕事が入らない日に試合があれば家族で応援に行っていました。
それが、他のパパさんママさんたちからルールを教わりながら、回を重ねていくうちに、おもしろくてたまらなくなりました。試合の一球一球にハラハラし、勝てば嬉しい、負ければ悔しい。我が子以外のメンバーにも愛着がわき、ナイスプレーには思わず声が出ます。コート、ベンチ、応援席が一体になる瞬間にも大興奮。身体の成長だけじゃなく、選手としての成長する姿には、自分がプレーするのとはまた違った感動が味わえました。

ということで、特定の競技と言うよりも、『子どもの部活』が、僕の推しスポーツです!

今回の物語は、息子たちの試合を観戦していく中で、悔し涙にもらい泣きしたシーンをヒントに書いたものです。登場人物はすべて架空の名前にしています。どこまでが実話で、どこからが空想なのか、分からないような仕上がりになりました。それぞれの青春時代と重ね合わせながら、楽しんでもらえたら嬉しいです。

毎週テーマを決めて共同運営を続ける日刊マガジン『書くンジャーズ』。
今週のテーマは、【 推しスポーツ 】でした。

思い出のシーンのあの表情が浮かんでジーンとしているのは、土曜日担当の吉村伊織(よしむらいおり)です。

今週も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

メンバーみんなのnoteも、忘れずチェックしてくださいね。

それではまた、お会いしましょう。

※illust by:IWOZONさん / イラストAC

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